TOHOKU HEROES 阿部亀商店 専務取締役・阿部 健さん

人と海の間に。楽天市場に出店する阿部亀商店のショップページを訪ねると、そんな文字が目に飛び込んでくる。扱っている「ワイルドアルバコアツナ」、「ファームド シルバーサーモン」はどちらもサステナブルに重きを置いた食材だ。10年前、まだ日本では馴染みがなかった“サステナブル”にいち早く取り組んできた阿部亀商店。復興、そしてその先の未来につながる「やさしさ」を込めた商品へのこだわりを、阿部亀商店専務取締役である阿部健さんに語ってもらった。

――阿部さんにとって、震災はどんな経験でしたか。

「生まれは宮城県・多賀城市ですが、大学進学のタイミングで上京しました。当時の私にとって、水産業はあまり魅力的な業界ではなく、興味があったクリエイティブな仕事を自由にやらせてもらいました。ただ、僕は長男なのでいずれは家業を継ぐことも考えなくてはいけないという気持ちはどこかに持ち続けていて。(社長である)父が年齢を重ねて昔のように仕事ができないという話も聞いていましたし、『なるべく早いうちに』と帰郷を決意。東北に戻ってきました。

その1年後、仙台から塩釜に戻る車中で被災しました。塩釜方面に向かうことは危険だと判断し、混んでいる幹線道路を避け、裏道を抜けながら自宅に戻ることができました。当時はマリンゲート塩釜という港に開発室を持っていたのですが、そこは被害が大きかったんです。車が流された従業員も、マリンゲートに閉じ込められてしまった従業員もいました。電話もつながらず、大変な経験でした。

本来だったら社長の右腕としてしっかり働くというつもりでしたが、水産の仕事について右も左も分からない状態で、東京から戻ってきて1年足らずで被災。それもまったくままならない状況になってしまいました。従業員にも家族がいますし、特に沿岸部は津波の被害が集中して、水産業界へのダメージはとても大きかったんです。被災した当時は、もうこのまま再建できないんじゃないかという思いもありました。でも、とにかく目の前の1つ1つのことを片付けていくしかなかった。全国のいろんなところからご支援をいただいたこともあって、震災から3年経ったくらいのころには比較的順調に商売も戻ってきたように感じます。

当時、取引先だった水産加工会社さんは軒並み被災してしまっていました。我々とすれば、まずはその取引先さんの再建が一番の課題だったんです。ただ、私たちも被災していた中で、何をしたらいいのかは難しい状況でした。一方で、活気を持って復興に取り組んでいる会社さんも多く、私たちはその商売を途切れさせないために原材料をしっかり供給する体制を整えました。そこには尽力できたと思っています。

震災から10年が経ち、『もう10年が経ったんだな』という気持ちにはなりますが、これでおしまいということではありません。まだ復興が進んでいないところもありますし、これから先もしっかり考えていきたいです。震災の影響で、この10年間ずっと難しい問題を抱えていましたし、今は新型コロナの問題もあります。人の流れや商売の活気が盛り上がる雰囲気ではなくなってしまいましたが、落ち着けばそういう感じも出てくるのかなと期待しています」

――阿部亀商店さんにとって、初めての小売店を1年前に楽天市場に開設しました。出店のきっかけを教えてください。

「1年前、ツナとサーモンを使用した商品を発表しました。この商品も、震災からの復興を考えながら取り組んできたものです。でも、新型コロナの影響で首都圏にも足を運ぶことができなかったり、本来なら真っ先に相談したかった方たちにもコンタクトを取ることが難しくなってしまい、『いいものができたけど、売れない』という状態になってしまいました。そこで、楽天市場でお客さんを呼び込んで販売する形に方針を転換することになりました。

ちゃんと商品のよさをわかってもらいたいけど、他の店にも魚の商材は数多くある。もともと、小売店に適した商材をメインで扱ってこなかったこともあって、消費者にどう届けるべきかなにもわからない状況からショップを始めた不安は大きかったですね」

――これらの商品にこめたこだわりはどんなものでしょうか。

「社長は研究肌で、『魚をおいしく食べるためには』というテーマで東北大学と連携してさまざまな研究をしていました。その話を聞きつけたアメリカの缶詰会社さんから問い合わせがあり、彼らは震災後すぐに復興支援の意味も込めて我々の事務所に来てくれました。そこで、彼らがサステナブルな商材を缶詰にしてアメリカのマーケットで販売する仕事をしていることや、従来の活動とサステナブルな活動の違いをいろいろと聞きました。

彼らは日本で獲れたいい魚を原材料として購入したいということで、お取引が始まりました。10年前は、まだサステナブルなんて聞いたこともありませんでしたし、どうしてサステナブルという情報だけで商品の評価が分かれるのか、不思議でしたね。ただ、それが今後世界の主流になることは間違いないとぼんやりと感じてはいました。

阿部亀商店はもうまもなく140周年を迎えますが、時代の流れに合った商材を育てていくことも大事です。社内に原材料を輸出する部署を新しく作ることから始まり、その中で当時最先端だったサステナブルという雰囲気に触れ合う機会を自然に持ってくることができました。少し時間はかかってしまいましたが、ようやく納得のいくものを完成させました。ちょうどオリンピックもあり、SDGsやサステナブルが日本でも評価されるタイミングになったことで、ようやく今回の商品をお披露目できたんです。

ツナを作るためのマグロは一本釣りで獲れたものにこだわっています。群れを一網打尽にする漁では、狙っていない他の魚まで捕まえてしまうこともあり、資源保護の観点からは非難されることも多いんです。一本釣りは、1人に対して魚1匹という、人間と魚の間でもフェアなやりとりが行われています。サーモンも、宮城県石巻で獲れた養殖銀鮭を使っています。養殖で獲れたものは管理が行き届いた、資源保護の観点からもよしとされた原材料なんです。

もう1つのこだわりは、魚を冷凍せずそのまま加工することです。一番おいしい時期に一番おいしい状態で加工することが大前提ですが、冷凍して別の場所で加工することはCO2の排出につながってしまいます。今、社会的な問題になっている出来事の根本にもアプローチしようという考え方です。時代の流れ的にも興味を持ってくださる方がかなり多いですね。ただ、サステナブルに興味はあっても、ツナやサーモンという食品にそういった概念をお持ちじゃない方も多い。いろんなアピールポイントをうまくまとめながら、消費者の方に伝わればいいなと思っています。

その点、楽天市場はダイレクトに紹介できるメリットがあります。ポイントを貯めている方もいらっしゃるし、消費者の方のメリットも大きいんだと勉強になりました。オープンした当時の担当の方は、私たちの商品のよさをとてもよく理解してくださる方で、『絶対に売れると思います』と言っていただきました。同じタイミングで、楽天でショップを開設した近所のパン屋さんとも引き合わせていただき、『ツナとパンは相性がいいから、サンドイッチにしたらどうか』と提案もしてくれました。今は実際にそのサンドイッチも販売されています。人のつながりを感じる体験でしたね」

――今後の展望について教えてください。

「140年続いている会社なので、これから先も水産に広く根付いて商売をやっていきたいと思っています。震災当時は卸売りが中心で、社員も私と社長を含めて7人しかいませんでしたが、今は従業員も30名以上になりました。頑張ってきた結果がこういう形で出ていると思う一方で、従業員やその家族の生活をしっかり守っていけるような責任ある仕事をしていきたいです。こうやって震災から復興してきて、これから先はサステナブルが1つのキーワードになっていくと思います。この三陸から、世界に誇れるようなものを作りたいですね」

取材したショップ

阿部亀商店