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黄金色の輝く液体と、真っ白な泡。
それがビールの一般的なイメージですが、なぜ泡がのっているのか、そもそも泡が必要なのかを知る人は多くありません。
ビールの泡とは何か、なぜ泡がビールをおいしくするのか……。
サントリーの醸造家・丸橋太一がビールの泡の重要性をお教えします。
サントリービール(株)
商品開発研究部開発主幹
丸橋太一氏
  •   普段からビールを愛飲されている方でも、泡をじっくり見たことのある人は少ないのではないでしょうか。つくり込まれたビールは、クリーミーできめ細やか、たとえるならシルクのように美しい泡をしています。表面が光を反射するほどにツルツルしているか、じっくりとご覧になってみてください。そして、ビールを飲み進めてもなかなか泡が崩れず、飲み干したときにグラスにレースのような泡が残っている。私たちは「ザ・プレミアム・モルツ」でも、そんな泡を理想としています。

      そもそも、ビールがしっかり発酵しないと泡は立ちません。泡があること自体、ビールがうまくできあがった証なのです。どんな原料を使っているか、どんな製法でつくられているか、それから、どんなふうにグラスに注がれたか。泡が“ビールの履歴書”と呼ばれるのは、そのすべてが泡に表れるからなのです。
  •   では、ビールの泡はどうやってできるのでしょうか? そもそも、泡は微小な炭酸ガスの気泡と気泡がくっついてできたもの。気泡をくっつけているのは泡タンパク、ホップ成分、多糖類の3つです。

      もう少し製法の源流へさかのぼってみましょう。発酵段階で仕込釜に酵母を入れると、酵母が糖を食べてアルコールと炭酸ガスに分解します。酵母は生き物ですから、糖やアミノ酸など、周りにあるものをどんどん食べていきます。そして、食べるものがなくなると自分を分解し始めて、泡の構成要素であるタンパク質まで分解してしまうのです。

      良質な泡を生み出すためには、酵母が元気に働く環境をつくらなければいけません。炭酸ガスを含んだビールに泡ができるのは自然なことですが、それをクリーミーできめ細かい泡にするためには、さまざまな努力と工夫が欠かせないのです。
  •   では、泡によってビールは本当においしくなるのか? 泡はとっても重要な役割を果たしています。

      泡が果たす大きな役割は2つあります。まず、ビールは苦みや喉ごしが魅力の刺激的なお酒ですが、うまみ成分がたっぷり含まれた麦芽の味わいも堪能していただきたい。口当たりのいい、やわらかな泡があることによって、麦芽本来の味わいをしっかりと感じることができます。

      もう1つは、香り。ビールにはホップという植物の雌花を使用していて、それがもたらす華やかな香りが特長です。そして、泡には香りが凝縮されていて、言うなれば“香りの粒”になっている。華やかな香りを堪能するためには、泡が必要不可欠なのです。

      また、泡はビール中の炭酸ガスのフタの役割も果たしています。いわゆる“気の抜けたビール”になりづらいという点も、泡の大切な役割だと言えるでしょう。
  •   良質な泡を生み出すためには、研究も不可欠です。私たちは長きにわたって泡の研究を続けてきています。

      例えば、泡は性質上、時間が経つにつれてほかの気泡とくっついて大きくなり、きめが粗くなっていきます。いかにして小さな気泡の状態を保ち、きめの細かい泡を持続させるかを“泡持ち”といいます。約20年前、私たちはその「泡持ち向上」の研究で全米醸造学会会長賞を受賞しました。醸造家の先達が見出した確かな分析値を受け継いでいるからこそ、現在の良質な泡が存在するのです。

      その分析値をもとにビールをつくり、製造過程の状況を判断しながら微妙なチューニングを加えていく。それが私たち醸造家の仕事です。酵母が元気に働く環境をつくるために温度を0.5℃下げてみよう、あるいは仕込釜のどの部分を冷やしたら最適か。分析値では測れないパートは、醸造家の経験と感覚が司っています。

      発酵はもちろんですが、製麦や麦汁づくり、濾過など、フェーズごとに見るべきポイントは異なり、ひとつでもミスをすると良質な泡は生まれません。常に全体を見ながらバランスのとれたビールをつくり上げていくことこそ、私たち醸造家の使命なのです。
  •   泡を存分に堪能するには、やはりグラスに注いで召し上がっていただくのがベストだと思います。その際のキーワードは「7:3」と「泡のヒゲ」です。

      まずは、上のほうから勢いよくビールを注いで、グラスを泡でいっぱいにしてください。「えっ!」と思われるかもしれませんが、泡が落ち着くのを待っている間、ビール中に溶けることのできない疎水性の成分から泡に変化していきます。その成分は苦みのもとを含んでいるので、泡に逃がしてあげることで苦み、甘み、うまみのバランスが整っていくのです。

      泡が落ち着いたら、グラスにそって残りのビールを注いでください。理想はビールと泡の比率が7:3。クリーミーでモチモチした泡がビールの上にのっかっている状態ですね。試しに、泡だけを口に含んでみてください。苦み、甘み、うまみ、そして香りが凝縮されていて、泡自体にしっかりとした味わいが感じられるはずです。飲んだ後、口の周りに“ヒゲ”のように泡がついたら、それは良いビールであった証です。

社会的責任[CSR]