2023/1/16更新
愛媛の旅で出会った、サステナブルなものづくり。
瀬戸内海に面した四国・愛媛県は穏やかな気候と自然に恵まれていて、山海の幸に恵まれた食文化、歴史を感じるレトロな街並み、流れているゆるやかな時間、人のあたたかさや優しさがじんわり心に沁み入ります。EARTH MALL(アースモール)編集部は、そんな愛媛の魅力をさらに深掘りするために、クリエイターとサステナブルなものづくりをする人たちを訪ね、旅をしました。3つの旅を通して出会ったもの、人、文化の魅力
をお届けします。
「伊予の小京都」と呼ばれる城下町「大洲」には、風情のある歴史的な建造物が残っています。分散型ホテル「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」、愛媛の原材料を使って作った旨みの深い醤油をはじめとする銘品など、EARTH MALL編集長の平井江理子がその魅力を紐解きます。
大洲の街の中心を流れる肱川(ひじかわ)、明治時代から残る家並み、風情あふれる石畳の道、用水路に流れる清らかな水、映画やドラマの撮影場所に使われた建物——目に飛び込んでくる一つひとつの景色を眺めるのが楽しい城下町・大洲。歴史や文化に想いを馳せる静かな時間を過ごしたい大人たちに是非、訪れてもらいたい魅力がたくさん溢れている。せっかく旅をするならば、少し時間に余裕を持って、この街が持っている空気感にどっぷりと浸り、“非日常”を愉しむのが、粋なもの。
「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」の運営や大洲の街づくりに関わっている「株式会社KITA 」の代表/井上陽祐さんとアースモール編集長の平井江理子。井上さんに案内してもらい、街をぶらり、歩く。
「大洲は河川があることで生まれた街なんです」と井上さん。大洲という街の成り立ちを教えてくれた。
「鎌倉時代に一級河川沿いの肱川のほとりに城が建てられて。宇和島藩と大州藩のギリギリの県境みたいなところに位置していたので、守りを固めなければならず、城が出来たんです。さらに、お寺や旅館、お店まで立ち並び、街並みそのものがつくられました。ここにはまだ、肱川を運河として利用し生活していた江戸・明治時代の街並みが残っています」
大洲城東方の神楽山に鎮座する、大洲藩代々の崇敬を集めてきた由緒ある「大洲神社」。長い石段付近からは、大洲城や趣のある城下町が見渡せる。
歴史的価値のある古い邸宅を、上質な宿に生まれ変わらせる。
しかしながら、近年は、街を形作った古い民家は人口減少のために更地化したり空き家になったりしているところもあるという。そうした歴史的価値の高い邸宅を上質な宿へと生まれ変わらせたホテルが、「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」だ。
歴史深い街並みに溶け込むように点在している分散型ホテル。大洲の街をそぞろ歩くと、半径500メートルの距離にホテルが点在している。客室は、22棟28室を有する。
「大洲城と『臥龍山荘』の間に広がる“肱南エリア”には、170軒ほどの古民家があるんです。このエリアは、肱川の豊かさから木蝋、製糸業などで栄えていました。木蝋で財をなした村上邸というところがあり、江戸後期から明治中期に建てられた長屋群、土蔵群がありました。広さは100坪ほど。この村上邸は、『臥龍山荘』という、明治後期に肱川沿いの景勝地に造営された庭園に向かう道に佇んでいます。あるとき、『村上邸が空き家になった』という情報を耳にして。村上邸をはじめ、約30軒を弊社が買ったり借りたり、改修してホテルを作ろう、ということに着地しました」と「NIPPONIA HOTEL 大洲 城下町」のはじまりについて語る井上さん。
国指定重要文化財の『臥龍山荘』。数寄屋造りの美しい建築や庭園を愛でる楽しみがある。ホテルに滞在する客人が訪れることも多い。
また、改修する際に大切にしたのは、歴史的価値のある建造物の趣を出来る限り、そのままに残していくこと。
「国に補助金をもらいながら、1年かけて改修作業に励みました。放置されていた蔵や荒れ果てた庭があり、業者の方と相談をしながら、一つひとつ丁寧に手を加えて再生作業を進めて。実際に、草を刈ってみると井戸が何個かあることが分かったんです。このエリアは、木蝋製造拠点として活用されていたところで、木蝋製造には欠かせない、井戸水を大量に取水できる特殊な場所。今、ここは、ホテルに宿泊していただいた方全員が使っていただける中庭になっています」
井上さんのお話に耳を澄ますたび、その当時の面影が、イメージとして立ち現れる。現代では、目にすることができない、かつてあった景色やそこで暮らす人々の営みに対して想いを馳せる時間もまた、豊かなひととき。そうした想いを抱くことで、古いものが現代に残っていることへの愛おしさが、じわりと深まっていく。
サステナビリティを意識した古民家再生の取り組みに感銘を受けた平井さんが、話し出す。
「井上さんは、大洲生まれの大洲育ち。県外の大学に進学後に就職されていて。それからしばらく経った後にUターンされて、大洲市の職員『地域おこし協力隊』として働いていたこともお有りなんですよね。地元に戻ってこられて、改めて歴史的建造物に触れて、古民家を改修することで、大洲という街全体をつくりたい、と考えた視点がとても素敵だし、面白いことだと感じました。その行動力は、もしかすると、一旦、地元を離れたからこそ、湧き上がってくるものなのかもしれないですよね。歴史や風土、文化の魅力をより俯瞰した目線で見ることができるのかもしれない、と。こうして、ホテルの外観や部屋の作りを拝見すると、ひとつひとつのディテールが味わい深くて。現代にはない貴重な建材を再利用したところや愛媛県産の資材が使われている部分など、じっくりと眺めながら過ごしたくなりました。一棟ずつ、部屋のしつらえが異なるのも楽しく、どこに宿泊しようか、と考えるのもまた、楽しいものです」
一棟独立の一室にある寝室。古い建造物の梁はそのままに。室内は、土壁を貴重とした、落ち着いた古色に風情を感じる。街歩きに疲れたら、寝室で一旦、小休憩がてら寛ぐのもいい。
また、客人に非常に人気が高い、「プレミアムラウンジ」という居心地のよい空間があるという。
当時の壁板が裸のまま使われているラウンジ。本や写真集の選書は、大洲に店を構える手仕事にまつわるものを取り扱う「ロサ」が手がけた。
「ラウンジは、15時から翌朝10時まで開放しています。ビール、シャンパーニュ、ワイン、ウイスキー、大洲の日本酒などが飲み放題。このラウンジと中庭で楽しめます。グラスの用意もあり、好きなタイミングで飲むことができて、とてもいい空間です」と井上さん。
そして、部屋や空間を演出する調度類、美しい絵が描かれた桂棚など侘び寂びを感じるしつらえにも注目したい。
「村上家が木蝋で財を成していた時代に想いを馳せ、実際に明治期に使われていた型を参考に地元の業者の方々と協業して蝋燭と燭台を作ってもらいました」
檜の香りがする、バスルームにある洗面台は、砥部焼で作ったもの。青白い白磁に動物モチーフの絵付けが可愛らしく施されている。
風情のある街並みに溶け込むように存在している分散型ホテルは、歴史を感じる味わいのある建築とリノベーションしたモダンなセンスが同居している。その独特の佇まいが、私たちを非日常へと誘う。そして、愛媛で暮らす職人や作家たちとコラボレーションして生み出された、手仕事の温かさを感じる空間や充実のアメニティを堪能できる贅沢がある。ここでしかできない経験をぜひ、実感してみてほしい。
記事の後編では、城下町・大洲でオーガニックの食品や地球や環境にも優しい日用品を紹介するセレクトショップ「OZU+」の山鬼(やまき)育子さん、100%自社醸造で醤油を作る「梶田商店」の梶田泰嗣さんにお話をお伺いしました。
後編はこちら >
INFORMATION
住所: 愛媛県大洲市大洲378(ホテルフロント)
TEL:0120-210-289(VMG総合窓口11:00〜20:00)
HP:https://www.ozucastle.com/
Photo by: Tetsuya Ito Edit & Text by : Seika Yajima
愛媛の旅で出会ったサステナブルなものづくり
砥部:前編 後編
大洲:前編 後編
宇和島