木と触れ合うことで育つ子どもの創造性とは
「屋内の森あそび体験『創・造・冒・険』」は、東京都内随一の大型「木育(もくいく)」テーマパーク。「子どもたちの日常に創造と冒険を」がコンセプトで、親子で木と触れあう機会を提供している。
森を再現したフロア、徹底した木へのこだわり
「ららぽーと立川立飛」にある『創・造・冒・険』は、あそびを自ら創造しながら冒険できる仕掛けが満載の遊具施設だ。約1,000平方メートルの広々したフロアには職人が一つひとつ手作りした遊具が設置され、木の魅力と楽しさを五感で感じることができる。2018年7月にオープンすると、室内にいながらにして森あそびを体験できる場所として評判を呼び、近隣だけでなく都外からも利用者が訪れるなど、大きな注目を集めている。
フロアは「森のゾーン」「川のゾーン」、幼児向けの「ハイハイゾーン」の三つにわかれている。いずれも自然の造形デザインした空間で、色彩までが樹木の色で統一されるなどこだわりが見える。
「森のゾーン」では、崖をイメージした「スライダー」や段差のある「岩山」など、全身を動かしてアクティブにあそべる木製遊具を楽しむことができる。広いスペースを走り回ったりかくれんぼしたりするなど、子どもたちの笑い声が響く。
「川のゾーン」では、約16万個の木玉で水場を表現した「じゃぶじゃぶ」をはじめ、なだらかな起伏を駆け抜ける「たいこ橋」、トンネル付きの階段を上がったり下ったりできる「トンネル橋」など、森の中の川辺をイメージした木製遊具を楽しむことができる。18種類の木からつくられた木玉は、それぞれ色も柄も重みも微妙に異なるこだわりようだ。
「ハイハイゾーン」は、木のトンネル「ハイハイトンネル」や、こちらも木玉が敷き詰められた「泉のほとり」など、18ヵ月未満の乳幼児が安心してあそべる遊具を楽しむことができる。
遊具に使用されている木材は全部で三十三種類。積み木ひとつをとってみても、樹皮はあえて残し、自然木そのままの形であそべるように設計されている。使用するにつれて皮が剥がれて徐々に丸みを帯び手の油で馴染んでいくので、独特の風合いが出る。
試行錯誤と遊びの価値
(株)プロジェット プランニングディレクターの原田眞希(はらだ・まき)さんは「外あそびにある環境を屋内で再現したかった」と語る。
「現在は、家の中で、スイッチひとつで愉快にしてくれるあそびがほとんどです。誰かが決めたルールの中であそんでいるわけですよね。しかし、そういう状況で創造性や想像力は本当に育まれるのでしょうか? もっと違うアプローチがあるのでは? そうした発想からスタートしています」
子どもはあそびの天才、と言われるように、本来はそこにあるものだけでじゅうぶんあそぶ能力を持っている。だが、従来の屋内遊具施設では、大人が先回りして子どもに情報を与えることによって子どもの自主性と創造性を押しつぶしてしまっていた。そうした問題意識があるからこそ、ここにはプラスチックや機械仕掛けのおもちゃや乗り物などはない。もちろんデジタルゲームや派手なキャラクターもない。子どもたちは自然の木材を使用して自ら考え、工夫してあそびを「発明」する。うまくいけば達成感を得られるし、失敗すれば「なんで失敗したんだろう」と考える。つまり試行錯誤が生まれる。これがあそびの価値だと原田さんは考えている。
先行モデルは宮城県・仙台市にある「木の室内創造あそび場『感性の森』」。子どもに備わっている感性を引き出すためのあそびを存分に体験できる木の施設は、宮城県内外のファミリーが多く訪れる人気スポットになった上、ウッドデザイン賞2017で「ハートフルデザイン部門 建築・空間分野」の優秀賞(林野庁長官賞)を受賞するなど、高い評価を受けた。このプロジェクトでも原田さんはプランニングを担当。同じコンセプトを首都圏でも実現させ、二つ目のモデルケースとなった。
あそびとは本来、飛んだり跳ねたり何かに挑戦したり、リスクが伴う。しかし、リスクとベネフィットは裏と表の関係にあり、リスクをすべて取り除いてしまうとあそびの価値も消えてしまう。だから「創・造・冒・険」では、あそびの価値に見合うだけのリスクを残している。
「木材でできているからぶつけたら痛いし、転んだら怪我をするかもしれません。そうした失敗の体験は成長の機会だととらえています。痛みを伴ったリアルな体験を持つことで人の痛みにも敏感になれるし、そうした試行錯誤の積み重ねは、子どもたちの生きる力につながると考えています」
自らあそびの価値を見出すために
現場を見て感じたことがある。ひょっとしてこの施設、子どもより親の方が楽しんでいるのではないか?
店長の三井亜由美(みつい・あゆみ)さんは「それは、おおいにあると思います」と笑顔で語る。
「特に、お父さんが全力で楽しむ傾向にある気がします。夫婦とお子さんでいらして、お父さんとお子さんがここであそび、その間にお母さんがお買い物を楽しむという光景はよく目にします。また、お孫さんと一緒に楽しめる施設としても人気です。おじいちゃんおばあちゃんにとって、目に優しくて細々していない施設は貴重なんです」
木と触れあい、森あそびを通して創造性や想像力、感性を養うことにはもちろんとても価値がある。だがそれだけではない。「創・造・冒・険」は、親子三世代や隣人とのコミュニケーションなど、昨今失われつつある人間の本質的な営みに立ち返らせてくれるのだ。それゆえ、自宅でも木と触れ合うためにグッズを購入していく人も多いという。
「積み木コーナーに親子ではまって、ツリーブロックスを購入されていく方も多いです。これは、2、4、6、8、10cmと倍数の厚みになっていて、数学的感覚に作用するものです。今後は自由工作などのワークショップをもっと増やしていければと思っていますね」
木育とは、近年注目されている木と触れあう教育活動。そもそも林業の盛んな北海道で生まれ、シンプルに「木と親しもう」というスローガン的な意味合いの強い言葉だ。「創・造・冒・険」のシンプルな木の遊具はそれ自体が愉快にさせてくれるわけではなく、自分で考えて試行錯誤して遊ぶ必要がある。つまり、誰かから与えられるのではなく、自ら努力してあそぶことで得られる体験や知恵が育まれていくのだ。大人から子どもまで楽しめる「創・造・冒・険」は、本質的に木育を体現した希有な施設と言えるだろう。