会津盆地の北西に位置している喜多方市。北の一旦には標高2105mにもおよぶ飯豊山がそびえ立ち、そこに積もった豪雪がじっくりと時間をかけて地層へと染みわたり、まろやかさと甘みを含んだ軟水となって市内各所から湧き出しています。85%が水分でできている日本酒にとって、水はまさに命そのもの。喜多方が全国有数の酒処といわれる理由のひとつは、この上質できめ細やかな水にあるのです。
喜多方の中心地からほど近くにある1918年創業のほまれ酒造は、そんな喜多方を潤す軟水を用いて日本酒造りを行っています。「ほまれ酒造の日本酒は、すべてこのお水で造られています。この軟水に加え喜多方に降り注ぐ雪もまた、喜多方が酒造りに適していると言われる理由。しんしんと降る雪が空気中のチリやホコリを取り除き、醸造中の雑菌の繁殖を防いでくれるんです」そう話すのはほまれ酒造4代目の唐橋裕幸さん。ほまれ酒造の「ほまれ」はかつて戦地向けの軍用タバコとして有名で、ひらがなのため読みやすい、覚えやすい、大衆に訴えやすいことなどから名づけられたというエピソードも教えてくれました。
ほまれ酒造を訪れたときは、ちょうど「しぼりたて生 本醸造生原酒」の仕込みの真っ最中で、精米を終えた青森産まれの酒米「華吹雪」の洗米、侵漬、蒸米といった作業を行っていました。「酒造りには数えきれないほどたくさんの要素があり、すべての工程に意味があるんです」そう話すのは杜氏を務める、この道42年の中島一郎さん。驚いたのは、お米を水に漬ける時間や吸水量といったひとつひとつの作業のデータをこと細かに計測しているところ。日本酒といえばどこかアナログなイメージがありましたが、ほまれ酒造ではそれらすべて数値化したうえで、経験というもうひとつの物差しを加え、思い描いた理想の味へと導いていくのです。
「大切なのは再現性。年ごとに味や風味にばらつきがあっては一流とはいえません。まずはどんな酒を造りたいかをイメージすること。イメージ以上の味を再現できてはじめて、酒を造ったと言えるんじゃないですかね」中島さんたちによって手間暇かけて造られた「しぼりたて生 本醸造生原酒」は、30年以上にも渡って造り続けられているロングセラー商品。濃厚な甘口ですが、後味がすっきりしていることから女性はもちろん男性にも人気を博しています。
「しぼりたて生 本醸造生原酒」のおつまみとしておすすめしてくれたのが、喜多方市の「豆菓子問屋おくや」が手がける「10種ミックスうまいお豆」です。会津産のピーナッツや、黒大豆・青大豆・青えんどう・南瓜の種などに味付けをした昔ながらの豆菓子で、甘口のお酒にもぴったり。色とりどりの豆菓子は見た目にも華やかで、それでいて色んな味が楽しめるので、「あっという間に一袋空いてしまうこともしばしば」なんだそう。
「ほまれ酒造は来年で100周年を迎えます。喜多方の中で2番目に若い酒蔵ですが、
だからこそ新しいことに積極的に取り組んでいきたいんです」そう話すのは4代目の奥様であり、社長室長を務める唐橋美由紀さん。2015年に開催されたIWC※では福島県内の酒蔵としては初となる世界No.1の栄誉「チャンピオン・サケ」を受賞するなど、国内はもとより海外でも高い評価を得ています。「本物の日本酒をもっとたくさんの人に知ってもらいたいんです」海外への販路を年々広げているというほまれ酒造。喜多方の日本酒が世界のスタンダードになる日も、そう遠くない日にやってくるかもしれません。
※インターナショナル・ワイン・チャレンジとは、世界最大権威のワインおよび日本酒のコンペティション