Interview Vol.1

「日本のファッションのレイヤーを、また一段、上に」。
中島敏子さんと平林奈緒美さんによるキービジュアルはこうしてできた。

中島敏子

[元ギンザ(GINZA) 編集長]

平林奈緒美

[アートディレクター]

どこか無機質な空間の中、思いきり楽しげに、エネルギッシュにはしゃぐ女の子たち。彼女たちの表情、服、空間、その全てが、アクティブでチアフルな「東京」のリアルを映し出す。
そんな「Rakuten Fashion」のキービジュアルを手がけてくれたのは、元『GINZA』編集長の中島敏子さんと、アートディレクターの平林奈緒美さんです。

今回はお二人に、キービジュアル制作の裏話や「Rakuten Fashion」リニューアルにかける思いなどを伺いました。

Text : Maho Honjo / Photo : Akihiro Kawauchi

“女の子のわちゃわちゃ感”をキービジュアルに

中島さん

今回、私がリニューアルする「Rakuten Fashion」のキービジュアル監修を引き受けたのは、楽天のある女性からの依頼がきっかけでした。彼女は、私が編集長を、同じく平林さんがアートディレクターを務めていた雑誌『GINZA』の熱心な愛読者だった。初めて会ったのにまるで親しい知人のようにコミュニケーションをとることができ、やってみようかなと思いました。

平林さん

すでに中島さんのほうである程度のビジュアルコンセプトを固めてからオファーをいただいたので、楽天、そして中島さんが考える世界観をスムースに共有して進めることができたと思います。

中島さん

今までの東京ファッション・ウィークはクールでシャープなイメージでしたが、それが「Rakuten Fashion Week Tokyo」になるなら、もっと親しみやすくて、楽しい感じにしたいと思ったんです。ビジュアルイメージは「女の子がわちゃわちゃしてる」感じ。それも甘かったり幼かったりするのではなく、アクティブで可愛いリアルな東京の女性像を表現したいなと。これは平林さん以外いないと思って、即アプローチしました。

平林さん

何か具体的な情報があるわけではないので、洒落たビジュアルが街中にあっても素通りされてしまう可能性もあり、ビジュアルの中に具体的な何かがあった方が良いだろうと思いました。それで、楽天のロゴをキーモチーフにするアイデアが浮かんだのです。ロゴを後からビジュアルの上にのせるのではなく、写真そのものに入れ込んでしまうという方法です。たとえば洋服にロゴを編み込むのも面白いと考えましたが、すると服ではなく衣装になってしまうし、モデルの着る洋服は実際に買えるものがいいね、と。そこで大きなロゴを女の子たちが持ち運んでいるという案を採用することにしました。

東京の女の子をハッピーに、チアフルに盛り上げたい

中島さん

今回のキービジュアルに込めたのは「東京の女の子をチアフルに見せたい」という思い。都会に暮らす女性は忙しいし、ストレスがいっぱい。ファッションが好きだからといって、それだけにエネルギーをかけられないし、みんながみんな小難しい服を着て着飾っているわけではないですよね。ならばツンとすましたモードではないなと。もっとリアルでヒューマンな雰囲気を出せればいいなと思いました。

平林さん

たとえばパリの女の子などは、流行と関係なくいつも同じような格好をしている。でも東京は、普通の若い女性が洋服を着ることにお金もエネルギーもかける。それってすごく面白いことだと思うんです。このところ、作業着を可愛く着こなす流れがあったりするけど、そんなことを話しながら、ビジュアルのアイデアにも合うし、ライダースやジャンプスーツなど東京のアクティブな女の子のムードをスタイリングに使っては?という提案がスタイリストの飯島さんから挙がってきました。

中島さん

モデル4人に共通するアイテムがありながら、全員同じスタイリングではなく、微妙にコーディネートが違うのもポイント。全員が赤のバリエーションのトップスを着ていたり、ライダースがお揃いだったり。ついでにチェックのジャケットバージョンも作り、飯島さんがデニムや白のボトムス、ツナギでピシッと締めてくれました。

平林さん

モデル選びにもこだわりました。外見はもちろんですが、今回はキャラクターも重視。「女の子同士のわちゃわちゃ」を素のままで表現してくれる、ノリのいい4人を選んだのです。現場は終始にぎやかで、こちらが余計な指示をする必要もなく、あっという間に進んでいったのを覚えています。

日本のファッションのレイヤーを一段階上げる

中島さん

私は今回「Rakuten Fashion」に対して、実は小さな夢を抱いているんです。もしかしたら「Rakuten Fashion」が「日本のファッションのレイヤーを一段階上げる」ことができるんじゃないかなと思って。その昔、多くの人たちがスーパーで洋服を買っていた時代がありましたよね。その後にユニクロができて人々のファッションは一変して、誰もが何となくそれなりにオシャレに見えるようになった。「Rakuten Fashion」はもしかしたら、それをもう一段階上げることができるのかもと思ってるんです。

平林さん

それは個人ではもちろんできないし、ひとつの雑誌やひとつのファッションブランドでもできないことですよね。

中島さん

楽天は巨大なプラットフォームであり、物からシステムまであらゆるものを備えています。その便利さは半端ない。そして「日常に必要な服」ではなく「着ることによってほんの少し毎日が楽しくなる服」をプラットフォームとしての「Rakuten Fashion」が提供する。それが日本の女性のファッションのデフォルトとなったら素敵だなと思うんです。世の中が明るくなったり、明日が楽しみになったり、ファッションが持つハッピーな側面はたくさんあります。それを広くあまねく伝えることができる。楽天には、その力があると思うんですよね。そんな密かなる野望を叶えるべく、「Rakuten Fashion」を盛り上げていけたらと考えています。

中島敏子

中島敏子
マガジンハウスのカルチャー/ライフスタイル誌『BRUTUS』の編集者、『relax』の副編集長を経て、2011年4月よりリニューアルした『GINZA』の編集長を務める。

平林奈緒美

平林奈緒美
東京生まれ。武蔵野美術大学空間演出デザイン学科卒業後、(株)資生堂宣伝部入社。ロンドンのデザインスタジオMadeThoughtに1年間出向後、帰国。2005年よりフリーランスのアートディレクター/グラフィックデザイナー。