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2021/4/15更新

蟹江教授と探す、サステナブルショッピング【スーツ編】

EARTH MALL アドバイザーとしてお世話になっている蟹江教授(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)と一緒にサステナブルなお買いものを考えていく本企画。前回のイス編に引き続き、今回はスーツ!SDGsの第一人者として登壇される機会も多い蟹江教授は、やはりサステナブルなスーツを着ていらっしゃるのでしょうか?贔屓にされているという、六本木のオーダースーツ店「サルバトーレ ソロンブリーノ」さんにお邪魔し、サステナブルなスーツについて考えてみました。

サステナブルなスーツって?

蟹江教授と、六本木の路面店にお邪魔してきました。



--- 今回は、蟹江さんオススメのオーダースーツ店でのお買いものに同行させていただきます!よろしくお願いします。本日は、既にオーダーされたスーツの引取りをされると聞きましたが、こちらのお店で作るスーツは何着目ですか?

蟹江教授(以下、蟹江):3年前くらいからお世話になっていて、今回で3着目ですね。一気に作るよりも、少しずつ作って長く楽しみたいと思っています。あと、服のリフォームもいくつかお願いしたりもしていて。昔の太いのを4~5着は直して頂きました。

ソロンブリーノ 江塚さん(以下、江塚):新しいのをどんどん買って頂くより、直しながら長く着て頂ける方が、我々も嬉しいです。

サルバトーレ ソロンブリーノを経営する「株式会社ランドマークス」代表取締役の江塚敏之さん。



--- オーダースーツは、既成品とはどういった違いがあるのでしょうか。

江塚 スーツってどんな方が着ても、尊敬や信頼を得られるように作ると言われているんです。ただ、尊敬にも色んな形があるじゃないですか。例えば銀行員の尊敬と、教授の尊敬は違います。立場によって形も変わってくると思うんですね。肩を強調したりして個性を引き出すのか、あるいは控えめな立ち位置で発言したいのか。そういった状況も踏まえてじっくり相談しながら作れるのがオーダーの良いところです。

蟹江 着る人のことをすごく考えてくれる。そこが本質的だなと思うんですよ。

江塚 真剣に考えすぎて、寝られないときも結構ありますよ(笑)。

蟹江 やっぱりそういう、服に対する愛情をすごく感じます。何を作ったかも全部覚えてくれているので、前のこれとこれとこれを合わせて…、みたいなことも相談しながら作ってくれるのは素晴らしいですよね。

生地見本や上質なスーツが並び、重厚感のある店内。



--- オーダーだと高くなると思うので、ハードルを感じてしまいますが…。

江塚 一個一個作るわけですので、もちろん値段は高くなります。生地も大量に買って作るわけじゃなくて、オーダー毎に発注しますので。でも、高いと物を大事にしませんか?

--- そうですね。いいものを買おうとすると選ぶときって、長く使っていきたいから、選び方がすごく慎重になるし、メンテナンスできるのかなとかいろいろと気になってきます。

江塚 値段の問題だけでもないんですけど、使う側が大事にしていきたいと思えるか?っていう、物に対する基本を最近は忘れがちになっているんじゃないかと思うんです。
ポリエステルみたいな化繊だと経年変化がどうしても出てくるので、長く着ていくということだと、やはり自然素材がいいとか、そういったことも考慮するようになると思うんです。

--- たしかに、ポリエステルは着ているうちにシルエットが変わってきちゃいますよね。一度伸びちゃうと戻らないですか?

江塚 戻らないです…。でも、最近は自然素材以外でもいろいろと新しい素材も出てきていて。今回、蟹江さんに購入いただいたシャツは再生ペットボトルから出来ているんです。ペットボトル60%、コットン40%で、しかも国産のペットボトルなんですね。これは良い意味ですごく伸びる素材です。

蟹江教授も愛用中。再生ペットボトル素材が60%使用されているサステナブルなシャツ。



蟹江 この前ラジオに出演した時に着ていたら、共演者の方々がすごく関心を持ってくれて。「このシャツはペットボトルから出来てるんですよ!」と言ったら、びっくりしていました。

江塚 そういった反応いただけると嬉しいですね。あと、修理もできるので、長く着ていただけるというのもサステナブルなポイントなんじゃないでしょうか。ちょうど私が今日着てきたシャツ、ちょっと見ていただくと継ぎはぎしてあるのがわかりますか?これ、実は相当古いものなんです。

右襟脇に、薄っすらとステッチの跡が。シャツも修理を重ねることで、長く着続けることができる。



--- ほんとだ!継ぎはぎされていますね。何年ぐらい着ていらっしゃるんですか?

江塚 10年ぐらいですね。スーツもシャツも、生地に穴が空いたら修理をすればいいんです。イギリスのチャールズ皇太子も仕立てた洋服を何十年もメンテナンスしながら愛用されているというのは、有名な話しなんですよ。雑誌に載っていた皇太子の写真をよく見てみたら、靴も継ぎ当てしているのが見えました。まさにサステナブルの基礎のようなことがスーツにも受け継がれているんだと思います。今はサステナブルがブームみたいになって、良いことですけど、あれ?って思うこともあります。日本だって着物から鼻緒まで、古くなるまで使ってきているじゃないですか、昔から続けてきていることなんです。

長く続くものはそういった文化の上にある。本当は全部そうなればいいんだと思うんですけど、すっかり消費文化になってしまっているような気もします。

--- 消費社会にいると、モノに対する向き合い方をどんどん忘れいってしまっているのかもしれません…。そういった時代の中でも、チャールズ皇太子は何十年も愛用されていらっしゃるというお話しはすごく素敵ですね!スーツっていったい何年ぐらいもつんですか?

江塚 ずっとですよ。一生。

蟹江 子供に受け継いでいくということも考えると、一生も二生ももつということですね。

江塚 そうですね。このスーツにはナポリラインと言って、フロントに裾まで伸びているダーツがあるんです。これは何かというと、この洋服を子供に渡すときに、子供が痩せていたら詰めていく、太っていたらここを開ける。そうやって、代々受け継ぐことができるようにする為のものとも言われています。

スーツフロントにあるダーツは、ウエストの絞りを作るための大事な機能も備えている。



--- 今日は新しいスーツの受け取りがあると聞きましたので、ぜひ見せて頂きたいと思っています。

--- 触っていいですか?わっ、軽い!明らかに良い仕立てのスーツという感じです。これがオーダーメイドなんですね。

蟹江 やはり、いい仕上がりですね!長く着たいです。

江塚 破けたら、すぐ直しますよ(笑)

蟹江 破けてから修理したのを着て、「これ実はね」って言いたいですね!チャールズ皇太子みたいに…。早く破けないかな(笑)。

江塚 修理していくことで愛着もどんどん増してくると思いますよ。自分の体にもぴったり合ってきますから。イギリスのことわざで「安い靴を買うほど裕福ではない」というのがあるんだそうです。一番高い靴を買いなさい、それを磨きなさいっていうことだと思うんですよね。

蟹江 大事にしている物を身につけると気持ちも引き締まりますよね。今日履いている靴もこちらで修理していただきました。

靴もスーツを着こなす上での大事なアイテム。「いいものを長く使う」ことがサステナブルにつながる。


まとめ

--- 今日、初めてスーツの奥深さを知りました。

蟹江 あまり知らなかったでしょ?僕もここ知るまでは知らなかった(笑)。

江塚 たとえば、これもよく聞かれることなのでお話しさせていただきますが、イタリアの服ってボタン取れやすいじゃないですか。あれは正しいんです。生地よりも糸のほうが柔らかくなくてはいけない。なぜかというと、生地を傷めちゃうから。

--- 最初にボタンに犠牲になってもらうということですね。

江塚 そうそう。糸のほうがポロンと取れちゃうのは理にかなってる。「すぐボタン取れちゃう」って言われたりするんですけど、それが正解なんですよ。ボタンが取れちゃうような生活をするなよ、という意味も含まれているかもしれません(笑)。

麻なんかもそうです。「皺にならない麻ってない?」とお客さんに言われることがありますが、皺は楽しまないと。生活の度合いによって皺の出方が違うんですよ。荒れている生活の人は荒れた皺が出る。良い皺の人は良い生活をしている。自分の振る舞いを見直すきっかけにもなるんですよね。

--- 深いですね~。

蟹江 確かに、すごく素敵な皺で着こなしている人もいますもんね。

--- 普段もスーツ着て歩いていらっしゃる方みると、色んなことが見えちゃうんですね?この人こういう人だなとか。

江塚 見えますね(笑)

--- 蟹江さんの、スーツに対するサステナブルなお話も伺いたいです。

蟹江 江塚さんのお話しを聞いていてご理解いただけたと思うのですが、僕はここに来てまさに勉強させてもらっている感じです(笑)。このお店に出会うまで色んなスーツを着てきたけど、そこまで思い入れがなかったのが正直なところでした。

きっかけは2010年頃に行ったパリです。仕立屋が色々なところにあるじゃないですか。こういうところで作りたいなぁという憧れがあって。他方で、服が大量に売れないと棄てられるという話を聞いて。それはどうすればいいのかなと…。そうか、自分に合ったものを自分だけで作れば、要らないものや売れないものを棄てるということはないなと。生地は残るけど、生地は別の人のために使えばいいし。それがやはり究極の姿なのかなと思うに至りました。

今思うと、パリのテーラーの前を通った時に、そういうのを素敵だなと思ったのが、僕がサステナブルなスーツについて考えるきっかけになったスタート地点だったんですね。

パリのテーラーが原点。「自分に合ったものを作れば、要らないものを棄てるということはない」。



--- 前に蟹江さんと「椅子を探す記事」をやらせて頂いたときに、色々あるけど自分の感性でピンとくるものが大事だよねというお話しがありましたが、それが今回も「自分の感性でいいなって思ったもの」がまず重要で、そこからサステナブルにつながったっていったんですね。

蟹江 自分が好きじゃないと結局着ないですしね。いいなってお店の前で思っても、買って帰って着たらなんかちょっと違うなと思うものは、あまりよくない。結局使えないというか。

--- いくら素材がサステナブルでどうのこうのってなっても、着なかったらどうしようもない。

蟹江 あとはおだてられるのも大事です!あ、なんかいい服買ってる!え?そうかなぁ?みたいな。あんまりそんなこと言ってくれる人もいないじゃない。学生は「まあ、いいですね」とか言ってくれたりしますけど(笑)

ネクタイやチーフのありなしでも、スーツの印象は大きく変わります。



--- 今日でスーツを見る目が完全に変わりました…。

江塚 スーツは本当にいい世界だと思いますよ。蟹江さんのような方に、こういったスタンスをサステナビリティ的な意味でも賛同して頂けているのはとても嬉しいなと思っています。

蟹江 今は自然じゃないものが多くなりすぎているので方向転換しなくてはいけない状況になっていますけど、SDGs的な話しでいうと、素材についてももう少し考えていくことが今後2030年に向けて必要だと思います。あとは、運ばれるプロセスをどうするかとか、リサイクルを使うかとか、そういうところを変えていけば本当に持続可能な服になるんじゃないかなと思いますね。

というのも、今多くの人が着ている服というのは、子供たちが将来的にずっと着ていられるかどうかわからないと思っています。例えばコットンもどこまでちゃんと育っていくか分からないし、同じような状況で育つかも分からない。化繊もエネルギーをたくさん使うしね。ということを考えると、先ほど「長く着ていく」というようなことを話しましたけど、やはりそこは大きなキーワードかなと思いますね。

--- オーダースーツのお話しを通して「長く使っていく」という、モノとのサステナブルな向き合い方も考えるきっかけになりました。本日はありがとうございました!

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