2023.09.28
日本酒の「火入れ」とは?生酒とは異なる日本酒の味わいを解説
日本酒のラベルに書いてある「火入れ」とは、どのような意味なのか気になる方も多いのではないでしょうか。
日本酒の火入れは、お酒を加熱する工程のひとつで、品質や味わいを安定させるために行われます。中には、火入れを行わない日本酒や火入れを一度しか行わない日本酒もあり、それぞれ異なる味わいを楽しめます。
この記事では、酒と食に関するセミナーなども行う専門家の友田晶子さん監修のもと、火入れの有無の見分け方や火入れによる味わいの変化について紹介します。
- 監修者
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日本のSAKEとWINEを愛する女性の会 代表理事
友田 晶子(ともだ あきこ)
米どころ酒どころ福井県に生まれ、ワインの輸入販売やフランス留学を経験。現在は、業界30年以上のキャリアと感性を活かし、酒と食に関する一般向けセミナー・イベントの企画・開催、ホテル旅館・料飲店・酒販店・輸入業者などのプロ向けコンサルティングと研修を行っている。お酒にまつわる書籍を20冊以上執筆したほか、田崎真也氏オーナーのワインバー「アルファ」(銀座)代表を歴任。お酒を通じて女性の教育・活用 社会進出支援に力を入れる一般社団法人「日本のSAKEとWINEを愛する女性の会(通称:SAKE女・サケジョの会)」の代表理事として活動中。
- 目次
日本酒の「火入れ」とは?
火入れとは、日本酒を絞り濾過したあとに加熱する工程です。通常は65度前後で行われます。お酒を加熱することで、殺菌や品質の安定化に役立ちます。
火入れの主な役割は、酵母の働きを止めて劣化を防ぎつつ、日本酒を腐らせる雑菌の繁殖を防ぐことです。火入れを行うことで、酵素の働きをコントロールでき、品質を安定させられます。
酵母による再発酵を止めたり酵素の働きを止めたりできるため、日本酒の劣化をおさえて長期保存がしやすくなります。そのほか、お酒を腐らせる乳酸菌を殺菌するのにも効果的です。
ただし火入れは、生酒が持っていたフレッシュな爽やかさを軽減させてしまうのがデメリットともいえます。この欠点を補う方法のひとつに「瓶燗火入れ」があります。
瓶燗火入れは、出荷に向けて一升瓶に日本酒を詰めたあと、火入れする方法です。これにより、フレッシュさを残しつつ劣化を抑える効果が見込めます。
瓶燗火入れは一升瓶を1本ずつ入れたり、温めて膨張した日本酒が蓋を飛ばさないようにあえて緩めに栓をしたりする必要があり、手間のかかる方法です。
火入れの有無を見分ける方法
日本酒に火入れをしているかどうかは、酒瓶のラベルから確認できることがあります。ラベルに「火入れ」と書いてある場合は、火入れをしている証拠です。
ただし、火入れをしていると書くことは義務付けられておらず、記載がない場合もあります。
火入れをしていない日本酒の場合は「生酒」「生」という表示があるため、確認しましょう。これらの記載がない場合は、火入れをしている可能性があります。
火入れの有無やタイミングにより名前が変わる日本酒と味の特徴
日本酒は、火入れのタイミングや回数により、名称が変わります。まずは、日本酒造りの工程を簡単に紹介します。
- 米と麹を混ぜてデンプンを糖に変える
- さらに酵母を含ませて発酵させ、もろみをつくる
- もろみを搾って日本酒を取り出す
- 火入れをする
- 日本酒を貯蔵する
- 火入れをする
- 瓶詰めして出荷する
このように、日本酒を貯蔵する前後で、火入れを行います。ただし、火入れをしないで作る日本酒もあり、前後どちらで火入れを省略するかで名称が変わります。
具体的な名称の変化を、表にまとめました。
絞り | 火入れ | 貯蔵 | 火入れ | 瓶詰め | |
---|---|---|---|---|---|
生酒 | 〇 | × | × | × | 〇 |
生貯蔵酒 | 〇 | × | 〇 | 〇 | 〇 |
生詰め酒 | 〇 | 〇 | 〇 | × | 〇 |
二回火入れ | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
それぞれ、どのような味の特徴があるのか見ていきましょう。
生酒
生酒は、火入れを一度もしていないお酒のことです。生酒は加熱処理を一切行わないため、搾りたてのフレッシュな香りや酸味が特徴です。
ただし、火入れをしていないからこそ、味が変化しやすいデリケートなお酒でもあります。なるべく酵素が反応しないように冷蔵保存し、開封後は早めに飲み切るのがおすすめです。
また、開封していなくても酵素は反応するため、購入したら早めに飲むほうが美味しくいただけます。
生貯蔵酒
生貯蔵酒は、貯蔵が終わったあと、出荷前に一度だけ火入れをしている日本酒です。加熱処理をせずに貯蔵するため、生酒に似た旨味を残しつつ、火入れを一度しているため品質が安定しやすいメリットがあります。
搾りたてのようなフレッシュな味わいやまろやかな口当たりが特徴的で、冷やして飲むのがおすすめです。ただし、通常の日本酒より火入れの回数は少ないため、風味を変化させないために冷蔵庫などで保存してください。
生詰め酒
生詰め酒は、貯蔵前に一度だけ火入れをしているタイプの日本酒です。先に火入れをして発酵を止めてから貯蔵する工程を踏むため、フレッシュな味わいはありつつ、生酒より酸味がおさえられているのが特徴です。
先に火入れをしているからこそ、半年ほど貯蔵してから出荷するものもあり、熟成されたなめらかな味わいを楽しめます。冬から春に絞ったお酒を秋頃出荷することから「秋あがり」「ひやおろし」と呼ばれることもある種類です。
火入れの主な方法
さまざまな役割がある火入れですが、ここではその方法をひとつ紹介します。
一般的に火入れに用いられるのが「プレートヒーター」という機械です。
プレートヒーターは、配管にお酒を通し、その管を熱で温めることで加熱する仕組みになっています。熱交換用のプレートが備えられており、火入れで温めたお酒の熱を火入れ前のお酒にうつすことで、一気に温度を下げられるのがメリットです。
熱交換用のプレートを複数枚組み合わせれば、短時間での加熱、冷却ができるようになり、長時間熱に触れて品質が落ちることを防げます。
【生酒・生貯蔵酒・生詰め酒】日本酒のおすすめ3選
ここまで読んで、火入れをしていないお酒の味が気にあった方もいるでしょう。そこで、楽天市場で取り扱いがある日本酒の中から、専門家が選んだおすすめの生詰め酒、生酒、生貯蔵酒を1つずつ紹介します。
火入れの有無やタイミングによって異なる特徴をぜひ飲み比べてください。
生酒のおすすめ「鶴齢 吟醸 生酒」
鶴齢 吟醸 生酒
容量 | 720ml |
---|---|
蔵元 | 青木酒造 |
産地 | 新潟県 |
種類 | 吟醸酒 |
アルコール度数 | 15度 |
味わい | 華やかな香りで辛口 |
特徴 | すりガラスのボトルの見た目も美しい |
おすすめの飲み方 | 冷酒または常温 |
おすすめの付け合わせ | 漬物や干物などの塩辛いものなど |
鶴齢は新潟を代表する日本酒のひとつであり、300年以上も酒造りを続けている蔵元が作っています。1年に2回、1月と3月に瓶詰めを行い、専用の冷蔵庫で貯蔵されたこの日本酒は、辛味もありつつ華やかな旨味があります。
華やかで飲みやすく、初心者にもおすすめの1本です。
生貯蔵酒のおすすめ「奥の松 特別純米 生貯蔵酒」
奥の松 特別純米 生貯蔵酒
容量 | 300ml |
---|---|
蔵元 | 奥の松酒造 |
産地 | 福島県 |
種類 | 特別純米酒 |
アルコール度数 | 15度 |
味わい | 穏やかな香りと深い旨みのある飽きのこない味わい |
特徴 | モンドセレクション金賞を始め、多くの賞を受賞 |
おすすめの飲み方 | 冷酒、常温、ぬる燗 |
おすすめの付け合わせ | 魚料理をはじめとする日本料理など |
製造時に火入れをせず、出荷前にのみ火入れを行う生貯蔵酒で、全米日本酒歓評会2022金賞、全国燗酒コンテスト2020最高金賞などさまざまな場所で評価されています。
手頃な価格ながら、穏やかで飽きのこない1本なので、ぜひ一度お試しください。
生詰め酒のおすすめ「大七 純米生もと 生詰め」
純米生もと 生詰め
容量 | 720ml |
---|---|
蔵元 | 大七酒造 |
産地 | 福島県 |
種類 | 純米酒 |
アルコール度数 | 15度 |
味わい | 奥行きがあり豊かな旨味のあるまろやかな味わい |
特徴 | 貯蔵前に火入れをしている生詰め酒、多くの地酒の賞を受賞している |
おすすめの飲み方 | 常温、ぬる燗、熱燗 |
おすすめの付け合わせ | 寄せ鍋や鶏の唐揚げ、ブリの照焼など |
昭和58年から長い間愛されている1本です。どんな料理にも合わせられ、料理によって引き立てられる定番の美味しさをお楽しみください。
まとめ
火入れとは、お酒を絞ったあとに加熱を行う工程です。おもに殺菌や酵素が反応することによる劣化を防ぐ目的で行われます。
通常、火入れは貯蔵前と貯蔵が終わった出荷前の二度行いますが、火入れを一度しか行わない、または一度も行わない日本酒もあります。火入れの有無やタイミングで風味が変化するため、ぜひ飲み比べてみてください。日本酒を選ぶ時に、火入れのあるお酒かどうか見るのもおすすめです。