福島県は全国屈指のトマトの生産量を誇りますが、中でもいわき市は「トマトの名産地」として知られています。その理由は寒暖の差と日照時間。特に後者に関しては、トマト育成の鍵を握る大切な要素で、いわき市はトマトの主要生産地のなかでもトップクラスの日照時間を誇るのです。
そんないわき市でトマトを軸に様々な展開を行っているのが「ワンダーファーム」です。「コンセプトは農業と食の体験ファームです」。そう話すのは代表の元木 寛さん。その言葉通り、5haにも及ぶ広大な敷地にはトマト栽培のためのハウスを中心に、レストラン、BBQ場、売店などがずらりと立ち並びます。
福島生まれの元木さんは大手企業に勤めていたのですが、農家をやっていた義父に声をかけられ農業の世界に足を踏み入れました。「私の心の中にも、いつか福島に戻ってきたいという思いがあったんでしょうね」。もともとこのトマトファームは耕作放棄地だったそうですが、元木さんが地主や関係者に幾度となくかけあうことで実現させたのだそうです。
早速、トマト栽培の施設を案内していただいたのですが、ビニールハウス…ではなくドームとでも言いたくなるようなサイズ感です。そして、最先端のITを導入して水耕栽培を行っているところにも驚きました。「水耕栽培とは土のない栽培方法。栄養素、ハウス内の温度、湿度はすべてコンピューターで管理し、スマートフォン上でハウス内の状態をモニタリングすることも可能なのです」。
「ITは目的ではなくあくまで手段です。キツイ、儲からないというイメージのある農業をITの力で変え、多くの人が興味をもっていただけるようにしたいのです」。そんな思いが元木さんを支えています。トマトの品質へのこだわりは、「ごほうび」ではなく「常に食卓に並ぶトマト」。昨今、糖度の高いトマトが流行っていますが、「それもアリだとは思います」と前置きしたうえで「クセがないから長く食べ続けられる。そんなトマトを目指しているんです」と話してくれました。
視線を上に向けると、あちこちに黄色いものが目につきます。「これは虫をとるための粘着紙です。黄色なのは虫を寄せ付けるためなんですよ」。さらに農薬は一切つかわず、自然由来の微生物を葉に吹きかけることで病気を予防するなど、随所にワンダーファームのこだわりが散りばめられていました。
施設内には「森のキッチン」と名付けられたレストランがあり、ビュッフェスタイルで食事が楽しめます。ワンダーファームで採れたトマトはもちろんのこと、トマトをつかったカレーやピザといった、ここならではのメニューがいくつも並び、売店には生食用のトマトをつかったトマトジュースなどの加工品も。「次の目標はここに宿泊施設をつくること。農業の新しい価値をこのワンダーファームで発信していけたらと思っています」。トマトの聖地とでもいいたくなるような、トマトの魅力がぎっしり詰まったワンダーファーム。トマトを見て、触れて、食べれば、きっと今までにない発見があることでしょう。