企業に求められる環境との向き合い方
紙製品の製造販売会社と森林保全団体が共同でつくった「紙のゴミ袋」が話題になっている。いったいどのようなものか。大昭和紙工産業の齊藤了介(さいとう・りょうすけ)さん、一般社団法人more treesの水谷伸吉(みずたに・しんきち)さんに話をうかがった。
間伐材を用いてポリ袋の代わりを
一般社団法人more trees(モア・トゥリーズ)は、日本の森林保全活動のほか、国産材を活用した商品やサービスの企画開発などを行ったりする団体。音楽家の坂本龍一氏が代表をつとめ、細野晴臣氏や高橋幸宏氏、中沢新一氏、桑原茂一氏らが発起人となって2007年に設立された。「都市と森をつなぐ」をキーワードに、「森と人がずっとともに生きる社会」を目指したさまざまな取り組みを行っている。
こうした活動の一環としてリリースされたのが、「more trees paper bag(モア・トゥリーズ・ペーパー・バッグ)」。これは、日本の森林資源を材料とした紙のゴミ袋である。
制作を担当したのは、紙製品全般の製造販売を手がける大昭和紙工産業。紙袋業界で大きなシェアを誇り、剥がせるポリフィルムが付いた「脱皮袋」や、世界一高価なボックスティッシュとしてギネスに認定されている「十二単」など、ユニークな製品でも注目を集めている。
両者が手を取り合う背景はどんなものだったのだろうか。
more trees事務局長の水谷伸吉さんは「木材自給率の底上げのためには、木材だけでなく、紙の利用も国産化していく必要があるんです」と語る。
「日本は森林大国であるにもかかわらず、紙の原料であるパルプ材の大部分を輸入に頼っていました。こうした現状をふまえて、more treesが国内に展開する『more treesの森』から産出される国産材を活用し、中越パルプ工業さんの協力のもと『more trees paper』という紙をつくってきました。これを紙袋に加工できれば、みなさんにもっと森林を身近に感じてもらえるんじゃないかという思いがあったんです。そこで、飲食からアパレルまで多くのチャンネルをお持ちの大昭和紙工産業さんに相談しました。大昭和さんの力を借りることができれば、我々が直接リーチできないところにもアプローチできるからです」
大昭和紙工産業で代表取締役社長をつとめる齊藤了介さんは、近年、環境問題への関心から「紙で環境対策」室を立ち上げ、環境保護という視点で紙袋の拡販に力を入れていた。そのため、水谷さんからの相談には即答で賛同したという。
「環境問題への関心が高まったのは、分解されることのないプラスチックごみによる海洋汚染問題を目の当たりにしてからです。以降、我々は単なる紙袋屋ではなく『環境問題解決カンパニー』になろうと決めました。国産材を活用してポリ袋の代わりをつくることができれば、紙袋を媒介にすることによって、森と海という二つの環境問題へアプローチできると考えたんです」
環境問題の一丁目一番地として
もちろん、ゴミ袋をポリから紙に変えただけで地球環境が劇的に変わるわけではない。しかし大きなきっかけにはなりうる。齊藤さんは「これは意識改革の一丁目一番地」と語る。
「コンビニでレジ袋をもらう時、スプーンやフォークなどを一緒にもらうことがありますよね。有料化前は、そうしたカトラリーを袋から出しもせずに捨てることがありませんでしたか? それはさすがに無駄じゃないだろうか、レジ袋って本当に必要なのだろうか、そんなふうに想像が膨らむとしたら、これが意識を変える原点になるかもしれません」
「重要なのは」と水谷さんも続ける。「精神的にもサステイナブルになることです。エコって、抑制する動きが多い気がするんです。節水しましょうとか、牛肉を食べるのは我慢しましょうとか、車に乗らないで一駅分歩きましょうとか。でも、日本の木材資源は非常に充実していて、しっかり使っていくことが許されている領域です。抑制ではなく、むしろ積極的に生活の中に取り入れていくことが求められているんです。消費者に我慢を強いたり、物欲を否定したりするものではありません」
むしろ、ある意味では物欲を刺激されるかもしれない。more trees paper bagは、従来のゴミ袋のイメージからはほど遠い。水原希子が代表をつとめるOffiice Kiko監修のデザインはかわいらしく、まるでショッパーのような見た目で手に取りたくなる。
もちろん、ポリ袋にも利点はあるだろう。安さや軽さ、雨に濡れても大丈夫な点など。それらを否定してすべて紙袋にすべきと言っているわけではない。水谷さんは「ベストミックスを探りたい」と語る。
「森のために無理やり木材を取り入れるのではなく、あくまでも自然に生活に取り入れることが重要です。森の論理を都市に押し付けるのではなく、都市側もハッピーになる方法を考えなければいけない。自分のためにやったことが結果的に森林や地域のためにもなる、それがWOOD CHANGEだと思っています」
すべての経済活動は自然資本が前提
では、これからの企業に求められている環境との向き合い方とはどのようなものだろうか。
齊藤さんは「それぞれがやれる範囲で、やれることをやっていくことが必要」だと語る。
「みんなが情報を得られる世の中になり、地球の小ささがわかったと思うんです。以前は自分の周りしかわかっていなかったから、その少し先をゴミ捨て場にしても気にならなかった。しかしここまで世の中が可視化され、地球の小ささが見えてしまったら、これを守っていかないといけない」
水谷さんは、SDGsの観点から次のように説明する。
「SDGsの概念を表す『ウェディングケーキモデル』という構造モデルがあります。これは、地球環境の基盤があることで社会や経済が成り立っていることを説明するモデルです。たとえば、自然環境とは一見縁が遠そうなイベント会社であっても、台風が来たらイベントの開催ができなくなるかもしれません。すべての経済活動の根っこには自然資本があるんです。そこに目を向けていただきたいです」
金融だろうと、ITだろうと、エンタメだろうと、あらゆる経済活動は自然資本を前提としている。考えてみれば当たり前のことかもしれないが、誰もが自然環境の恩恵を受けて社会・経済活動を行っていることを思い出し、それぞれができる範囲でやれることをやっていく、そしてその積み重ねがエコになる。
WOOD CHANGEとは、こうした当たり前の認識を取り戻すことなのかもしれない。