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2020/12/18更新

「自分が美味しいと思うもの、いいと思うものを誰かにあげたい」がバレンタインをサステナブルにする。

毎年チョコレートを始めとする巨大なギフト需要が発生するバレンタイン。「チョコレートで世界を幸せに!」をスローガンに掲げ、楽天市場で20年前からチョコレートを販売してきたバニラビーンズの八木社長に、持続可能(サステナブル)なバレンタインについて聞いてみた。

「安いものを沢山あげるバレンタイン」は、なくなってくる

--- 本日はよろしくお願いします。楽天では老舗の超人気店舗であるバニラビーンズさんに、「バレンタインは持続可能なのか?」について、今回ぜひお話をお伺いしたいと思っています。

八木社長(以下、八木) もともと日本のバレンタインのイメージって女の子から男の子に告白するみたいなところから始まっていて。義理チョコを会社で嫌々あげているとか、ネガティヴなイメージもあるかもしれません。


でもやっぱり20年間やっていると、お客様の購入パターンが少しずつ変化してきているのがわかるんです。女の子から女の子の友達へあげるとか、自分へのご褒美とか。

バニラビーンズを運営する、チョコレートデザイン(株)の八木社長

つまり、チョコレートを楽しむ機会に変化してきているのかなと思っています。バレンタインの時は海外ブランドもたくさん入ってきて、その時しか買えないものもあるし選択肢が広がります。


より自分が美味しいと思うもの、いいと思うものを誰かにあげたい、という選び方になってきているので、「安いものを沢山あげる」ではない方向になっていくんじゃないでしょうか。

過酷な体験から生まれた、幸せに働ける環境づくり

--- チョコの作り手側はどうでしょうか。

八木 チョコレートは、生ケーキと比べると保存がきくので、少し状況は違いますが、お菓子業界は、一日に作業が偏るとなかなか難しいものがあります。残業が増えてしまったりとか……。そういうものを変えていきたいんです。


バレンタイン等の大きなイベントで集中的に消費されるより、需要がもう少し平準化してくれば、チョコレートにかかわる人たちにとっても良い環境になるんじゃないかなと思います。バレンタイン以外の時期でもチョコレートを楽しんでいただきたいですね。

取材が行われた横浜ハンマーヘッド店には工場も併設されており、製造過程を見ることができる。

店内横では、カカオ豆をロースト中。フレッシュな香りが立ち込める。
--- 八木さんの源流はそういった体験にあったんですね。
八木 普通は機械の稼働を考えると24時間まわしたほうが3倍作れちゃうので、お菓子工場で夜勤は普通なんですが、うちの工場は夜勤がほとんどなくて8時間くらい。というのも、自分が昔に夜勤やっていたとき、体が辛かったんですよね。
--- スタッフの働く環境、かなり配慮されているんですね。

八木 お菓子業界って、もともとちょっとアンフェアなところもあって、実はブラックな部分も多い業界。自分がお菓子職人として働いているときに、「嫌だな、変えていきたいな」という思いがすごく強かったんです。


実家の庭のプレハブ小屋でお店をはじめた当時は、今思えばかなり過酷な環境で働いていました。同じ手作業を1万回10万回と繰り返すわけです。実際そうなっちゃうんですよ。商品が売れると……。


勉強のために、大手の夜勤で働いてみたこともありました。生地作りの担当だったんですが、生地は機械から自動で出るんで補充しないといけなくて。それを間に合わせるために、もう、走るんですよ。で、小麦粉とかを取りに行く部屋がちょっと遠くて。俺もう何やってんだろうなって。システマチックにはできているんだけど、これはちょっといきすぎだろうと。そうやって作られた商品がお店に並んでいるのを見ると、ちょっと違うんじゃないかなって……。

八木 自分が先頭に立つ会社であれば変えられるかなと思いましたし、入ってくる子たちにもなるべくそういう状態にならないようにしてあげたいと思ったので。それを徐々に変えてきているところですね。


うちは女性スタッフも多いですし、安心して働ける、結婚しても仕事が続けられるとか、そういう環境を整えてあげることも大事だと思うんです。原産国の人たちともフェアに取引したいけど、働いている一緒の仲間のスタッフたちにも平等というか、フェアな状態でいたいなというのがあって。スタッフが長く、サステナビリティでいえば持続可能な、長く働いていられる環境を作っているところです。

商品の細かい質問をしても、明るく丁寧に対応してくれる店舗スタッフ。気持ちよく買い物できます。
--- さっきレジの方と話していたら、「毎日楽しいです!だって良くないですか?」と。見たら分かるでしょ?という意味合いで自信満々におっしゃっていました。
八木 実際、僕自身が買い物する時も、そういうお店で買いたいと思うんですよね。やっぱり、スタッフが元気じゃないと良い接客はできないので。気持ちよく働ける環境づくりは大切だなと思っています。
--- 原材料の面はどうでしょうか。

八木 やはり原材料とか、原産国の人たち、カカオを作ってくれる人たちとの関係性が重要です。


フェアトレードだったり、原産国の人たちが長く続けやすいような材料を僕らが使っていくこと、そういったものを使った商品だったりサービスをバレンタインの時に提供していくことで、業界全体としても良い状況になるのかなと。

「制限がある方がクリエイティブになる」という八木社長のスタンスから生み出された商品は、種類は限られているがどれも個性豊かで長く愛されるクオリティ。
--- 世の中の割合なんですけど……。今、デパートに我々が行ったとして、そこに並んでいるチョコレートのどれくらいがフェアトレードなんでしょうか?

八木 フェアトレード商品は1割にも満たないかもしれませんね……。


最近徐々に意識してきているお店が増えてはきましたけど、ボリュームとしてはまだまだ。サステナビリティに配慮した素材でやっているお店は少ないです。ブランドの商品の一部とかではあるんですが、会社全体、お店全体でやっているところは本当に限られていると思います。

店舗入口では、実際に輸入時に利用されたカカオ豆の袋をディスプレイ。豆への思い入れが伝わってくる。
--- そういう状態が続いていくと、いつかカカオが手に入らなくなるような時代が来たり、というようなことも考えられるのでしょうか?

八木 そうですね。カカオ農家の人たちは収入があまりよくなければ、別の農作物に変えてしまうことも結構多いんです。カカオは儲からないとなれば、ゴムの木などに変えてしまったり。そうすると農家さん自体が減ってしまって、採れる量も減ってくる。


世界全体としてはカカオをすごく必要としているので、段々価格が高騰して手に入らなくなる。そしてそれが価格に転嫁されてしまうと、なかなか消費者の皆さんの元まで届きにくくなってしまうんですよ。

--- チョコを食べられる世界を続けていくには、作り手もちゃんとフェアであることが必要なんですね。

バニラビーンズで使用しているカカオ豆。次のバレンタイン用に、特別な豆を使ったチョコも開発中とのこと。

作る側だけではなく、買い手も変わっていかないといけない

--- 八木さんは現地にも行かれているんですよね。

八木 7,8年前なんですけど、とりあえず現地を見たいと思って、ガーナに行きました。


カカオ産地の中でも、特にアフリカが貧しいんです。農園でも子供たちが裸足だったりとか。環境や洋服、あと住まいですね、家を見ても裕福でないのが分かる。あとはカカオ労働者ですね。グレーな環境で働いているというのを目の当たりにしましたし、収穫の時期に子供が働いていたりもしていました。

ガーナとは深く交流が。2008年から7年間かけて行ったチャリティーオークションを経て、学校建設も実現。
--- 子供が学校へ行かずに、収穫を手伝っている……。チョコを買うときに、なかなかそういう背景まで想像できる人は少ないかもしれません。

八木 そうです。そういうのも変わっていくためには、やはり買う側が変わっていかないと、なかなか売る側が声をあげるのは難しいなと思います。


結局、農家とお客様の間にいるのが、メーカーや製造業なので、僕らが良い選択をすることで、お客様に良いもの、環境だったりサステナブルなものだったりをお届けできると思っています。その中のひとつがフェアトレードだったり、直接買い取ったり、色んな選択肢があるわけです。

こちらの部屋では「カカオ豆から作るチョコレートワークショップ」が開催され、カカオ豆の産地から製造まで体験できるコンテンツが用意されている。(現在は休止中)
--- 次のバニラビーンズの目標は?
八木 なんとなく、生産者からお客さんまで、バニラビーンズの輪の中にいる人たちはみんなが幸せでいられる、みたいな。そういう「幸せ経済圏」をつくりたいですね。世界は離れてますけど、農家さんも含めて同じ輪の中にいて、そこから買って商品を作る。お客様はそれを食べて幸せになる、もしくは健康になる。そういうのができたら理想です。そして、長く続けていきたいですね。

まとめ

サステナブルなバレンタインをテーマに、「横浜チョコレートのバニラビーンズ」の八木さんにお話を伺いました。カカオ生産地の人々の生活や、フェアトレードといった側面だけでなく、需要の平準化、お菓子業界の働き方など、いろいろな側面に気づくことが出来ました。

今回の EARTH MALL イノベーター

八木 克尚(やぎ かつひさ)
チョコレートデザイン株式会社代表取締役 兼パティシエ

製菓学校卒業後フランスで修行を積み、大手製菓メーカーに就職、その後23歳で独立。
2000年に楽天市場に「VANILLABEANS」をオープンし2014年にはバニラビーンズみなとみらい本店、その後川崎や鎌倉など、地元神奈川県内に実店舗も複数展開している。

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