2022/9/13更新
「これからの未来」への話。vol.2(前編)
小林メリヤス株式会社
持続可能な社会を作り出すためには、いま、自分たちに何ができるかを考え、課題に対して誠実に向き合い続けることが大切なことだと思います。そのヒントを探すべく、「サステナブル」な取り組みに感銘を受けた生産者や企業の方に、「EARTH MALL with Rakuten」編集長・平井江理子がお話をお伺いします。第2回のパートナーは、山梨県南アルプス市にある、オーガニックコットンのベビー服を中心にものづくりやサステナブルな取り組みに邁進する「小林メリヤス」の代表取締役・木村彰さんです。
平井:日本では製品としてはまだ数少ないGOTS認証を取得されるなど、
早くからオーガニックコットンを素材に用いたものづくりをされていらっしゃる「小林メリヤス」さんの理念と実行力に感銘を受けました。本日は日頃から実践されていらっしゃるサステナブルな取り組み、ものづくりへの想いについてお話をお伺いさせて頂きたいと思います。また、実際の制作現場を見せて頂けたら。
木村:「小林メリヤス」は義祖父が、戦前に絹糸の製糸業を営んでいたことが始まりです。戦後、ものが手に入りづらい時代に余った絹糸を利用して、手横と呼ぶ手動の機械で近所の子どもたちにセーターを編んでいました。
地元の主婦の方々が工場に集まり、皆で手を動かしていた、と聞いて
います。その後、昭和30年くらいになったら機械化がどんどん進んでいって。今、うちが使っている編機は、島精機製作所のもの。この機械が24時間動いているので昔に比べて生産効率自体、とても良くなったと思います。こうしたマシンは設備投資として非常に費用がかかるので、新たに事業を始めるのはなかなか難しいところがあるのが実情です。また、ここ30年の間に人件費が安い海外生産が増え、国内の繊維産業自体、98.2%が輸入に頼っているんです。つまり、たったの2%しか国内で作っていないんですよ。
平井:国内の自給率がそんなに低いとは。安いコストで作れる国の製品が大量に流通していることは認識していましたが、ニット産業はそこまで下がってしまっているんですね。オリジナル商品以外にもOEM商品も作っていらっしゃいますか?
木村:ベビーや子ども服、あとは学校の制服も作っていますね。産婦人科医院の院内着、新生児が退院するときのギフトとして依頼されるベビー服などをオーガニックコットン素材で作っています。ベビーニットの分野においては、草分け的なブランドだと自負していて。最先端の3D CADシステムとコンピューター制御の横編機、職人の技術を組み合わせて作っています。実際、どういう風に針が動くのか、3Dで確認できるようになっているんです。糸の特性に合わせて40台の編み機を使い分けて、風合いのよさを最大限に導くように、日々努力しています。
産婦人科医院からの依頼で新生児が退院するときのギフト用に作ったベビー服。高圧のスチームでひとつひとつプレスし、型崩れのない端正な仕上がりに。
編み地の柄を作り、CADでデータ化。データをマシンに入力すると機械が編んでくれるシステムになっている。
麻の葉柄の文様柄を立体的に編み込んだ
「cofucu」(コフク) オーガニックコットン ベビー 麻の葉柄ニットアフガン ナチュラル 85×85 6,820円(税込)。
オーガニックコットン100%の素材で作られたさらりとした肌触りが特徴。ベビー用のおくるみ、そして肌寒いときの掛けものとして使用できる。
木村:この麻の葉柄のニットは、洗いにかけて編み地を収縮させています。そうすることで独特の風合いを作ることができます。工場のすぐそばにそびえる、
南アルプス山脈から流れる南アルプス天然水が弊社で使用する水源となっています。マグネシウムとカルシウムが少ない軟水を使用することで優しい風合いを出すことができます。
平井:洗いや染色の工程で水は相当な量を使うのでしょうか?
木村:そうですね。最低限のエネルギーでのものづくりを行っていますが、ニットには大量の水が不可欠です。例えば、1枚のTシャツ(200g)を作るのに、使用する水は2,900ℓ程度。綿花栽培、洗いや染色などの工程でそのくらい使いますね。ただ、こうしたひと手間を加えることで、家庭で洗濯しても縮まないニットができるんです。
平井:以前お伺いした際に、2020年5月からは工場で使用するすべての電力を再生可能エネルギーに切り替えたということも伺いましたが、水や電力など、製造に不可欠な資源に配慮しつつ、製品としてのクオリティも保っていくバランスが重要なんですね。原料についてもお伺いさせていただきたいのですが、
「小林メリヤス」さんは、オーガニックコットンを使った商品の比率がどんどん増えてきているのでしょうか?
環境に、素肌に優しいオーガニックコットンの素材を用いた
ブランド「cofucu」を2011年に立ち上げた想い。
木村:今は商品全体として、3割くらい。年々増やしています。うちが生産している商品は、OEMの商品が7割、オリジナルが3割です。オリジナル商品として「cofucu」というブランドを立ち上げたのは、2011年。オーガニック認証において世界で最も実績があり、基準が厳格なグローバルオーガニックテキスタイル基準の認証機関「コントロールユニオンジャパン」から国際認証GOTSの認証を取得し、その基準に沿ったものづくりをしています。
平井:「cofucu」はオーガニックコットン100%の素材で作られているのですよね?
木村:そうですね。環境に優しい天然素材を子どもの頃から体験してほしい、という想いから立ち上げたブランドです。現在は引退されているのですが、大正紡績株式会社で営業部長をされていらっしゃった近藤健一さんという方がいるんです。彼から一般的なコットンの栽培をする農家は、貧しいがゆえに、労働を強いられる子どもたちがいて、学校に通う機会を奪われていると聞きました。そうした社会問題を近藤さんから教えて頂き、大変ショックを受けて。それで、オーガニックコットンを用いたブランドを展開していきたい、と心に強く思い、このようなブランドを立ち上げた次第です。
平井:当時は、オーガニックコットンという言葉は世の中でどのくらい使われていましたか?
木村:「有機綿」「有機栽培綿」という言葉で語られていたと思います。まだ世の中にはそれほど認知されておらず、食べものや化粧品で「オーガニック」という言葉が使われていた時代。まだ、実現できていないのですが、いつか、農地にも行ってみたいと思っています。そして、もっとGOTS認証を取っている製品が増えてくれたらいいな、とも考えています。そういった状況になってこそ、日本のものづくりのレベルの水準が上がっていると言えると思いますし、グローバルで戦えるようになると思うので。
平井:日本の分業制といった、独特なものづくりの影響で認証を取るのが難しいと聞きます。GOTSを取得する際に苦労した点はありますか?
木村:企画から編み立て、縫製までを一貫して行うことのできる工場を持っているので、他と比べて管理しやすい状況ではあると思います。ですが、オーガニック素材100%の工場ではないので、別の素材と混ざらないようにすることを徹底しています。海外にはオーガニック100%の工場があるのですが、国内だと、そこまでのレベルの工場がないのが実情です。僕らは、共に働いているスタッフ全員に「オーガニックコットン」とはどのようなものか、理解して働いてもらえるような環境作りを意識しています。皆が同じ意識を持てるように足並みを揃えていくまでにとても時間がかかりました。
平井:今、お話しを伺っている部屋にも「オーガニックコットンのライフサイクル」を説明したパネルがあったのを見かけて、何度もお話しされてきているんだろうなと想像していました。足並みを揃えていくというのはシンプルなことのようですが、重要なポイントですね。工場内を拝見させていただいて、職人技の凄さも垣間見させていただきましたが、社員の方の働き方についてもお話をお伺いしてみたいです。
後編へ続く
PROFILE
小林メリヤス株式会社
昭和24年に創業。自然豊かな南アルプス山脈の麓でベビー、子ども服の専業メーカーとして国内生産を続ける。最先端の3D CADシステム、コンピュータ制御のヨコ編み機を使用し、職人の手仕事と融合して風合いの良さを引き出したものづくりを大切に制作している。また、2009年にオーガニックコットン国際認証GOTSを取得。基準に沿ったものづくりを自社工場で行っている。
小林メリヤス(https://kobameri.co.jp/)
cofucu baby
Photo by: Mitsugu Uehara Edit & Text by : Seika Yajima