2023.08.21
日本酒造りに欠かせない酵母の役割は?種類やおすすめ商品を紹介
「酵母」は、美味しい日本酒を造るのに欠かせません。しかし、「酵母がどのように日本酒造りに影響しているか」「酵母を使うことで具体的にどんな味に仕上がるのか」まで知っている人は少ないのではないでしょうか。
日本酒をもっと楽しみたいと思っている方に向けて、この記事では、酒と食に関するセミナーなども行う専門家の友田晶子さん監修のもと、酵母の働きや酵母の種類別の特徴を紹介します。
- 監修者
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日本のSAKEとWINEを愛する女性の会 代表理事
友田 晶子(ともだ あきこ)
米どころ酒どころ福井県に生まれ、ワインの輸入販売やフランス留学を経験。現在は、業界30年以上のキャリアと感性を活かし、酒と食に関する一般向けセミナー・イベントの企画・開催、ホテル旅館・料飲店・酒販店・輸入業者などのプロ向けコンサルティングと研修を行っている。お酒にまつわる書籍を20冊以上執筆したほか、田崎真也氏オーナーのワインバー「アルファ」(銀座)代表を歴任。お酒を通じて女性の教育・活用 社会進出支援に力を入れる一般社団法人「日本のSAKEとWINEを愛する女性の会(通称:SAKE女・サケジョの会)」の代表理事として活動中。
- 目次
酵母とは?
酵母とは、肉眼では確認できない微生物の一種で、食材を発酵させる働きがあるものです。酵母には、糖分をアルコールと炭酸ガスに分解する働きがあります。
酵母と一口にいっても種類は多く、それぞれ特徴が異なります。酵母は、発酵と同時に香りの成分を作り出しますが、この香りも酵母によって異なり、リンゴやバナナなどさまざまな味の個性を生み出します。
日本酒における酵母の役割
日本酒における酵母の役割は以下の2つです。
- 原料をアルコールに変える
- 香りのもととなる
原料をアルコールに変える
日本酒造りの工程で酵母は、お米に含まれる糖分を利用してアルコール発酵を行います。
アルコール発酵とは、糖分をアルコールと炭酸ガスに変換することをさします。酵母がアルコール発酵を進めることでお酒になるため、日本酒造りには欠かせない原料のひとつです。
なお、酵母が直接お米に反応するわけではありません。お米に含まれるデンプンはそのままでは分解できないため、最初に麹菌の酵素を使って糖に分解(糖化)する必要があります。
そのため、麹によって糖に分解されたものをアルコールに変えるのが酵母の役割といってもいいでしょう。
香りのもととなる
酵母が発酵する時に、香りの要因となる成分を生み出します。この酵母の働きにより、日本酒からフルーティーな甘い香りがすることもあります。
酵母が生み出す香りは大きく2つに分けられます。
- 爽やかで青さのある香り
- 甘いフルーツの香り
爽やかな香りを生み出すのは「酢酸イソアミル」という成分です。こちらは高い温度になると香りが引き立つと言われています。
一方、甘い香りになるのは「カプロン酸エチル」です。こちらは温度が上がると香りが弱まるため、日本酒製造時に熱を入れないようにして、独特の香りが消えないようにすることもあります。
このように日本酒の香りは、酵母によって異なります。
発酵により日本酒ができるまで
日本酒は、アルコール発酵させて造るお酒のなかでも製法が複雑なのが特徴です。その理由となるのが「並行複発酵」という呼ばれる技術です。
並行複発酵とは、麹菌によって米を糖化する反応と、その糖をアルコールに変える発酵が同時に行われることです。
発酵により造られるほかのお酒を見てみると、ワインは原料にブドウ糖が含まれているため、そもそも糖化が必要ありません。また、ビールの場合は、麦芽を糖化してその後に発酵が行われ、工程が分けられています。
このようなお酒と異なり、日本酒だけが糖化と発酵を同時に行っています。ほかにない製法で安定したお酒を造るには、高い技術力や経験が必要となります。
日本酒造りに使われる酵母の種類
日本酒造りに使われる酵母は、「清酒酵母(せいしゅこうぼ)」と呼ばれます。この清酒酵母には以下のような種類があります。
- きょうかい酵母
- 蔵付き酵母
- 自治体酵母
- 花酵母
きょうかい酵母
「きょうかい酵母」は、日本醸造協会が管理し、頒布している酵母の総称です。発酵力や香りなどに優れた酵母を集めており、安定した日本酒が造れます。
きょうかい酵母の中でもよく使われるのが、「6号」「7号」「9号」です。それぞれの特徴を以下にまとめました。
- 6号酵母:発酵力が強く、香りは穏やか。現在頒布されている中では一番歴史が長い
- 7号酵母:華やかな香りが特徴的で発酵力も強い
- 9号酵母:香り高く、酸は控えめ
6号酵母は昭和10年に登場し、10年ほど前から再度関心が高まっています。7号酵母は万人に好まれる癖の少ない味わい、9号酵母は低温発酵向きでなめらかな味わいと言われています。
蔵付き酵母
「蔵付き酵母」は、各酒蔵に自生している酵母です。オリジナルの味わいが出せるものの、培養する手間がかかり、安定した味を提供するのが難しい酵母でもあります。
そのため、昔は蔵付き酵母で日本酒を作ることが多かったものの、現在はきょうかい酵母のほうが主流となりました。
蔵付き酵母の代表的な種類と使われている日本酒は以下のとおりです。
- HY酵母(櫻正宗)
- 菊正酵母(菊正宗酒造)
- 五橋酵母(五橋酒造)
自治体酵母
「自治体酵母」は、地方自治体が持っている研究機関や試験所で開発された酵母です。各地の気候や風土に合わせたものが開発されており、地酒造りに欠かせません。
その土地の酒米によく合うとも言われており、基本的に所有する都道府県のなかでだけ、使用されます。ただし、物によっては自治体酵母から協会酵母となり、全国に頒布されることもあります。
花酵母
そのほか、花から作られた「花酵母」もあります。東京農業大学の中田教授によって開発された酵母で、以下のような種類があります。
- なでしこ
- ひまわり
- ツツジ
- コスモス
- マリーゴールド
花ごとに香りや特徴が異なり、全体的に香り高く上品に仕上がるのが特徴です。
【酵母別】日本酒のおすすめ5選
酵母の違いによる味わいを楽しみたいという方に、楽天市場で取り扱いのある日本酒の中から、専門家が選んだ酵母別のおすすめ商品を5つ紹介します。
「自治体酵母」を使った日本酒は、地域によって味わいも大きく異なるため、ここでは「きょうかい酵母」「蔵付き酵母」「花酵母」を使った日本酒を選定しています。
【きょうかい6号】ゆきの美人 純米吟醸 愛山 6号酵母
ゆきの美人 純米吟醸 愛山 6号酵母
容量 | 1,800ml |
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蔵元 | 秋田醸造 |
産地 | 秋田県 |
種類 | 純米吟醸酒 |
アルコール度数 | 16度 |
味わい | フレッシュで華やかな味わい |
おすすめの飲み方 | 冷酒または常温 |
おすすめの付け合わせ | 和食全般 |
ゆきの美人はマンションの一角に立てられた、秋田醸造にて造られた日本酒です。2001年に蔵を建て替え、低温管理ができる設備を整えたことで、1年を通じて酒造りができるのが強みといえます。
口あたりが柔らかく、キレのある華やかな味わいが特徴です。
【きょうかい7号】扶桑鶴 純米にごり酒
扶桑鶴 純米にごり酒
容量 | 1,800ml |
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蔵元 | 桑原酒場 |
産地 | 島根県 |
種類 | 純米酒 |
アルコール度数 | 15度 |
味わい | 爽やかな乳酸の香りとキレがある |
おすすめの飲み方 | 冷酒または常温 |
おすすめの付け合わせ | ニラレバ、乳製品を用いた料理など |
扶桑鶴は、きょうかい7号酵母を使用した日本酒です。6号酵母に比べると香りが華やかでお米由来の優しい甘みを楽しめます。
おすすめは冷酒ですが、常温から燗酒まで幅広く楽しめる旨味があるため、ぜひさまざまな飲み方をお試しください。
【きょうかい9号】るみ子の酒 特別純米 9号酵母
るみ子の酒 特別純米 9号酵母
容量 | 720ml |
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蔵元 | 森喜酒造場 |
産地 | 三重県 |
種類 | 特別純米酒 |
アルコール度数 | 15.7度 |
味わい | スッキリしつつ腰のある酒質 |
おすすめの飲み方 | 冷酒、常温、ぬる燗、熱燗 |
おすすめの付け合わせ | 水菜やみょうがなどの苦味のある野菜やハーブが効いた料理、卵料理など |
るみ子の酒特別純米は、きょうかい9号酵母ならではのソフトで上品な甘みと香りが特徴です。美味しさを維持するために、高級酒の製法でもある伝統的な「蓋麹法(ふたこうじほう)」で、労力や手間をかけて細部までこだわっています。
ボトルには「夏子の酒」の作者、尾瀬あきら先生が書いたデザインが施されており、見た目も印象的な1本です。
【蔵付き酵母】高清水 純米大吟醸 蔵付酵母仕込み
高清水 純米大吟醸 蔵付酵母仕込み
容量 | 720ml |
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蔵元 | 秋田酒類製造 |
産地 | 秋田県 |
種類 | 純米大吟醸酒 |
アルコール度数 | 15.5度 |
味わい | やや辛口で力強い酸味。リンゴや洋梨を連想する爽やかな香りにスパイシーさも感じる |
おすすめの飲み方 | 冷酒または常温 |
おすすめの付け合わせ | 握り寿司、ポテトサラダ、カルパッチョなど |
この日本酒の蔵付き酵母は、仕込み室に祀った神棚に生息した酵母を分離したもので、高清水オリジナルです。吟醸酒用に開発されたお米「秋田酒こまち」を精米歩合35%まで磨き上げ、華やかな香りに仕上げてあります。
【花酵母】天吹 純米大吟醸 りんご酵母
天吹 純米大吟醸 りんご酵母
容量 | 720ml |
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蔵元 | 天吹酒造 |
産地 | 佐賀県 |
種類 | 純米大吟醸 |
アルコール度数 | 16.5度 |
味わい | 旨味と酸味が頭頂のフルーティーな味わい |
おすすめの飲み方 | 冷酒または常温 |
おすすめの付け合わせ | 和食、イタリアンやフレンチ料理など |
自然の花々から分離した花酵母を使っており、りんごや洋梨のような香りや味を生み出しています。天吹は、フランスやイギリスなどの品評会でも高く評価され、国際的に認められた日本酒ブランドのひとつです。
個性的な銘柄で、普段日本酒を飲まない方にも試してほしい1本です。
まとめ
酵母とは微生物の一種であり、糖を分解してアルコールと炭酸ガスに変える働きを持ちます。日本酒づくりには欠かせないものであり、酵母によって味わいが異なるのも特徴です。
酵母に着目すると日本酒の味わいや特徴がつかみやすくなり、好みの1本を見つけるのに役立つでしょう。