Monthly Food Letter 【Nov.】山とジビエ

2020.11.04

北海道は10月1日、本州は11月15日からジビエが解禁します。最近は、山の動物による田畑の獣害が深刻で、猟期以外でも駆除という形で猟が行われています。が、本来は秋から冬がシーズン。ジビエを食べる前に思い出して欲しいお話です。

何年か前、天空の城「ラピュタ」のモデルになったと言われる兵庫県朝来市の竹田城趾に行きました。目的は天空の城ではなく、女性猟師Yさんを訪ねることでした。城郭のない石垣だけの山城、竹田城の周囲は深い山で、丹波竹田と言われます。かの有名な丹波栗の産地で、その栗を食べている猪も、他の地域より高い値で取引される土地。ジビエは、山の豊かさを伝える媒体です。

男性でも兼業猟師が多いのに、彼女は専業猟師でした。関西周辺のレストランでは、彼女の腕と仕事を信頼して直接取引している店が多いと評判だったのです。兵庫県は、最近増えている自治体の大型投資によるジビエ処理場ではなく、比較的小さな設備でも、条件を満たせば卸肉加工ができると聞きました。それで何が違うかといえば、誰が採って処理をした肉なのかが明らかということです。大型設備の方が大量の肉を安全に扱えるのは確かなのですが、その必要のない小さなレストランで、少量の特別なジビエを出したいなら、まずは後者を選びます。

専業の女性猟師と聞いて、どんな雄々しい人なのかと思ったら、Yさんは嵐のファンという可愛いらしい女性でした。普通でないのは、動物好きが高じて猟師になったということ。一見矛盾しているようですが、元々トリマーだった彼女は大の動物好きで、山の動物たちがゲームハンターによって無駄に命を落とすのが許せなかったと話してくれました。ゲームハンターは、撃つのが目的。撃った後の動物は山の中に廃棄されます。自分は動物の命を大切に扱いたい。それが猟師になった動機だと。これは、何人もの料理人さんが言われたことなのですが、ジビエは届いた状態で、その猟師が命を大事に考えているかがわかる。丁寧な仕事が施されていれば味も良いと。「命をリレーしてバトンを受け取る感覚で調理する」と話す料理人もいました。

内臓を開くと、食べていたもの、育った環境がわかる。それは、食べることを目的に養われ、与えられた同じ餌で育つ養畜肉との決定的な違いです。ジビエを食べて体が温かくなったり、血の美味しさに驚いたり、そこに想うのは命、エネルギーです。自然なものを食べるのは、リスクがあるのも重々承知で、それでも生き生きしたエネルギーが伝わる感覚は、ジビエならではと思います。その命を遡れば、山がある。私たちの命もまた、山とつながっている。ジビエは、そんな山との繋がりを知らせてくれる食べ物なのだと思います。

R gourmetへ、ようこそ。今月も皆様の食卓が美味しく、楽しくありますように。

日本のジビエの主な種類・・・エゾジカ、ヒグマ(北海道)
マガモ、イノシシ、ツキノワグマ、キジ、タヌキ、ホンシュウシカ、アナグマ(本州)
などがあります

イラスト:いとう瞳 文:柴田香織