産後の肥立ち(ひだち)とは?症状や期間、気を付けることを解説【助産師監修】
2021/11/12
産後の肥立ちとは、出産後の女性の心身が妊娠前の状態までに回復することを表す言葉です。この記事では、その症状や期間、気を付けるポイントについて詳しく解説しています。産後の肥立ちが悪い場合の対処法についても紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。
この記事の監修者
バースコンサルタント・助産師
古市菜緒さん
助産師として1万件以上の出産に携わり、7千人以上の方を対象に講師を務める。その他、妊娠・出産・育児に関する刊行物・商品・サービスなどの監修、産院のコンサルなどを行う。2児の母。
目次
昔から、女性の体は産後の肥立ちが肝心だと言われています。今回は、産後の肥立ちとは具体的に何なのか、またどのようなことに気を付けないといけないのかを詳しくお伝えします。
産後の肥立ちとはなに?
「産後の肥立ち」とは医学用語ではなく、古くから「妊娠・出産した女性が元の体に回復するまで」を指す言葉です。医療がまだ十分ではなかった頃は、産後の肥立ちが悪いと命を落とすことも珍しくありませんでした。そのため昔から、出産を終えた女性は、心身を休ませ、周りが体調に気遣うようにサポートをしなければならないとされていました。
現在は、「産後の肥立ち」を医学的に「産褥期(さんじょくき)」と呼んでいます。産褥期は、悪露(子宮内に溜まった血液や分泌物など)の排出がおさまり、子宮の状態やホルモンバランスが、妊娠前の状態に回復するまでの産後6~8週の期間を指します。そのため日本では、母体の健康を守るため、仕事復帰は最低でも産後6週間後からと法律で定めています。
産後の肥立ちでみられる症状
出産は、全治数か月の交通事故に匹敵するほどのダメージを、体に与えると言われています。加えて、産後すぐ始まる育児や、ホルモンバランス、環境の変化などが原因で、産褥期は心身ともに不調を来しやすい時期なのです。
ここでは、産褥期にみられる主な症状をご紹介していきます。これらの症状には、個人差がありますが、そのまま放置しておくと、今後の生活に支障が出る場合もありますので、症状が持続する場合は必ずかかりつけの産婦人科などに相談しましょう。
・後陣痛(産後の子宮収縮)が生じる
出産後からすぐ、後陣痛と呼ばれる子宮の収縮が始まります。後陣痛が起こることで、胎盤が剥がれた子宮壁からの出血が止まり、子宮内に残った卵膜などの内容物もスムーズに排出することができます。この後陣痛が弱いと、産後の異常出血や子宮内感染症などを起こす原因になるため、後陣痛は産後の回復に必要な反応です。
しかし、この後陣痛の痛みには個人差がみられます。特に経産婦さんは、以前の出産のときよりも痛みを強く感じる傾向があります。また、動いたり、母乳を与えることで子宮収縮が促され痛みを強く感じることもあります。
・悪露(おろ)が出る
悪露とは、子宮内に溜まった血液や分泌物のことで、腟を通って排出されます。悪露の排出は産後1~2か月みられますが、徐々にその色は赤色~褐色~白色と薄くなり、量も少なくなります。悪露の量が落ち着いた後も、母乳を与えることで起こる子宮収縮により、一時期的に悪露が多く排出される場合があります。
・傷が痛む
経腟分娩で、会陰裂傷や切開をした後に縫合の処置を行いますが、その縫合部に痛みが生じることがあります。会陰部の縫合部痛は、座る時や排尿時に生じやすいため、痛みが落ち着くまでは、患部に直接圧を加えないようにドーナツクッションを使って様子をみていきます。
また帝王切開では、腹部の傷の痛みが見られます。帝王切開の傷は、腹部に力が加わる動作(起き上がる、くしゃみをする)時などに生じます。姿勢の工夫や、腹帯をすることで、傷への刺激を和らげることができます。
・おっぱいが張って痛む
妊娠中から乳腺の発達がみられますが、出産を機に母乳の生成が活発になります。産後、乳管が開通していないと、母乳がうまく排出されずおっぱいが張り痛みを生じます。母乳のうっ滞(うったい)が続くと、乳腺炎を引き起こす可能性があります。
・貧血になる
出産時に出血が多いと貧血になります。また、母乳は母体の血液から作られるため、鉄欠乏性貧血を起しやすくなります。鉄分が不足すると、体力の低下を招き、動悸やめまいを引き起こすほか、母乳の出も悪くなってしまいます。
・発熱する
産後24時間から10日以内に2日間以上、38度以上の熱が出ることを「産褥熱」といいます。産褥熱は、お産のときに子宮や産道の壁にできた傷から感染して起きる発熱のことです。発熱の他にも、腹痛や悪露の異臭などが現れます。その他、産後は免疫力の低下がみられるため、膀胱炎や乳腺炎もこの時期の発熱の原因として多くみられます。
産後の肥立ちが悪いと、更年期障害に影響するって本当?
閉経前後の約10年の期間を「更年期」といい、「更年期障害」は、この時期に女性ホルモンの乱れが原因で生じる心身の不調や症状のことをいいます。更年期障害の症状は、個人差も大きくみられます。
産後の肥立ちが悪いと更年期障害に影響がある、ということも言われますが、医学的に証明されてはいません。しかし、出産で起きる骨盤の歪みや、骨盤底筋力の低下をそのままにすると、更年期を迎えた時に子宮脱や尿漏れなど起こす可能性はあります。また、産後うつを発症した方は、更年期にもうつを発症しやすいと言われています。
産後の肥立ちはいつまで、どれくらいの期間続く?
昔から、産後の安静を解除する時期を「床上げ」と言います。その期間が産後3週目とされており、この時期から、少しずつ布団を離れ、家事を行うようにとされてきました。産後にみられる症状には個人差がありますが、産後の肥立ちを良くするためにも、出産後1か月はなるべく無理をせず、少しずつ育児に慣れましょう。その後、1か月健診で何も問題なければ、湯船の入浴や、性生活、積極的な外出などができるようになります。とはいえ、兄弟がいたり、やむを得ない事情で安静にできなかったりする場合もあるでしょう。そんなときは、その日に行う家事を選択することが大切です。すべての家事を今までのように行うのではなく、買い物はネットを活用し、食事はお惣菜や冷凍食品、宅配に頼るなど、少しでも手間がかからない家事を考えていきましょう。
産後の肥立ちで気を付けるポイント
産後の肥立ちを、より良くするためのポイントについてお伝えします。
・無理は禁物
産後すぐから育児がスタートし、慣れないことの連続でついつい頑張ってしまうママが多いですが、無理をすると不調な状態が長引いてしまいます。育児や今後の生活にも支障を来す場合がありますので、自分と赤ちゃんのためだと思い、まずは周りの家族を頼っていきましょう。また、産後ケア施設の利用や家事代行などの利用により、人の手を借りるのもおすすめです。
・出産後に開いた骨盤が戻る過程で、体に負担をかけると、骨盤がズレる可能性がある
女性の体は、妊娠中に出産の準備をしていき、靭帯が柔らかくなります。骨盤や股関節が柔らかくなることで、産道が拡がり、出産時に赤ちゃんが産道を通りやすくなるのです。そのため、出産前後は骨盤が緩くなり、歪みやすい状態になっているとも言えます。
産後の体に負担をかける姿勢は、骨盤の歪みを招きその状態で固定されてしまうとことで、腰痛の悪化や、歩行が困難になるケースもあります。産後直後から使用できる骨盤ベルトを活用することは、骨盤のズレ予防に効果的です。また、産後の骨盤を専門としている整骨院に相談するのもよいでしょう。
・長時間の外出はしないように
産後1か月が過ぎるまでは、長時間の外出は避けましょう。産後のママの体は貧血や体力の低下がみられ、近場の外出でも息が切れやすくなります。また、免疫力も低下しているため、出産前に比べて感染しやすい状態です。
しかし、外出することで気分転換を図ることができます。外の空気を吸うことは、心の健康のためにも大切です。外出する際は、少しだけ赤ちゃんを預け、短時間と決め、人の少ないところに出向いて心身のリフレッシュを図りましょう。
・水仕事を行うと、目が悪くなる、という噂は迷信
昔から、水仕事を行うと目が悪くなる、産後の肥立ちが悪くとなると言われていますが、医学的根拠はありません。昔は今と家事の環境が全く違い、冷たい水を使って暗い中で家事をするのが当たり前でした。そのため、産後の家事は母体を冷やすことになり、目も酷使することに繋がるためこのような言い伝えがされています。
それは現代でも同様で、母体の冷えはよくありません。また、産後からスマートフォンの画面を見たり細かい字を見ることも、目を酷使することに繋がり心身の不調を長引かせてしまいます。実際、出産後は視力の低下を感じる方もいます。なるべく、体を冷やさないことを心掛け、スマートフォンを見る際は時間を決めるなどして使い方を工夫するのがよいでしょう。
産後の肥立ちが悪いときの対処法
「産後の肥立ちが悪い」とは、産後も心身の不調が続き、妊娠前の状態に回復しないことを指します。ここでは、産後の肥立ちが悪いとされる体と心の異常と、その対処法について解説していきます。
産後の肥立ちが悪いとされる体の異常
・子宮復古不全 ( しきゅうふっこふぜん )
子宮が元の状態に戻らず、悪露の排出が続き、貧血や腹痛といった症状がみられます。悪露の色がずっと赤色、量が多い、異臭がある、塊が出るような場合は、子宮復古不全の可能性があります。また、腹痛が強くみられるようなら子宮内感染を起こしている可能性がありますので早めに医師に相談しましょう。
・膀胱炎
産褥期は、免疫力の低下や、悪露による外陰部の汚染、さらに膀胱筋の低下によって尿が膀胱に溜まりやすくなるため、膀胱炎が起こりやすくなります。症状としては、頻尿、排尿時痛、残尿感がみられ、悪化すると腹痛や発熱がみられます。
・乳腺炎
母乳の分泌が滞ることや、乳頭にできた傷から細菌が入り込むことで、乳腺が炎症を起こし、乳腺炎になります。この乳腺炎は産褥期のみならず、授乳期間中は誰でも発症する可能性があります。症状としては、乳房にしこりや発赤が現れ、触ると痛みがあります。また、風邪のような倦怠感や悪寒、38度以上の発熱がみられます。
産後の肥立ちが悪いとされる心の異常
・マタニティブルーズ
出産後の女性は、女性ホルモンの増減により、「お腹の中で赤ちゃんを育てる体」から「赤ちゃんが母乳を飲める体」へ急激に変化します。また、産後から始まる育児や、睡眠不足によりホルモンバランスが崩れやすく、心身ともに影響を受けやすくなります。
そのため、産後数日頃から、気分が落ち込む、ふとしたときに涙が出る、急に不安に襲われるなど、情緒不安定な状態がみられます。これは「マタニティブルーズ」とよばれ、多くのママが経験するものです。この症状は一過性のものであるため、多くは数日~10日ほどで落ち着きます。
・産後うつ
マタニティブルーズがずっと持続し、気分の落ち込みがさらにひどくなりうつ状態になることを「産後うつ」と呼びます。これは、一時的なマタニティブルーズとは違い、心の病です。悩みを抱え込み放置しておくと、その後の生活に影響を来し、育児や家事も行えなくなります。心の不調が長引く場合は、かかりつけの産婦人科や心療内科へ、速やかに相談しましょう。
参考
MSDマニュアルプロフェッショナル版
18. 婦人科および産科 / 産褥の管理と関連疾患 / 産褥の管理
産後の肥立ちを良くするには
産後の肥立ちを良くするには、自分の心身の異常にいち早く気づき、体を回復させることが大切です。
・横になって安静にすることが第一
産後のママは育児に追われて、心身共に休まることができません。しかし、育児は一人で行うものではありません。周りのサポートを得ながら、休息を積極的に取ることも必要です。赤ちゃんが寝ているときに家事をするのではなく、一緒に休むようにしましょう。運動してリフレッシュを図るのもよいですが、まずは無理をせず、横になる時間をつくり安静にしましょう。
・食事の栄養バランスに気を付ける
産後は貧血になりやすく、生活リズムの乱れから、栄養の偏りがみられがちです。心身の状態を整えるためにも、三食しっかり摂取し、栄養バランスのとれた食事を摂りましょう。その中でも、産後に意識して摂りたい栄養素として、タンパク質、カルシウム、鉄分などが上げられます。
また、母乳を生成するためにも産後は水分が必要です。さらに膀胱炎も起こりやすいため、常温や温かくした水分をしっかり補給していきましょう。この際、味のついた飲み物やカフェイン入りの飲み物は避けましょう。
・周りの人に協力してもらう
育児は、周りの人の協力が必要不可欠です。そしてパパは、「育児や家事に参加」という姿勢ではなく、「育児と家事は夫婦で一緒にするもの」であることを、出産前から認識しておくことが大切です。体が回復するまでは、ママは無理をせず、できないことは相談して時には甘えていきましょう。
また、家族の協力が得られない場合は、産後ケア施設や家事代行、ファミリーサポートの利用を積極的に考えるとよいでしょう。地方自治体によっては、産後ケアを利用した際の助成を行っているところも多いので、自分のお住まいの地域で得られる助成をあらかじめ探しておくことをおすすめします。
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やっとの想いで赤ちゃんに会えたその後には、すぐ育児がスタートします。ママは本当に休まる暇がありません。しかし、産後の肥立ちが悪いと、今後の生活にも支障を来してしまいます。産後は赤ちゃんだけではなく、自分のことにも目を向けて心身を労わって下さいね。
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