森林体験ツアーイベントレポート
東京都の最西端に位置する檜原村(ひのはらむら)。2022年10月15日(土)、総面積の約93パーセントが森林というこの村で、伐採見学や木工体験を通して林業の現場を知るイベントを開催しました。木を育て、森を手入れし、やがて伐採し、また苗を植える― 木材の「サプライチェーン」を実感することで、木を暮らしに取り入れるウッド・チェンジのきっかけとなりました!
当日のタイムスケジュール
9:30 |
JR武蔵五日市駅 集合 アウトドア森林フィールド「MOKKI NO MORI」へ移動 |
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10:10 | 森林散策~伐倒作業の見学 |
12:00 | 昼食・スプーンづくりワークショップ |
14:00 | 払沢の滝ハイキング |
15:30 | 解散 |
森を歩き、森を感じ、森を知る
武蔵五日市駅からバスに揺られること約30分。細い山道を進み、到着した先は檜原村の山中にあるアウトドアフィールド「MOKKI NOMORI」。地元の林業の会社「東京チェンソーズ」代表の青木亮輔さんをはじめスタッフの方が、総勢25名の参加者の皆さんを出迎えてくれました。MOKKI NO MORIは東京チェンソーズの社有林。敷地内の森や、木材を運び出す作業道は同社が整備しています。
朝まで降っていた霧雨のせいか、しっとりとした緑をたたえる樹々。すがすがしい大自然の中、青木さんのガイドによる森林散策がスタート! 目前に迫りくるように佇む近隣の山を背に、青木さんが語り始めます。「皆さんの目の前に緑がまぶしい山々が広がっていると思います。実はほとんどが『人工林』という植えられた木になります」 戦後、復興用材として日本全国の山に植林されたスギやヒノキ。しかし、海外の木材が入ってくるようになると多くは伐採されないまま、いまや戦後最大の蓄積量にまでなっているのだとか。
切られることなく放置された樹々が森の荒廃につながっている。このことがいま、日本の森林にとって深刻な問題になっています。
一方、MOKKI NO MORIに入ってみると荒廃とは無縁な様子。枝葉の間から光が入り、木の間を風が抜けます。青木さんが子供たちに問いかけます。
「ここにヒノキがいっぱい生えています。ヒノキは何か考えごとをしていると思いますか?」
「していないんじゃない?」と首をかしげる子供たち。
「していないと思いますよね? しているんだなぁ、これが(笑)」
聞いていた大人の参加者も思わず笑顔に。
「上を見ていただくと葉っぱ同士がぶつかりあっているのがわかりますか? 実はこれ、一回間伐をしています。間伐前は葉っぱがもっとぶつかり合っていました。人間の世界でいうと超満員電車ですね」
超満員電車のように密集した森では、「木は『根っこを張らなくたって、隣同士支え合っているのだからいいじゃん』と思っちゃうんです」と青木さんは言います。根を張ることをやめた木は、光を求めて上へ上へと伸びていく。結果、足元の不安定な細長い木となり、台風などで倒れてしまうことがあるのだとか。
間伐をすることで、木は「根っこを張らなきゃ倒れちゃう」と考え、根を張り直すようになるという青木さん。ただ、間伐のメリットはそれだけではないのだとも。それは、森に日光が差し込むことで樹々の周りに草花が育ち、虫や鳥がやって来て、さらに多様な植生が育まれるということ。
「間伐をしっかりしてあげれば、森の生態系は豊かになっていくんです」(青木さん)
確かに、目の前の樹々の足元では植物が生き生きと葉を広げていました。
作業道をゆっくりと歩きながら、青木さんは森や木、自然にまつわる話をしてくれました。弥生時代から日本人の暮らしに寄り添ってきたスギについて。MOKKI NO MORI内トイレの、排泄物を微生物の力で分解して「大地に返す」仕組みについて。また、「和製ハーブ」と呼ばれるクロモジを見つけた時には、葉を摘み、みんなですがすがしい香りを楽しみました。森を歩き、森を知るほどに、参加者の皆さんはリラックスモードに。こうして、一行は木の伐採現場に到着しました。
ダイナミックかつ繊細! 樹齢70年の木の伐採
伐採現場は樹齢70年ほどの森。道を挟んで向かい側の斜面ではまだ小さな木の苗木がすくすくと育っていますが、伐採現場の奥は少し暗い様子。伐採を担当した東京チェンソーズの飯塚達郎さんによると、今後さらに間伐を進め、残した木が太く育つようにするのだそう。木を伐 る時の服装や道具などについて話した後、森の中へ入って行った飯塚さん。伐採する木の傍らで、オレンジ色のヘルメットが幾度となく上を見上げています。「間伐は難しいんです。立っている木の間に倒さなきゃならない」と青木さん。針に糸を通すような正確なコントロールが必要だと言います。
木を伐
る時はまず、伐倒側に三角形の「受け口」を入れます。飯塚さんが「パックマン」と表現した受け口は、木が倒れる方向を決定づける重要な役割を担います。飯塚さんが何度も上を見たり方向を確認したりしたのは、受け口を作る場所を決めるためだったのです。やがて「ブオオオオンッ」というチェーンソーのエンジン音が響き、木に刃が入れられました。
しばらくするとチェーンソーの音が止み、あたりはまた、しんと静かに。今度は受け口とは真逆側から刃を入れ「追い口」を作ります。この時のポイントは「切りきらない」こと。受け口と追い口の間である「ツル」を少し残すことで、ツルがドアの蝶番(ちょうつがい)のような支点となり、木が狙った方向へ倒れていくのだそう。再び慎重に周囲を確認した飯塚さん、先ほどとは逆方向からチェーンソーの刃を入れていきました。それからほどなくしてエンジン音が止むと、今度は「カンカンカン」という音が。少しずつ切り進めるため「くさび」という道具を追い口に差し込んでハンマーで打っていたのです。木の上がぐらりと揺れ始めた次の瞬間、ツルがメキメキメキッと大きな音をたてて割れ、重量が1トン近くあるという木が狙った場所に見事に倒れていったのでした。
じっと見つめていた参加者の皆さんから漏れる「すごい…」という感嘆の声、そして拍手! 大きな木が倒れる迫力もさることながら、伐採には高い技能と豊富な経験が必要だと実感したのでした。
端材を利用! ぬくもり感じる木のスプーンづくり
お昼前に降り出した雨が激しさを増したランチタイム。お弁当を食べ終わったら、いよいよ木のスプーンづくりです。
実は一本の木から木材になるのはわずか25パーセント程度。今回のワークショップでは、従来捨てられてしまうことが多い端材を活用。あらかじめスプーンのかたちに削られたヒノキの端材に紙やすりをかけて滑らかにし、好きなかたちに整えます
端材から切り出したスプーンからはふんわりとヒノキの香りが。よく見ると、白っぽい木やピンクがかった木、年輪がはっきり出ている木など、それぞれ個性豊かです。
参加者の皆さんがスプーンを磨き始めた頃には雨が弱まり、やがて雲の切れ目からうっすらと空が見え始めました。皆さん、小屋のデッキや屋上、見晴らしのよいウッドデッキなど、好みの場所にイスを運び、無心でスプーンを削っています。
木のスプーンで何を食べるの?と聞くと「カレー!」と元気に答えてくれた男の子。一緒に参加したパパのスプーンとは違うかたちにしたいからと、時間をかけて柄のおしりを丸く整えていた女の子。磨き終わったらアマニ油を塗って、オリジナルスプーンの完成です! 世界でひとつの木のスプーンを手にした集合写真の撮影では、皆さんやわらかな笑顔を見せてくれました。
緑豊かな森を眺め、草木に触れ、においをかぎ、スプーンづくりで指を動かす。五感で、指先で、森を体験したプログラムは忘れられない思い出になったに違いありません。
木を切り、木を使うことで日本の森が元気に
世界では、熱帯地域を中心に森林面積が急速に減少していると言われています。それもあって、木を伐
ること、使うことは良くないことだと感じる人が多いのではないでしょうか。
日本の森林に目を向けると事情はまったく異なります。戦後に植林された大量のスギやヒノキはいま、伐採の時期を迎えています。「伐
って、使って、植えて、育てる」という森林資源の循環利用により森林整備を促すことで、木々に光が届き、根をしっかりと張った、土砂災害などの天災にも強い森林を育むことができます。
私たちにいま、できること。それは日本の木を生活に上手に取り入れること。国産木材の需要が増えることで林業が活性化し、森の手入れが行き届くようになります。また、使い時を迎えた木を伐採し、若い木を植えることで、二酸化炭素をたっぷりと吸収する森林が育ち、地球温暖化の抑制につながります。
そして、根をしっかり張った樹々が育つことで森林のもつ機能が適切に発揮されるのです。100年、200年先を見据え、木を切り、苗を植え、手入れをして、また木を伐
る。日本の森林を良い状態に保つうえで、このサイクルがとても大切なのです。
森で育てられていた木の苗木が立派な大樹となり、イベントに参加した子どもたちがおじいちゃん、おばあちゃんになる頃― 森には光があふれ、多様な動植物が生育し、そして街では木の建物や製品が人のくらしを豊かにする日本であって欲しいから。さぁ、生活に木のぬくもりを取り入れていきませんか。
のんさんにも
ワークショップ&森林体験ツアーに参加いただきました!
ちょっと歩くだけでいろんな植物のことが知れるし、
山には様々な歴史や背景が詰まっていることを目の当たりにできました。
伐倒も生で見れて感動しました!
「木を余すことなく使う」というコンセプトもとても重要だなと感じました。
スプーン作り、楽しかったです。