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2018/12/10更新

「“フェア”な買い物」は「心地いい買い物」でした。 フェアトレードってどんな仕組み?

「フェアトレードってすごく心地いいんです!」そう朗らかに話してくれたのはフェアトレード・ラベル・ジャパン事務局長の中島佳織さん。 今、開発途上国の農産物生産の現場では、いくつものひずみが生まれています。地球温暖化が原因でコーヒー豆の生産量は減っているし、おいしいチョコレートをつくるために幼い子どもが働かされる、なんて悲しい現状もあります。そんな問題を貿易で解決するのが、フェアトレード。 今回は中島さんに、フェアトレードの仕組みや私たち一人ひとりができることなど、EARTH MALL編集部のヤマダがたっぷりお話を伺ってきました。

生産者を守るための “公平”な“貿易”=フェアトレード

最近、フェアトレードという言葉を耳にする機会が多くなった気がします。でも実際、どういう取り組みなのかちゃんとわかっていない人も多いですよね。そこで今日は、フェアトレードの基本的なことを教えてもらいに来ました。

はい!ぜひぜひ。

ではいきなり本題ですけれど、フェアトレードって何なのでしょう?

直球ですね(笑)。簡単に言うと「公平・公正な(fair)貿易(trade)」のことです。私たちは起きてから寝るまでの間、さまざまな製品を使ったり、食べたりして生きています。たとえば顔を洗うタオル、朝食に食べるバナナ、一息つくときのコーヒー……。それらの原材料は開発途上国でつくられていることが多いんです。

生活に身近なものばかりですね。

はい。海外でつくられるものなので貿易を経て私たちの手元にやってくるんですが、その取引の過程で生産者にきちんと代金が支払われてないことがあります。

そうなんですか……。

途上国で生産されたものが、先進国ではとても安価で販売されている。その背景では、適正なお金が生産者に支払われなかったり、生産性を上げるために必要以上に農薬が使用され環境が破壊されたり、生産者の健康に害を及ぼしたり……という悪循環が起きています。

あまり知りませんでした。

そこで開発途上国の生産者と適正な価格で取引することで、立場の弱い生産者が引き続きものを生産できて、生活の質を向上できるようサポートする仕組みがフェアトレードです。

なるほど。その証明がこちらのラベルですか?

そのとおり!この、「国際フェアトレード認証ラベル」は、生産者が一定以上の生活水準を保てるだけの最低価格が守られ、かつ、労働者の安全や自然環境に配慮して生産していることを確認した製品に貼られるラベルです。経済・社会・環境の三つを柱に、多岐にわたる項目で基準が定められており、国内では私たちフェアトレード・ラベル・ジャパンが審査しています。日本では1993年に導入され、今年で25周年を迎えました。

フェアトレードって、とてもきっちりした仕組みなんですね。

よくチャリティーと勘違いされることもあるんですが、まったく違います。私たち消費者がフェアトレード製品を購入することで、生産者はきちんとしたお金を手に入れられる。その結果より良い環境で生産でき、品質の良いものづくりができるという好循環を生み出す仕組みです。品質は二の次で、品質が悪かろうがどんな商品でも生産者に一定の価格保証がされている、と誤解されることもあるのですが、それはちょっと違います。フェアトレードもビジネスですので、たとえフェアトレード認証を取得した生産者であっても、いいものづくりをしなければフェアトレードとしての買い手が付きません。その意味でも、フェアトレードはより良いものづくりを促進する仕組みでもあります。

「適正価格で買ってくれれば、援助はいらない」

なぜ中島さんはフェアトレードに興味を持ったのでしょうか?

学生時代から途上国支援に関心があって、大学生の時にケニアの難民キャンプで1カ月間ボランティアをしました。でもそこで自分が描いていたイメージがガラガラと崩れまして(笑)。

いわゆる「難民」と呼ばれる彼らと接してみて、「ああ、みんな一人の人間なんだ」って思ったんです。

深い言葉ですね。

どこか一括りにして見ていたけれど、難民一人ひとりに名前があって顔があって人生がある、そんな当たり前のことに気づきました。また、政治・宗教・貧困など難しい課題が複雑に絡みあっている様子を目の当たりにして。何もできない自分に無力感を覚えて、帰国しました。

そこからなぜフェアトレードへ?

大学を卒業してから企業に就職したり、NGOのスタッフになった後、スラム街に住む子どもを支援するNGOの立ち上げのために、ケニアに向かいました。でも資金を集められず、プロジェクトは途中で断念。何なら私自身もお金を使いきってしまって……。

ケニアで日本の自動車メーカーに勤めはじめたのですが、そこは現地で300人もの雇用を生み出していました。私たちは何もできなかったけれど、企業は雇用によりケニア人の生活を支えている、という事実……。

うんうん。

でも隣の席に座る同僚がスラムに住んでいたりもして。それって給料が不十分だからなんですよね。つまり企業のパワーを感じた一方、企業のビジネスの在り方に疑問も持ちました。じゃあどうすれば貧困をなくせるんだろう、どうすればみんなより良い生活ができるんだろう……いろいろ考えた結果、途上国とのビジネスのあり方そのものを変える必要がある、と確信したんです。

なるほど。

途上国の貧困問題って、いろんな要素が絡んでいて小手先の資金援助じゃ変えられません。だから貿易という根本の仕組みを変えることで途上国の経済を変え、ひいては生産者の生活も変えられるんじゃないか。そんな可能性を信じて、縁あって2007年にフェアトレード・ラベル・ジャパンに入りました。

そうそう私、コーヒー豆の生産者に言われた忘れられない言葉があるんです。

どんな言葉でしょう?

「みんなが適正価格で豆を買ってくれれば、援助はいらないんだよ」って。

先進国が買い叩かなければ、きちんと生活ができる、と。

生産者はみんな誇りを持ってコーヒー豆の栽培をしているんです。だから適正な価格で取引できるフェアトレードは大事なんだと改めて気付かされました。今は4名の常勤スタッフと共に日々奮闘しています。

フェアトレードを“自分ごと化”する若者、急増中

今、フェアトレード製品は世の中にどのくらい広まっているのでしょうか?

世界市場はどんどん拡大していて2017年の市場規模は1兆円を超えました。

おー!すごいですね。

特にヨーロッパの盛り上がりは際立っています。国際フェアトレード認証ラベルの認知度を見ると一目瞭然で、たとえば日本は25%なんですけれど、ヨーロッパは90%以上と言われています。

日本とヨーロッパは盛り上がり方がだいぶ違うんですね。なぜなのでしょう。

社会課題に対する意識の差かもしれません。欧米のほうが「自分たちが社会を変えていこう」という気運が高く、日本だと、どうしても世界の貧困や人権、環境問題はどこか他人ごととして捉えられがちというか……。そうした問題は国連や国レベルで解決するこという認識が強く、自分たちの日々の暮らしや消費などとは結びつけて考えられていない面があるのではと思います。

そうなんですね。ちなみに私たち一人ひとりのフェアトレードに対する意識は変わってきていると思いますか?先日、一般社団法人エシカル協会の末吉里花さんに話を伺ったときは、若者にエシカル消費が浸透しつつあると話していました。

そうですね、フェアトレードも若い世代にどんどん広がってきています。

やっぱりそうなんですか!

そもそも教科書にフェアトレードに関する説明があるので知っている人が多いですし、「なるべくフェアトレード製品を買いたい」という人が増えてきているように感じます。今は世界中の情報がすぐに見える時代ですから、知ろうと思えば生産の裏側で起こっている問題もわかりますし、フェアトレード製品が持つストーリーや品質の良さが広まっているんだと思います。

あと、自らサステナブルに関する事業を立ち上げる若い人が増えていて、フェアトレードに対するイメージも変わってきています。「社会課題をビジネスで解決するのがカッコいい!」という感覚の人が多くて、うれしいです。

「サステナブルな未来のために何ができるのか?」を自分ごととして考える人が、増えてきているのかもしれませんね。

生産者も企業も私も、みんなが気持ちいい仕組み

お話を伺ってだいぶフェアトレードについてわかってきましたが、中には「とはいえ、フェアトレード製品を買うってハードルが高いなあ」と感じる人もいるかもしれません。

最初の一歩は簡単なものでいいんです。身の回りのものをすべてフェアトレード製品にするのは難しいですから、まずは10回の買い物のうち1回だけ、意識的にフェアトレード製品を買うようにするのはどうでしょう?

気軽でいいですね。

あとはプレゼントにフェアトレード製品を選ぶのもおすすめ。厳しい基準を守ってつくっているので品質は高いですし、相手にフェアトレードの良さを知ってもらうきっかけにもなります。お花、チョコレートなど贈り物におすすめなフェアトレード製品はたくさんありますよ。

あと、買わなくてもできることがあるんです。

と言いますと?

企業に声を届けること。好きなブランドに「フェアトレード製品を発売する予定はありますか?」って聞いてみたり、フェアトレードに取り組む企業に「応援しています!」と伝えるのは、すごくインパクトがあるんですよ。

今はSNSなどで企業に声を届けやすい時代になりましたしね。

たとえばある大手スーパーマーケット・チェーンは15年前、たった一人の主婦の投書をきっかけにしてフェアトレード製品の取り扱いを始めたと言われています。

一人の消費者が持つ力って、思っている以上に大きいんですね。

そうですね。あと何よりフェアトレード製品を買うのはとっても気持ちいいんです。

自分の消費が誰かの生活を踏みにじっていない、という安心感があるのは、すごく気持ちいいことですね。

たしかに!

フェアトレード製品を買うと、つくった人の笑顔につながる。だから私も心地よい。

シンプルなことなんですね。

まずは今日お買い物をするとき、国際フェアトレード認証ラベルを探してみましょう。見つけたら手にとってもらえるとうれしいです。一人ひとりが毎日の買い物を変えれば、世界も大きく変えられると信じています。

(写真・文=忠地七緒)


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今回のEARTH MALLイノベーター

認定NPO法人フェアトレード・ラベル・ジャパン 事務局長
中島佳織さん

大学卒業後、化学原料メーカー勤務、国際協力NGOでアフリカ難民支援やフェアトレード事業への従事、日系自動車メーカーのケニア法人勤務を経て、2007年より現職。グリーン購入ネットワーク理事。共著に『ソーシャル・プロダクト・マーケティング』(産業能率大学出版部)など。

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