2019/11/14更新
ウェブメディアの編集長で、ニューヨークと日本の二拠点で暮らす塩谷舞(しおたん)さんと、高校生の頃からYouTuberとして活躍し、自らファッションブランドも手がける大久保楓(ぷるこ)さん。こんなセンスの良さそうなお二人が、最近同じことに関心を寄せているという情報をキャッチしました。それは「サステナブル」。たくさんの消費を動かすインフルエンサーでもあるお二人は、なぜサステナブルな生産・消費に目を向け始めたのでしょうか? お二人の共通の友人でもあるエシカルファッションプランナーの鎌田安里紗さんを聞き手に、最近の変化や気づきについて聞いてみました。
オピニオンメディアmilieu編集長・文筆家 塩谷(しおたに)舞さん
プロデューサー、SNSコンサルタント、ディレクター 大久保楓(ぷるこ)さん
エシカル・ファッションプランナー 鎌田安里紗さん
鎌田 私は10年くらい、エシカルやサステナブルといったテーマに関心を持って情報を集めたり活動をしてきたのですが、最近今までとは違ったユニークな方法で発信や活動をされる方が増えているなと思っているんです。今回はそんな方々を代表して、「milieu」編集長の塩谷舞さんと、アパレルブランドのプロデューサーでデザイナーの大久保楓さんに来てもらいました。
私は楓ちゃんことぷるこちゃんとは半年前くらいから友人で、塩谷さん、通称しおたんさんとはリアルでは今日が初めましてなんですよね。SNS上ではつながっていたんですが、ちょうど帰国のタイミングで会いましょう、となって。
塩谷 まさかそれがこうした座談会の場になるとは(笑)!
鎌田 しおたんさんは「milieu」やTwitterなどで、素敵なクリエイターさんや、デザインも背景も美しいアイテムを紹介されていますが、「サステナブル」に限らず、しおたんさんが惹かれるものってどんな特徴があるんでしょうか?
塩谷 もともと美大出身なのでアートや工芸のフィールドで活動している人たちが身近だったのですが、作品でも、商品でも、ビジネスでも、何かに魂をかけている人に接すると、その営みをもっと知りたい、と思うんです。「嘘偽りなく生きている人」が好きで、そうした人のエネルギーをしっかり世の中に伝えていきたいですね。
鎌田 ぷるこちゃんはこの間二十歳になったばかりなんですよね。
ぷるこ そうなんです。高校生時代からYouTuberをしていて、18歳のときに自分のアパレルブランド「LOLIPOPKNIFETOKYO」を立ち上げました。
エシカルに興味を持ちだしたのはこの1年くらいですが、自分のブランドも生産から見直して、この秋に自分が納得できる形でリニューアルする予定です。それに向けて、アパレルとエシカルに詳しい人がいないかと探す中で安里紗さんのことを知りました。
鎌田 そもそも、お二人は「サステナブル」が自分ごとになったきっかけは何でしたか?
塩谷 私はそもそも、母が環境にも関心があったので、子どもの頃から石鹸シャンプーや、地球に優しい洗剤を使っていたり、庭にあるコンポストで肥料を作って果物や野菜を育てたり、それをジャムにしてお菓子にしたり……と、サステナブルな暮らしが当たり前にありました。ペットボトルは滅多に買わなかったし、お風呂ではリンスのかわりにお酢を使っていたこともあります。
鎌田・ぷるこ お酢!
塩谷 そう(笑)。でも、中学生のときに「塩谷の家はリンスがお酢らしいで!」って同級生にバカにされて……。洗濯洗剤も石鹸だから、私だけ体操服が黄ばんでいて、超からかわれたんですよ。それがすっごく恥ずかしくて。私だって、CMで流れてるオシャレなパッケージのトリートメントとか使いたい!お酢なんて嫌だ!!!って、結構ストレスだったんです。思春期ですしね(笑)。
だから就職して東京で一人暮らしを始めたころは、ドラッグストアで好きなシャンプーを選べる、お菓子も買い放題だって、うれしかったですね。
鎌田 そういう意識が変わったのは、なぜですか?
塩谷 最初のきっかけは、アメリカへの引っ越しでした。東京で6年しか住んでいなかったのに、モノの数がすごくて! 海外へ運ぶにもお金がかかるし、そもそもお金をかけてまで持っていきたいモノがどれくらいあるのかと、モノとのかかわりを見つめ直す機会になりましたね。そのときに人に譲ったりあげたりして、大幅にモノを減らしました。
2つ目が、アイルランドへの短期留学。ヨーロッパは特に環境への意識が高いらしく、スーパーや薬局でレジ袋なんてないのが普通。最初は不便だな、と思っていたのですが、ホームステイ先のホストマザーも、現地で親友になったファッションデザイナーの女の子も、日ごろからエシカルやサステナブルについて自分ごととして考えていたんです。
それに、ペットボトルを使い捨てしなくてもいいように、街のあらゆる場所でマイボトルに水が入れられるのが、普通に便利なんですよね。街全体の取り組みがとっても心地よかった。
そして3つ目は、ブルックリンの家の近所にあるパッケージ・フリー・ショップがとっても良い雰囲気だったこと。買ったものを包装しないのはもちろん、そこに売ってる商品は全て環境に配慮したものばかりなんです。洗って何度も使えるカミソリや、土に還る素材のiPhoneケース、ユーカリの葉で出来たグリッター*など。
*グリッター(ラメ)はプラスチックで出来ていることが多く、メイク落としする際にそのまま下水に流れてしまい、問題となっている
そこで、私の中のイメージが打ち砕かれましたね。例えば体操服の黄ばみを我慢するように、ダサさを我慢することがエコに配慮する条件だと思い込んでいたから、「えっ、このお店もここに来る人も、全然我慢してないじゃん!」と。新しい価値観に触れて、“エコ”のイメージが一気にポジティブに転換したんです。過去の呪縛が解けました(笑)。
鎌田 「エシカル」やサステナブルをうたう商品も、かわいくておしゃれなモノが増えていますよね。そういう流れが、しおたんさんのタイミングに重なった。
塩谷 「かわいくておしゃれ」というと少し軽く捉えられるかもしれませんが、消費を加速させるためのおしゃれなパッケージというよりも、サステナブルな暮らしの中にある美学に触れた気がするんです。
最近はモノを買うことが圧倒的に減ったのですが、それも「我慢」じゃなくて、私のスタイルだと捉えるようになり、ずっと気分が良くなりました。
鎌田 ぷるこちゃんはどういうきっかけで、サステナブルに関心を持つようになったんでしょう?
ぷるこ 私はしおたんさんとは全然違って、実家は特別エコ意識も高くなかったし、中学や高校でも環境のことなどを勉強する機会もほとんどなくて。正直、興味を持ったことがなかったです。それが一人暮らしを始めて、洗濯洗剤とかを自分で買うようになって気になり出したんです。
そんなとき、ひとつ大きなショックを受けたことがあって。それはテレビでドキュメンタリー映画『ザ・トゥルー・コスト』を観たことなんです。
2015年に米で制作された、アパレル業界の裏側と向かうべき未来を描いたドキュメンタリー映画。大量生産・大量消費の問題を軸に、環境汚染や貧しい国での労働者の搾取などを掘り下げている。
鎌田 あれは衝撃的ですよね……多くの人に影響を与えたドキュメンタリーだと思います。
ぷるこ 私は前提知識が全然なくて、ある夜にたまたま時間があったから観ようかな、と思ったらあの内容だったから、その晩は寝られなかった。ファッションの裏には私の知らない負の部分がこんなにあったんだ……って。
そのときにはもう自分のブランドを立ち上げていたので、あんなに服が捨てられてるなら、私だって『服をつくってるのかゴミをつくってるのかわからないな』って思いました。貧しい国で、労働環境が酷すぎるところが多いということも知らなかった。
それをきっかけに、自分のブランドも生産現場や環境への影響をいちから見直そうと思うようになったし、生活用品を買うのも、何も考えずにぽんぽん買うことに違和感を持つようになりました。
鎌田 SNSでも最近、サステナブルに関する話題を投げかけたりしていますよね?
ぷるこ そうですね。意識し始めると意外と「このアイスクリームブランドって100%オーガニックだったんだ!」みたいな発見があって。フォロワーのみんなもとてもポジティブに受け止めてくれて、「大学でこんな授業を受けたよ」とか私の知らない情報も教えてくれるので、同世代で話し合っている感じで楽しいし、勉強になっています。
私は逆に、知ったのが最近だから「エコ=ダサい」というイメージもなかったので、そこはむしろよかったかも。最近は環境に配慮した商品がたくさん増えてきているので、いいタイミングで興味を持てたなと思ってます。探せば商品の選択肢もたくさん出てくるし、情報もある。でも、情報がある分、迷ったりすることも多いです。
鎌田 そこですよね。私がエシカルファッションに関心を持ち始めた頃は、今より情報が全然少なくて、専門的な内容も多くてわからないことだらけだったけど、いまは逆に情報がすごく多い。調べると知らなかった問題も無限に出てきます。
情報が多いからこその難しさはあると思いますが、2人は最近、買い物するときにどんなことを考えていますか?
塩谷 難しいですよね。私はペットボトルは買わないようにしているのですが、先日ブルックリンのカフェでココナッツの実をまるごとくり抜いたドリンクが置いてあって。自然のものだし、いいかな? と思って飲んでいたんです。でもフォロワーさんから「それは南国からニューヨークまでの輸送にかかるエネルギーを考えるとエコじゃない」と言われてしまって……。
そうしたこともあり、深く調べもせず「この商品はエコだよ!」とSNSに書くと、誤った知識を広めかねない。そこは慎重になっているのですが、そんな中でも1つ言えるのはやっぱり、消費は減らせる! ってことですかね。
前は、ドラッグストアとかに行くと「この場所にはコレ!」みたいなうたい文句にあおられて、いろんなものを買っていました。でもふと、なんで私、こんなに何本も用途別の洗剤を持ってるんだろう……? 全部石鹸で良くない? って思ってきて(笑)。そうしたら、物欲がさっぱりなくなった。
鎌田 それは、どうしてなんでしょう? 無駄なものをどんどん買うのは環境によくないから、というだけでもなさそう。
塩谷 いままで必要だと思って買っていた多くのものは、実はあおられて買っていたんだと気づいたんですね。「これがなきゃダメですよ!」っていう広告とかパッケージに。
鎌田 この前、そういうプレッシャーについて記事を書かれていましたよね(「コンプレックス、プレッシャーから解放せよ」)。女性なら〇〇しなくちゃ、みたいなコンプレックスをつつく消費の動かし方が変わりつつあるし、変わってほしい、と。自分の消費の在り方を考えることと、広告の在り方や、商品の届け方を考えることは密接に繋がっていますよね。
塩谷 本当にそうですね。売る側も、全部が「あおろう」と思ってやっているわけではないと思うけど、消費者の側としてはそれに踊らされないようにしたい。自分が納得したものをちゃんと選びたいと思っています。
例えば最近毎日のように着ているジャケットは、さっきお話ししたアイルランドで親しくなったデザイナーのブランド「Álla Studios」のもので、オーダーメイドで作ってもらったんです。ぱっと見はレザーなんだけど、実は特殊加工をしたリネンでできている。動物を殺傷しない、ケミカルな素材を極力使わないというコンセプトに基づいて、丁寧につくられている。彼女の思想や、ものづくりの哲学に深く触れると、そうした一着を、長く長く着ることが素晴らしい、と思えるようになりました。ファストフッションで10着服を買うよりも、圧倒的に満足度が高くて。
鎌田 そういう商品があるって知っちゃうと、適当に買い物するのが悔しくなってきますよね。
ぷるこ 私はほんまに“物欲モンスター”で(笑)。小さいころからお買い物が大好きで、あれもこれも欲しくて何でもどんどん買っていました。iPhoneケースとかも、携帯は1個なのにどんだけっていうくらい持ってたし、サングラスだって、目は2つなのに……。
鎌田・塩谷 (笑)。
ぷるこ 服も、安くてかわいいファストファッションがありすぎて、たくさん買って自分の部屋がもうクローゼット状態(笑)。高校生の時はYouTuberで動画をたくさんアップしていたし、メディアに出る機会も多かったので「またこの服着てるんだ」って思われるとだめだって思ってた。
鎌田 それでぷるこちゃんは、どう変わったんでしょう?
ぷるこ 服もそれ以外のモノも、デザインや値段だけじゃなくて、これって3回使ったらもう使えないだろうなとか、「モノの終わり」を考えるようになりましたね。
鎌田 「モノの終わり」?
ぷるこ そう。前は、トレンドの服を1回しか着なくてもトレンドは移り変わるものだし仕方ないと思って買ってたけど、気に入ったものは何年も着たりするから、「これは10年使える」とか「着回ししやすい」とか自分の中で判断できるものしか買わなくなりました。服だけじゃなくバッグ、雑貨や家具も。
鎌田 長く使うかどうかの基準は、値段ではないし、品質とも限らない?
ぷるこ そうですね、今は自分の収入で生活しているけど、自由に使えるお金が多いわけじゃないから、品質だけにこだわると買えなくなるんです。だからファストファッションもやっぱり買うし。もし、そのブランドが環境に配慮していなかったらそれを応援することになっちゃうのは残念だけど、今の自分の経済状況を考えるとそういう選択肢も残ってしまいます。
鎌田 エシカルな消費、サステナブルな消費というと、どうしても「モノのつくられ方」にばかりフォーカスされがちです。でも、素材が何で、どういう人がどういう思いでつくって、という背景と同じくらい「買う人」の気持ちや態度が本当に大事だと思うんです。
エシカルな消費のために何かを我慢したり、イヤイヤ買うならその消費自体が本末転倒というか。本当に自分が気に入っているか、納得しているかをちゃんと考えることが、サステナブルな消費の根幹なのかな、と思います。
(後編へつづく)
(写真=忠地七緒 文=高島知子)
オピニオンメディアmilieu編集長・文筆家
塩谷(しおたに)舞さん
大阪とニューヨークの二拠点生活中。1988年大阪・千里生まれ。京都市立芸術大学卒業。大学時代にアートマガジンSHAKE ART!を創刊、展覧会のキュレーションやメディア運営を行う。2012年CINRA入社、2015年から独立。
プロデューサー、SNSコンサルタント、ディレクター
大久保楓さん(ぷるこ)
1999年生まれ大阪府出身。女子高生YouTuberぷることして活躍後、10代でアパレルブランド「LOLIPOPKNIFETOKYO(ロリポップナイフトーキョー)」を立ち上げ。ブランドをサステナブルなものにするため準備中。YouTuber時代の知識を活かし、YouTubeビジネスとインスタグラムマーケティングのコンサルティングも手掛ける。
エシカル・ファッションプランナー
鎌田安里紗さん
中学まで徳島で育ち、2008年高校進学と同時に単身上京。渋谷109のスタッフとしてアルバイトをする傍ら、雑誌『Ranzuki』のモデルとしてデビュー。現在は慶應義塾大学の博士課程に在籍し、同大学総合政策学部の非常勤講師も勤める。同時にエシカル・ファッションプランナーとして、国内外問わず、幅広く活動中。
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