EARTH MALL with Rakuten Magazine 未来を変える読み物

2024/9/30更新

愛媛・今治の旅で出会った、サステナブルなものづくり。

「愛媛」と聞いて思い浮かぶものといえば、柑橘系の果物や今治タオル、道後温泉etc.……。サステナブルな商品を日々探しているEARTH MALL(アースモール)編集部が見つけた“愛媛のサステナブル”は、地域の歴史や環境に紐づいた、伝統的で洗練されているけど遊び心もあるアイテムたち。今回は合併20周年を迎える注目のエリア、今治市を中心にご紹介します。

Vol.1 おおみしま みんなのワイナリー

瀬戸内海に浮かぶ芸予諸島最大の島、大三島。人々を穏やかに包み込む、自然や美しい海に囲まれた特別な土地に、ワイン造りに情熱を注ぐ「大三島みんなのワイナリー」があります。耕作放棄地となってしまったミカン畑を借り受けて、醸造用のブドウ畑に切り替え、島に“はじめてのワイナリー”をつくった、志が高い情熱家たち。美しい風土を生かしたこの土地でしかできないワイン造りについてお話を伺いました。

“大三島の魅力”を詰め込んだワインを造り、届けること。

「ミカンの島でワインができた」。ワインのエチケットにさりげなく綴られたキャッチコピーと目が合う。意外性のある言葉に誘われ、手に取ったのは「大三島 みんなのワイナリー」のシャルドネスパークリングワイン「島渦」。グラスを口元に近付けるとほのかに甘い、ロマンティックな香りに包まれる。そっと口に含むと、やわらかな飲み口のワインが、じんわり身体に染み渡っていく。静けさとやさしさを纏ったある一遍の詩のように深い余韻を残す一本のワインが、どんな土地で作られているのか。すぐに知りたくなって、大三島へと旅へ出た。

今治市から大三島へと車で向かうこと約1時間。足を踏み入れると、明らかに時間の流れ方がゆったりとしていることが、全身で感じられる。穏やかな風に撫でられるたび、自然と心が軽くなっていく。島内の地形が生み出した起伏に富んだ景観に抱かれるように瀬戸内の海が悠然と佇んでいて、微風のせいか波の動きも穏やかだ。一定の動きと速さでたゆたう波間を眺めていると、心のざわめきさえも、不思議と落ち着いていく——。

穏やかなときが流れる土地の魅力に心惹かれ、ワインを造ろうと心に決めたのが、醸造家、川田佑輔さんである。

「川田さんはブドウ栽培の責任者でもある。20か所以上のブドウ畑(広さにすると2.5ヘクタール)の管理に取り組み、ブドウが病気にならないように丁寧にケアをしながら大切に育て、管理している。
彼の口から、ワイン造りのキーパーソンは建築家の伊東豊雄さんということを教えてもらった。
「2011年に『今治市伊東豊雄建築ミュージアム』ができて、伊東豊雄さんが大三島に通うようになったんです。『大三島みんなのワイナリー』を束ねている人です。実は僕のワインの先生が、伊東さんのパートナーの方で。そのご縁で出合いました」
山梨大学で醸造学を学んだという川田さん。品種の起源や栽培の仕方などアカデミックな事柄を研究し、大学4年生のときに大三島に移住してきた。

「在学中にいろんな地域を回り、どこでワイナリーをやろうかと探していたときに、たまたま、伊東さんが大三島でいろんな活動をしていると聞いて。瀬戸内は全くブドウ栽培がされておらず、ワイナリー自体も少ない地域なんです。この土地の風土はどこか地中海にも似ているのでワイン造りのイメージがどんどん湧き上がりました。それに、子どもの頃から海の近くに住んでいたこともあって、海の近くでブドウ造りやワイン造りをやってみたい想いが強かったんです」

海のそばで育ったブドウで造る、潮風を感じるワインを。

耕作放棄地となってしまったミカン畑を借り受けて、醸造用のブドウ畑に切り替えてブドウ造りをするサステナブルな取り組み。海の近くに畑がある土地では、潮風を浴びる分、ミネラル感のあるワインになると言われている。特徴的な土壌(テロワール)でブドウを育てることにどんな影響があるのだろうか。

「うちのワインは、ほのかに塩味が感じられるのが特徴のひとつ。地中海付近のイタリアのワインや奥尻島のワインもそういった共通点があるように思います。この辺りは『まさ土』と言って、花崗岩が風化してできた砂状の土壌になっていて。土というよりかは砂に近い感覚でとても水はけが良いんです。ブドウは乾燥に強い植物なので、特に手を加えなくても自然の中で育つことができます。けれども、土壌に栄養分を与えるためにはある程度手を入れなければなりません」

土地の個性をすべて詰め込んだワインを造る。そのために知恵を絞り、工夫していることがあるという。

「近隣の企業からいただいた豚糞を肥料にしたり、この辺りは牡蠣の産地なので牡蠣殻を入れてカルシウムを補強したり。あとは、今治に菌床シイタケを育てている方がいるので、不要になった菌床を砕いて蒔いています。遠方から持ってきたものを土壌に撒くとこの土地ならではの『テロワール』にならない。なので、化学肥料を使わず、あくまでも瀬戸内界隈のものを使うのが僕らのスタイルです」

2015年からスタートしたブドウ造り。収穫できるところまでやっと漕ぎづけたときにハプニングに見舞われたこともあった。

「2016年に実が成ったのですが、その年に全部イノシシに食べられてしまったんです。田畑を荒らす“獣害”によって自分たちの努力が消されてしまったことは非常に無念でしたが、二度と入られないように柵をつけたり、夜に見回りをしたり。ときには花火で音を出したりもして。協力のもと、ありとあらゆる対策をするようになりました。この島には『イノシシ活用隊』という部隊があり、仕留めたイノシシは食肉に加工し、ジビエにして命を無駄にしないようにしています」
自然と共生しながら紡いでいく、一筋縄でいかないワイン造り。
野生動物や自然と共生しながら健やかなブドウを生育することは、決して容易なことではない。人間のコントロールのもと進んでいくことは何ひとつなく、日々、ブドウと丁寧に、誠実に向き合う濃密なやりとりがあってこそ、ワイン造りは実を結ぶ。

「やっぱり想定外のことがいろいろと多いので、それを楽しみながら進めていくことが肝心で。イレギュラーなことをたくさん経験した方が、引き出しが多くなって、今後に活かせるように思います。そうやって、何事も前向きに捉えて実践していくのみですね」

川田さんの言葉は力強い。「絶対にいいワインを造るのだ」という、強い信念が静かにたぎっている。ブドウという繊細な植物との向き合い方には、自ずと生産者の個性があらわれるものであるが、川田さんはどのようなアプローチをしているのだろうか。

「『ブドウに声をかける』ことを大切にしています。枝や実を見ながらどういう作業をして欲しいのかを一つひとつ聞きながら。枝自体、1本1本違いますし、寒暖差があった方が品質的には糖度が上がったり、色付きが良くなったりします。今、暑いと感じているのか、それとも、寒いと感じているのか。お腹が減っているのか、水が欲しいのか。病気をしているような葉っぱがあったら、病が進んでしまわないようにすぐに葉っぱを切ります。ときには脇芽を切って、風通しと日当たりを良くしてあげることも必要です。本当に毎日、果てしないほどに仕事が無限にあるんです」

こうして大事に大事に育てたブドウをワインにする醸造所は、畑から車で数分のところにある。

2019年に完成した醸造所。戦後頃までに大三島の各所にあったタバコの乾燥小屋をモチーフにした越屋根(こしやね)が特徴。建物の裏には美しい海が広がり、敷地内には古い木造校舎を改修した宿泊施設「憩の家」と「岩田健 母と子のミュージアム」がある。観光で訪れても楽しい場所になっている。
醸造所を訪れると、ブドウの心地良いアロマがふんわり、充満していた。完成したワインは、木製の樽とステンレス製のタンクに分けて貯蔵するスタイルにしている。

「どの容れ物で貯蔵するかは、ブドウの品種や状態を見て判断するようにしています。樽は樽職人が香りづけのために内側を火で炙り、焦がして作られていて。それが、ワインの香りを決める大事な要素になる。焼き加減はこちらでオーダーができて、僕らは『ミディアムロースト』にしています。内側を焼くことによって、木やコーヒーの香りをつけることができるのが、樽の最大の特徴。ただ、樽の香りは相性があって、相性が良くないワインを樽に入れたら香りがケンカしてしまって、まとまりがないワインになってしまうこともあります。その辺りをきちんと判断してから毎回、進めています」

ステンレスの醸造タンクは蓋が小さい「密閉型」と、葡萄の粒ごと入れやすい「開放型」の中間をとり、酸化しづらさと作業効率のよい形を実現した。

ナチュラルワインを定義づけするよりも、直感的においしいワインを追い求めて。

ここ最近は「ナチュラルワイン」を定義付ける価値観として、醸造の際に「亜硫酸塩」を使っているかどうかをポイントにする風潮もある。それについて、川田さんはどんな意識を持っているのだろうか。

「うちはブドウの内容に応じて最低限の量だけ使うようにしています。使わずにおいしくないワインができるのであれば、多少なりとも使って自分たちが納得できるクオリティのワインを作るスタンス。本当に最良なブドウが採れたら、全く使わずに済むようになると思います。ある意味、醸造では“加点”することができないんです。だから、100点のワインを作りたかったら100点のブドウを作らないといけない。それに、亜硫酸塩や酵母を使っているからナチュラルではない、という風潮は造り手からするととても悲しいことで。年中汗を流しながら収穫したブドウを丹精込めてワインにしている行為が、とても自然的なことだと思いますし、そういう過程を差し置いて『自然派か自然派じゃないか』を定義づけられるのはちょっと違うのでは、と思ったりしますね」

造り手の想いを受け止め、畑の景色を想像しながらワインを飲んでみる。飲み手が、そんな意識を持ったらもっと奥深く、しみじみとワインを楽しむことができるはずだ。実際に、ワインが飲める販売所「大三島みんなの家」が大山祇神社の参道にある。どことなく、昭和のムードが残る参道の景色を眺めながらゆっくり歩くのが楽しい道だ。

大山祇神社参道に建つ元法務局を改修した建物。妻の川田祥子さんがスタッフとしてワインの魅力を伝える“語りべ”となって、ワインをサーブしている。

「大三島 みんなのワイナリー」ではブドウで造るワインだけでなく、島のミカンで造られたユニークなワインもあるという。立ち上ってくる柑橘の香りがとても爽やかだ。それでいて、口に含むと皮の苦味がはっきり前に出てくる、今までに飲んだことがない新しい感覚を覚える味わいだ。

「島の農家の方々からミカンを買い取らせてもらっています。そういった形で、もっと農家さんの経営が安定するようなことができれば、と思っています。今日、サーブしたのは、島で有機栽培されている伊予柑とネーブルを使ったもの。両方皮が厚く、皮のオイリーな感じや苦味が前面に出ています。柑橘の個性がしっかりと感じられる、パワフルな味わいですね」と、祥子さんが、愛情いっぱいにワインの魅力を教えてくれた。

グラスワイン1杯550円で提供。ワインだけでなく、ブドウジュースも飲める。休日に飲み比べセット1100円をオーダーして、ゆっくり過ごす人も多い。

島の潮風がほのかに感じさせる塩味が特徴の白ワイン「島白(しましろ)やマスカット・ベリーAを主体とする赤ワイン「島紅(しまんか)」シリーズ。瓶内二次発酵で仕上げたスパークリングワイン、発泡性果実酒「島みかん」シリーズ、「しまんかジュース マスカットベーリーA100%」などが揃う。この場で飲めて、購入もできる。
あたりまえに海の風景を見られる大三島という温暖な土地。ここで飲むワインは格別で、“ワインの感じ方”さえも、変えてしまう魔法のような引力がある。この場所を訪れた後は、瀬戸内の海の記憶を反芻しながら、ふたたびワインを味わう豊かな時間に身を浸したくなるだろう。


クーポン対象:大三島みんなのワイナリー商品一覧

2023年収穫の大三島産シャルドネ100%使用の白ワイン

2023年大三島では、年間をとおして雨が少なく、9月以降の台風もなかったために、病害もでにくく雨量に関してはとても恵まれた年となりました。一年を通じて気温が高かったことで全体的にライトで優しい味わいのワインになっています。

低圧でゆっくりと搾り、綺麗な果汁を低温で発酵させました。クリーンでフレッシュな果実味を楽しめる白ワインです。白桃、青りんごの香りに続けて、レモンなどの柑橘のニュアンス、そしてほのかな後味の塩味。大三島独自の味わいをお楽しみいただけます。生産本数1300本。海鮮サラダ、瀬戸内蛸のマリネ、カルパッチョなどとあわせてぜひお召し上がりください。


大三島で無農薬栽培を手掛ける花澤家族農園さんの伊予柑とネーブルを使用し、ワインと同じ製法で醸造した果実酒

皮ごとしぼった柑橘果汁を発酵させ、瓶内に発酵由来の炭酸ガスを閉じ込める瓶内二次発酵でしあげ、すべての行程で亜硫酸塩(酸化防止剤)は添加せずに仕上げています。キリっとしたシトラスの香りのインパクトと、皮由来の苦味が特徴的で、ハーブと柑橘の香りの余韻が長い「島みかん」シリーズのトップキュヴェです。


2023年収穫の大三島産マスカットベーリーA使用の白・スパークリングワイン

2023年収穫の大三島産マスカットベーリーA使用の白・スパークリングワイン。2023年大三島では、年間をとおして雨が少なく、9月以降の台風もなかったために、病害もでにくく雨量に関してはとても恵まれた年となりました。一年を通じて気温が高かったことで全体的にライトで優しい味わいのワインになっています。

通常、赤ワインに使用されるマスカットベーリーAですが、白ワインと同じ製法で色が出ないように圧搾し、瓶内二次発酵により白のスパークリングワインとして仕上げています。穏やかな酸味とリンゴの蜜のような甘やかなニュアンスが優しい、普段の食卓に寄り添うようなワインです。 蒸し鶏やドライフルーツ・チーズなどをつかった前菜などによく合います。



INFORMATION

大三島みんなの家 ワイン販売所
住所:愛媛県今治市大三島町宮浦5562番地 大三島みんなの家
TEL:0897-72-9377
営:10:00-16:00
休:月曜日
駐車場:乗用車1台(駐車無料)
HP:http://www.ohmishimawine.com/

Photo by : Yoshiki Okamoto Edit & Text by : Seika Yajima

愛媛の旅で出会ったサステナブルなものづくり

砥部:前編 後編
大洲:前編 後編
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