料理好きたちのダイニング 料理人 鳥羽周作さん

2022.7.20

家庭料理なら手抜きではなく、
手間を省くものがあってもいい。

―今回は最新の書籍『食べたいから作る!鳥羽周作のとっておきごはん』よりレシピをご紹介しいただきましたが、普段どのようにレシピ作りはされていますか?
基本的に難しいことをやらず、家にあるもので美味しいものを作れるレシピを考えています。書籍にも書きましたが、市販品を使うことって悪いことじゃないと思うんです。例えば、甘じょっぱいすき焼きのタレを使って料理を作ることだって、手抜きではなくて手間を省いているだけ。それがレストランだったら嫌かもしれないですが、家庭料理なら全く問題ない。手間を省いて美味しいものを作れたほうがいいと思うので、今回の書籍ではそういったレシピをたくさん紹介しています。基本的にレシピを考えるときには試作をせず、頭の中で100回食べて作るイメージで(シミュレーションしています)。
―鳥羽さんはレストラン以外にも、コンビニご飯の監修などもされていますが、レシピを考えるときにはそれぞれどうやって作り分けをされているんですか?
誰が、どう食べるかの違いだけで、レストランも家もコンビニも熱量は全て同じ。求められているものを作っているだけであって、それぞれのレシピを考える際に考え方を変えることはないですね。
―レシピといえば、コロナ渦のステイホーム中の方々のためにTwitterで公開された「#おうちでsio」の取り組みも大反響を呼びましたよね。お店の秘伝のレシピを惜しげもなく無料で公開されていて、衝撃を受けました。
僕は料理という手段を使って、世の中をどうしたいかっていうことが大事だと思っているんです。レシピを共有することも、それによってみんなが幸せになれるでしょう?いい商品もみんなでシェアしたほうが喜ぶじゃないですか。これって“ハーゲンダッツ”理論だと思うんです。ハーゲンダッツの商品って、美味しかったらみんなに共有したくなるじゃないですか。レシピや道具も一緒で「これ、めっちゃいいからみんな使ってよ!」って教えたくなるんですよね。僕はこれからの時代は、シェアと拡張、その先に文化が形成されていくと思っているので、シェアする段階でのマネタイズは考えていません。本質的な良さがあれば、将来的に必ず利益は生み出せます。

食の分野でAppleを目指す。

―ところで、SNSの返信はすべてご自身でされていると伺ったのですが…。
SNSが好きなんですよね。僕がやっているSNSはすべて自身で目を通しています。毎日2時間くらいTikTokも見てますし(笑)。あそこのプラットフォームには新しいアイデアが詰まっているんですよ。だから僕は、毎日SNSに送られてくるDMにも目を通して、返信もしています。ルーティンワークになっていますね。
―ものすごい情報量ですよね。情報収集といえば、今回ご紹介いただいた調理道具も、強いこだわりが感じられるものばかりでした。鳥羽さんは普段からネットショッピングはされますか?
ものすごく! お店の備品や消耗品はもちろんのこと、プライベートでも楽天市場で買い物をすることも多いですよ。EC(イーコマース)で買い物をすることも、SNSをチェックすることも欠かせないライフワークなので、僕はスマートフォンがないと生きていけないですね(笑)。
―レストラン経営だけでなく、プロデュース業にも精力的に取り組まれている鳥羽さん。今後どんなことを手掛けていく予定ですか?
ミシュランを獲ったあと、何を目標にするかを悩んでいた時期もあったのですが、今は全部を美味しくしたいと思っていますね。5年で世界一の食の会社を目指すという目標を立てて、今年は海外へも進出する予定です。食の分野におけるApple社のような存在になりたいと考えています。食を通して、感動体験を提供していきたいですね。
―“感動体験”とは、具体的にどんなことですか?
例えば「究極の塩おにぎり」って、実はそんなに原価がかかってなくても、美味しくできると思うんです。富士山の頂上に朝から登って食べる塩おにぎりを想像してみてください。ただただ美味しいじゃないですか。それって西麻布で食べるウニやキャビアよりも、値段は安いけど感動する。お金をかければ、満足のいく料理を作れるわけではなくて。最高のシチュエーション(状況、場面)さえあれば、感動体験って作り出せると思うんですよ。
―そのために、日頃から心掛けていることはありますか?
料理を作るようになってから、人を感動させるためには相手のことを考えないといけないということがよくわかったんです。そのためには想像力が大事。そしてその想像力を活性化させるためにも、多くの情報を蓄えることが重要だと思っています。他の人がやっていないことをやっていることで、需要が生まれるんだと思います。

鳥羽周作(とば・しゅうさく)

sio株式会社 / シズる株式会社 代表取締役。 J リーグの練習生、小学校の教員を経て、31 歳で料理の世界へ。 2018年「sio」をオープン。同店はミシュランガイド東京 2020 から 3 年連続一つ星を獲得。 現在、「sio」「Hotel's」「o/sio」「o/sio FUKUOKA」「パーラー大箸」「㐂つね」「ザ・ニューワールド」「おいしいパスタ」と8店舗を展開。書籍 / YouTube / SNSなどで公開するレシピや、フードプロデュースなど、レストランの枠を超えて様々な手段で「おいしい」を届けている。モットーは『幸せの分母を増やす』。

■「ツナメルトサンド」も登場する鳥羽さんの最新書籍はこちら
「食べたいから作る!鳥羽周作のとっておきごはん」
https://books.rakuten.co.jp/rb/17095534/

撮影:猪原 悠
インタビュー:戸塚真琴
編集:長野宏美