ファッション×ゴミ拾い
水原希子が楽しむ「一歩先のゴミ拾い」とは

自己犠牲や節制のイメージが伴うゴミ拾いやボランティアが近年変化してきている。本当の意味で持続可能なNPO団体・green bird(グリーンバード)とモデル・俳優の水原希子(みずはら・きこ)さんの最新プロジェクトをレポートした。

「やり始めると、楽しくて夢中になっちゃう」

9月のとある朝。小雨がぱらつく原宿駅で、いつものようにgreen birdの表参道チームが清掃活動を始めた。green birdは、日本全国・世界各地で80チームを拠点に、ゴミ拾いを通じて人と人をつなぎ、コミュニティ・街づくりを行う団体。15人ほどの集団が緑のビブスを着て、軍手に紙袋とトングを持ち、ゴミ拾いをする。そのなかに、水原希子さんの姿があった。

水原さんがgreen birdの清掃活動に参加するのはこれが初めてではない。かねてより環境問題に関心を持っていたという。

「ファッション業界では今、環境問題はすごく大きなトピックです。自分がひとつのショーに出ることによって、知らないところで物凄い環境破壊に加担しているかもしれない。でも、調べれば調べるほど複雑で、何が正しいのかわからなかった。だからまずはゴミ拾いから始めて、どんなものがどれくらい捨てられているか知りたかったんです」

実際にゴミ拾いを始めてみると、これが結構、楽しいという。

「こんなところにもある!とか、こんなゴミも出てきた!とか驚きがあります。なかには何年も潜んでいるゴミもあるし、もう徹底的にゴミを排除してやろう!という気持ちになってきて、夢中になっちゃうんです」

参加者たちとの会話を楽しみながら、地面に落ちた煙草の吸殻を拾い、濡れた落ち葉をかき分けて古いゴミを拾う。その姿は、ボランティアというよりはむしろ友達と遊んでいるかのようだ。

紙でできた、捨てるのがもったいなくなるゴミ袋

水原さんが抱えている紙袋は、彼女が立ち上げたプロジェクト「OK」のプロデュースによるもの(制作は森林保全団体のmore treesと紙製品の製作販売を行う大昭和紙工産業)。アパレルの買い物袋のように見えるが、実はこれ、ゴミ袋である。

原宿で拾ったゴミをこの袋に入れる。傍目に見たら、ゴミ拾いの集団には見えない。セール帰りの買い物客と見間違えてしまう。

イラストはanna watanabeが担当した。ピースフルな絵に特徴があり、ゴミ袋として捨ててしまうのはちょっと惜しいくらいだ。

「わたしからanna watanabeさんには『木をきちんと伐採して良いサイクルをつくることで森が豊かになる、ということが伝わるようにしてほしい』とお願いしました。それがよく伝わる絵を描いてくれたのですごく気に入っています。切り株と成長した木、そしてその周りに生き物がいることがポイントです。日光が当たって快適になり、動物も少年もハッピーであたたかい雰囲気ですよね」

海外では近年、過度な森林伐採や大規模な山火事などが問題になっているが、日本の場合は少し事情が異なる。日本では木が伐りどきを迎えており、むしろ木を適切に伐ることによって森が育つ。この事実は、森林や木材について知識がある人にとっては常識かもしれないが、実はまだあまり広く知られていない。

水原さんも、wood changeプロジェクトがきっかけでこのことを知った。

「最初に聞いた時は驚きました。木はたくさん植えて大事にすべきだと思っていたから。でも話を聞いて納得しました。木は、老木になると二酸化炭素を酸素に変える働きが弱くなる。日光が当たる面積が狭くなると光合成ができなくなる。日光が土まで届かないと下草も育たなくなり地滑りの原因にもなってしまう、などなど……。そういった知識がなかったのでとても勉強になりました。ただむやみに生やせばいいのではなく、伐って、使って、また植えて、というサイクルが必要なんですね」

世界から一歩先に進んだ、おしゃれなゴミ拾いへ

この新しいゴミ袋が誕生したきっかけは、2019年に日本で開催されたラグビーのワールドカップだった。green birdは当時、各会場に出向いて、ラグビーボールの柄がデザインされたゴミ袋を配布。ゴミを入れたあとに両端を結ぶとラグビーボールになるという仕掛けである。

非常に話題を呼んだゴミ袋だったが、green bird代表の福田圭祐(ふくだ・けいすけ)さんは「あのゴミ袋にも問題はあった」と語る。

「海外からのお客さんにこう言われたんです、『なんでゴミを配っているんだ? これはプラスチックじゃないか』と。たしかにそうでした。日本はゴミの回収には力を入れているけれど、そもそもゴミを出さないことにもっとフォーカスしなければいけないのではないか。僕らが普段使っているゴミ袋も、なんらかの形でリニューアルしなければいけないのではないか? そういった問題意識が強くなっていきました」

しかし、何をどう変えればいいのだろうか――問題意識を抱く段階で踏みとどまっていた時、wood changeプロジェクトに出会った。そうして紙のゴミ袋をつくることになった。

「まさにこれは、やりたかったことのひとつでした。僕らは『紙を無駄遣いしてはいけない』と習ってきた世代なので、ゴミ袋を紙に代えられるなんて思ってもいなかったんです。もしそんなことができるなら、ぜひこのプロジェクトに参加してみようと思って」

ちょうどその頃、水原さんからgreen birdの活動に参加したいとの連絡が。水原さんとも同じような課題意識を共有していたため、デザインを「OK」に依頼することになった。

「このゴミ袋ができたことによって、ゴミ拾いは一歩先に行った感じがします。耐久性の問題など課題はありますが、まるで買い物をしている感じでゴミ拾いができてしまう。もしかしたらショッパーかなと思われてしまうおしゃれなゴミ袋は、クールでカッコ良くおしゃれにゴミ拾いをするという僕らのコンセプトとも一致します。世界中見渡してみても、紙袋でゴミ拾いをやっている人はいないはずです」

「やっていると偉い」対象でなくなるように

green birdの活動に参加して以降、水原さんは「下を見る機会が増えた」という。

「これまで気付かなかった街のゴミに気付くようになったんです。たぶん、ポイ捨てする人たちには悪気があるわけではなく、無意識で捨てていると思うんです。その無意識を少しでも変えられたら。また、このゴミ袋に注目してもらうことで、日本の森林が置かれている状況を知るきっかけになったら嬉しいです」

おそらく、環境保護のために誰もが大きな犠牲を払う必要はない。たとえば、少し目線を変えて「下を見る」機会を増やす。あるいは、日本の森林について知ろうとする。それだけで世界の見え方は変わってくる。

「自分のできる範囲で、ストレスがたまらない程度で、最低限できることをやれればいい」と水原さんは語る。

「それをやるのが偉いのではなく、もっと自然で感覚的に、普通に生活に組み込まれていくことが理想だと思います」

SUSTAINABLE DEVELOPMENNT GOALS

SDGsとは、2015年の国連サミットで定められた「持続可能な社会を目指すための世界共通の17の行動目標」です。2030年を目標とし、より良い社会の実現へ、世界が同じ方向に向くための「道しるべ」として定めたものです。

大切なのは「植える、育てる、収穫する、上手に使う」という森のサイクル。あなたの意識が変わることによって環境をよりよくすることにつながっていきます。

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