「あんぽ柿は県北では定番の食べ物で、我が家では子どものころから当たり前のようにありましたね。
一般的な干し柿は大人になってから知ったんです」。そう話すのは菅野房吉商店の
4代目、菅野秀美さん。この会社では創業当初から県産品の卸をやっていましたが、
菅野さんは2006年から県産品にこだわったショッピングサイト「こだわり横丁ふくしまや」を設立。
あんぽ柿は「冬の看板商品」とご本人が話すほど人気なのだそう。
あんぽ柿は福島県北部の伊達市五十沢が発祥の地と言われており、まるでゼリーやようかんのようなジュージーさと芳醇な甘さをもっています。そんなあんぽ柿を特徴づけるのが「硫黄燻蒸(いおうくんじょう)」と言われる製法です。「一般的な干し柿が皮をむいて干すだけなのに対し、あんぽ柿は皮をむいてすぐに硫黄で約30分ほどいぶして殺菌するんです。これによってあの色鮮やかなオレンジ色とあんぽ柿ならではのジューシーな味わいが生まれるんですよ」。
あんぽ柿がつくられるようになったのは江戸時代。そのきっかけは村民のある発想からでした。「アメリカでは干しぶどうをつくるとき硫黄でいぶしている…という話を聞いた村民が、じゃあ柿でもできるんじゃないかと思い立ちはじめたらしいですよ」。
そうして誕生したあんぽ柿は、福島の厳寒な冬を乗り越えるため、そして今ほど食べ物が豊富でなかった当時において、さぞかし重宝されたに違いありません。
あんぽ柿につかわれるのは、蜂屋(はちや)と平核無(ひらたねなし)という2つの品種。前者が福島では定番の品種で肉厚で濃厚な甘さをもち、後者は種無しで上品な甘さとやわらかなくちどけが特徴です。ちなみに江戸時代に「天干柿(あまぼしがき)」と呼んでいたのがなまって今の「あんぽ柿」という呼び名におちついたのだとか。
そんなあんぽ柿の生産者である岡崎 靖さんはこの道約40年の大ベテランで、あんぽ柿発祥の地で年間170tもの柿をつくっています。その広さはなんと約4ha(約12,000坪)というから驚きです。「収穫時期はおおよそ10月末から11月末まで。収穫して少し熟成させたら、すぐに皮むき。このあとすぐに硫黄燻蒸しないと鮮度が落ちて黒くなってしまうので、時間との戦いですね」と話してくれました。
収穫からあんぽ柿ができるまではおよそ40日ほどですが、あんぽ柿が乾燥のためにつるされているオレンジ色の風景は圧巻です。
まるでスイーツなようなおいしさを持つあんぽ柿ですが、実はおやつ以外の食べ方もできるそう。「少し凍らせてシャーベット状にすればシャリシャリの食感が味わえますよ。おすすめはあんぽ柿をスライスしてクリームチーズと一緒にいただく食べ方。ワインのおつまみにもぴったりなんです」と菅野さん。スイーツとして、お酒のおつまみとして、そして贈答品としても。今年の冬はビタミン豊富で食物繊維もたっぷりな福島の「あんぽ柿」は、いかがですか。