EARTH MALL with Rakuten Magazine 未来を変える読み物

2023/1/16更新

愛媛の旅で出会った、サステナブルなものづくり。

瀬戸内海に面した四国・愛媛県は穏やかな気候と自然に恵まれていて、山海の幸に恵まれた食文化、歴史を感じるレトロな街並み、流れているゆるやかな時間、人のあたたかさや優しさがじんわり心に沁み入ります。EARTH MALL(アースモール)編集部は、そんな愛媛の魅力をさらに深掘りするために、クリエイターとサステナブルなものづくりをする人たちを訪ね、旅をしました。3つの旅を通して出会ったもの、人、文化の魅力 をお届けします。

サステナブル・シーフード「みかん鯛」の美味しさの秘密。

愛媛県宇和島市の西側に広がる宇和海。リアス海岸が続く沿岸部では養殖業が盛んです。注目は、柑橘ジュースの絞りカスや皮から抽出したオイルを混ぜたエサで育った「みかん鯛」。ビストロ「organ」「uguisu」のシェフ・紺野真さんと生産背景や旨さの秘密を深掘りしました。

愛媛の美しい海で生み出された、

爽やかな香りが漂う、みかん鯛。

“水産王国・愛媛”。こんな言葉が存在するように、瀬戸内海、宇和海という2つの海に面する愛媛は、リアス海岸の深く穏やかな入り江が続いていて漁船漁業や養殖業が盛んだ。漁業関係者が養殖に適した漁場を日々のたゆまぬ努力によって豊かで、美しい海を管理している。今回は、みかん鯛の生産・販売をしている「宇和島プロジェクト」と宇和海に漁場を持つ「中田水産」の元を訪ね、 お話をお伺いすることに。

早朝5時。強い光が照らされる前の少しだけグリーンがかった海には、独特の静けさが存在している。漁師たちが船を出し、安全な養殖魚を届けるために水揚げ作業に精を尽くす——現在、世界の漁場ではおよそ1/3が持続不可能な形で漁業が行われていると言われているが(国連食糧農業機関(FAO)の「世界漁業・養殖業白書2022」出典)愛媛県宇和島市では、適切な資源管理、環境への配慮をしたサステナブル・シーフード「みかん鯛」を生産することに成功したという。柑橘ジュースの絞りカスや皮から抽出したオイルを混ぜたエサで育った養殖魚だ。食したときに感じる爽やかな香りが特徴で、愛媛のサステナブル・シーフードのブランド鯛として、首都圏をはじめとする飲食店や地元の飲食店から支持されている。

ビストロ「organ」「uguisu」のシェフ・紺野真さん(左)と「みかん鯛」を養殖する中田水産の代表・中田力夫さん。紺野さんが、みかん鯛にエサを与える作業を体験中。現在、養殖体験ツアーも展開していて、一般の方も気軽に参加することが可能。
日本は世界的に見ても魚介類の消費量が多い国のひとつではあるが、最近は魚が苦手、という子どもも少なくはない。そうした味覚を持つ人にも、この「みかん鯛」は、「魚特有の臭みがしない」という観点で人気を集めているという。

柑橘の皮に含まれるリモネンという香り成分が生臭さを和らげる。また通常の養殖真鯛よりも身が大きく、柔らかい特徴を持っている。食したときに感じる爽やかな香り、旨みが抜群。現在は、海外への輸出も視野に入れている。
養殖業者とともに、生産・販売をしているのは「宇和島プロジェクト」。彼らが「中田水産」とタッグを組み、「みかん鯛」という新鮮かつ、サステナビリティに力を入れた養殖魚に力を入れている。こちらのプロジェクトを牽引する才木康司さんが、みかん鯛の生産背景について教えてくれた。

みかんジュースの生産時に出るしぼりカスを

鯛の餌に有効活用する。

「愛媛県では、みかんジュースの生産時に出る絞りカスの大量廃棄が以前から問題になっていたんです。調べてみると、みかんの皮にはポリフェノールが含まれていて、魚の褐変防止に活用できるということがリサーチによって分かって。実際、魚にみかんの皮を与えると、褐変を抑えられるだけでなく、身にみかんの香りがつくという想定外の結果が得られました。最初は、そうした味わいをすんなり受け入れてくれる取引業者は多くなかったのですが、大手寿司チェーンさんが面白い、と言ってくれて取り扱ってくれたんです。そこから、徐々に広がりを見せてきました」
以来、鯛以外にもブリやサーモンでチャレンジするなど、新たな取り組みを展開している。その中で、香りの付け方のクオリティを上げようと、みかんの皮からリモネン成分だけを抽出したオイルを作り出した。
「余計な食物繊維を入れずにリモネン成分のみをエサに与えることができるようになりました。それを上手に使いながら、みかん鯛を養殖してもらっています。出荷数は4万〜6万くらい。業者の方には、受注生産というスタイルをとっています」

魚粉(魚を乾燥して砕き、粉状にしたもの)と冷凍の魚、柑橘を混ぜ合わせて、鯛のエサを作っている。「昔は生のエサを食べさせていましたが、どうしても食べ残しがあったり、環境に負荷がかかる状況になったりしてしまって。このエサは、味のコントロールもできるので、クオリティの高い『みかん鯛』ができます」と才木さん。
幼少の頃から現在までずっと魚釣りが趣味である紺野さんは、「宇和島プロジェクト」の取り組みについて興味深げに耳を傾ける。自身がオーナーを務めるビストロ〈organ〉と〈uguisu〉では、紺野さん自ら、市場に出向き、魚介の仕入れをしているという。
「僕の店では、基本的に天然の魚しか扱っていないんですね。なので、今日 お話をお伺いするまで、『みかん鯛』の存在は存じ上げなかったです。うちのレストランでは、サーモンを調理するときにレモンの皮を薄くスライスして、ディルやハーブなどとマリネして、生臭さを消すことがあります。『みかん鯛』の場合は、その手間がなくなるというか。生臭さを消すという意味で同じような効果があるように思いました。養殖臭さが無くなる、というのもとてもいいですね」と紺野さん。
紺野さんと一緒に「みかん鯛」の水揚げの見学をした我々に中田水産の中田さんが、みかん鯛の養殖について教えてくれた。

中田水産の中田力夫さん(写真右)。元気に泳ぐみかん鯛の水揚げ作業を行う。

みかん鯛の味を安定させるために、

手間を惜しまず、大切に育てること。

「鯛は出荷サイズに持っていくのに、2年〜2年半かかるんですよ。僕らは、養殖の経験が30年以上あるから、そのノウハウで様々な魚種を養殖しています。 魚は環境の影響を受けて肉質がしまる、というのはあるかも知れないですが、味そのものは、エサ次第で変わるもの。エサを作る際に必要な柑橘の皮は、僕らの会社から車で30分ほどのところにある『愛工房株式会社』から配達してもらって購入しています。柑橘の皮とリモネン成分で作ったオイルでエサを作ることで、年中、味を一定にすることができるんです。色々と試しましたが、伊予柑は一番香りがつきやすいように思います。手間もコストもかかりますが、無添加のエサだから、海を汚すこともありません。SDGsが謳われる11年前から、取り組んでいることです。自然の生態系を壊すことなく養殖業を続けられることは、とてもいいことだと思いますね」

エサ作りに必要な冷凍した柑橘の皮を運ぶ中田さん。「宇和島プロジェクト」のスタッフと仲睦まじく話す。

養殖の魚だからこそできる、香り付けの面白さ。

その話を受けて、紺野さんが柑橘について話し出す。
「柑橘はやっぱり良さそうですよね。僕らは料理でオイルをたくさん使うんですよ。いろんなものをオイルで攪拌して、香りのついたオイルを持っていて。そのオイルを使ってマヨネーズやソースを作ったりするんです。そうした実体験から鑑みると、オイルに香りが移しやすい食材はエサとしてやりやすそうだな、と感じました。ほかにも、例えば、コブミカンの皮や葉、レモングラスは、香りが強いから、相当わかりやすく鯛に香りが付きそうだなと思いました。別のベクトルで言ったら、発酵しているものも面白そうに思います。赤ワインを作るときに、ぶどうを潰した皮を廃棄すると思うんですけれども、赤ワインの黒ぶどうは、ポリフェノール成分があって抗酸化作用もあるし、かつ発酵が始まっているから、ちょっと他のものとは違う成果が出そうで面白いかもしれません。色も出ると思いますし」
紺野さんのユニークな提案を楽しそうに聞く、中田さん。「水産と関係ない企業がコラボレーションをしたいと声をかけてくることがあるので、そういう提案をいただいたらやってみたい」と未来へのビジョンをイメージする。
宇和島プロジェクトや中田水産の中田さんの働く姿を目にして、紺野さんが 呟く。「皆が未来のことを考えて、一丸となって新しいことにチャレンジできる環境作りがなされていること自体も、サステナブルの一歩のように感じています」

宇和島の漁師たちに受け継がれてきた鯛めしを。

そして、この「みかん鯛」は宇和海の幸を使った郷土料理に定評がある「和日輔」で堪能できる。紺野さんとともに、店を訪れ「宇和島鯛めし」を食すことに。
この料理が、宇和島の人々が誇る郷土料理として親しまれているのには、理由がある。かつて伊予水軍が仲間たちと船の上で魚の刺身と茶碗酒で酒盛りをした後に、その酒が残った茶碗にご飯を盛り、たっぷり醤油を含ませた刺身を混ぜ合わせて食したことが、鯛めしの始まりとされている。宇和島の漁師たちに受け継がれてきた鯛めしは、常食として日常の風景に浸透している。

ふっくらと炊き上がった愛媛県宇和島市三間町産コシヒカリの新米をよそい、タレを絡めたみかん鯛を乗せて。タレは、鰹・昆布出汁、みりん、醤油、溶いた卵を混ぜて作った、自家製。

料理長山本義男さんが「鯛めし」の美味しい食べ方を紺野さんに伝授。「添えた大葉、海藻もお好みで混ぜていただいてみてください」と山本さん。
笑顔で食しながら紺野さんはその味わいについて語ってくれた。
「ほのかに柑橘の香りがする爽やかなみかん鯛がとても美味しいですね。養殖の場合、食感がゆるくなってしまう印象もあるのですが、プリプリとしていて。実は、初めて『みかん鯛』という存在を耳にしたときには、鯛からみかんの香り!? とにわかに信じられない思いがありました。ですが、実際に食してみると、何も違和感がなく食べられて。甘じょっぱいタレも、万人が好む味に思います」
そして、紺野さんのリクエストでみかん鯛の焼きものをいただくことに。

みかん鯛の焼き物にはヒマラヤの岩塩、土佐酢、柚子塩、みかんの皮で和えた大根おろしを添えて。

焼きものにすると、よりいっそう、柑橘の香りが際立つ。

「生でいただくよりも、火を通した方がより香りが立ちますね。一番、みかんの風味が感じられるのは、シンプルに塩焼きのように思います。しゃぶしゃぶにしても香りが立ちそうです」と紺野さん。
生で、そして、焼き物でみかん鯛を食した紺野さん。みかん鯛を使って調理するならば、どういったメニューが思いつくのだろうか。
「料理人としていつも思うのは、香りの扱いはとても繊細な作業だということ。やはり、この柑橘の香りをめいいっぱい生かすことができる調理方法がいいですよね。フランス料理の調理法なのですが、みかん鯛をパイ包みにしてみるとか。パイを切った瞬間に香りが立ってきて、良さそうに思います。あるいは、ホタテの貝の中にみかん鯛を入れて、その貝を密閉してオーブンで焼いて。開けた瞬間に香りが立つかもしれない。もしかするとホタテの香りも立ってしまうかもしれませんけれど。実際にトライしたら、色々と調理方法が思い浮かびそうです」
「みかん鯛」は和食のみならず、洋食にふっても面白くなりそうな魚だ。そして、海洋や水産物の未来を考えながら持続可能な消費をしていくということができる、ポジティブな可能性を持っている魚とも言える。改めて、私たちが海の恩恵を受けていることに感謝しながら、ぜひ唯一無二なこの味を堪能してみてほしい。

INFORMATION

住所:愛媛県宇和島市恵美須町1–2−6
TEL:0895-24-0028
営:11:30-14:00(lunch)17:00~22:00(dinner:LO 21:00)
休: 水
HP:http://sk-wabisuke.com/

Photo by: Tetsuya Ito Edit & Text by : Seika Yajima

クーポン獲得・利用期間 |2023年10月2日(月)10:00~2023年11月2日(木)09:59

愛媛の旅で出会ったサステナブルなものづくり

砥部:前編 後編
大洲:前編 後編
宇和島



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