Monthly Food Letter 【Jun.】夏至の頃の食べ物

2021.6.9

夏至は、一年で日照がもっとも長い日、そして一年の折り返しの日。太陽が一番長く出る夏至は、いわば万国共通の歳時記です。世界各地には、祭祀に使われたであろう夏至の日の太陽の通り道を示す古代の建造物が今も残り、この日を人類が、大切にしてきたことがわかります。今年の夏至は、6月21日。今月は、各国の夏至にまつわる食べ物を見てみようと思います。

北欧の夏至祭と新じゃがいも

今も夏至を最も大切にしているのは、日照の少ない北欧だと思います。彼らにとっては、短い夏の到来を祝うのが夏至祭。国によって開催日は異なりますが、祭りの前日、白夜を通して薪火をたいて祝います。わざわざ夏至祭を見にフィンランドに行ったことがあるのですが、白樺の葉と季節の花で手作りした冠を老若男女が被り、牧歌的なフォークダンスを踊る様子は、夏を迎える幸福感に溢れていました。翌日の夏至当日、街はお正月のように静かです。この日は友人や家族と集まってご馳走を食べるのだと、友人の家で過ごしました。フィンランドでは、夏至祭で気分が高まって、湖に飛び込んで溺死する人が毎年何人かは出るそうで、そんな話を聞きながら、庭で焚き火をして、木の板に打ちつけた大きなサーモンを何時間も遠火で燻して皆で食べました。ちょうど北欧は新じゃがいもの季節。夏至の頃の食べものといえば、新じゃがいもを心待ちにしている人々が多いそうです。スーパーでは、日本の新米みたいに産地別の新じゃがいもが並び、いもを洗う専用の手袋が売られているのですが、思わず購入してしまいました。

京都の水無月や各地の縁起食

日本にも、夏至の頃の行事食があります。中でも不思議だなと思うのが、京都の水無月という和菓子。6月30日に、残り半年の無病息災を願って食す菓子ですが、氷をイメージして白い外郎を三角に切り、その上に小豆が乗っています。小豆は魔除けを意味するそうで、日本の節気の食によく登場しますが、この見慣れない和菓子を東京で見つけた時は「変なお菓子だな」と意味も分からずに買った記憶があります。京都に限らず、最近は関東圏でも人気。6月に入ると早々に水無月を和菓子屋さんで見かけるようになりました。そして、水無月を見ると、今年もあと半分だなと思うのです。

関西の一部では、夏至といえばタコを食べて稲の成長を願うそうです。田植えを終えた地域では、糯米と小麦で作る(場所によっては小麦だけ)「半夏生餅」を食べて、やはりその年の豊作を願います。稲の成長を願いつつ、実は自分たちも精をつけたのだなと思います。

いずれにしても、一年の半分という節目を意識して、自分や周りの人の残り半年の無事や健康を願うのは、いつの時代もよきことですし、今年のように災禍の続く年には尚更のような気がします。世界共通、この一年の半分を迎える夏至に、親しい人の身体を気遣う食ベ物や手紙を贈ったら、儀礼化している中元に変わって良いギフト機会になるのではないかなと思います。自分だけでも、まずはやってみようかな。さて、何を贈るか。南仏では、夏至にロゼワインを飲むらしいので、そんな贈り物も良いかもしれません。

R gourmetへ、ようこそ。今月の皆様の食卓が美味しく、楽しくありますように。

イラスト:ヒラノトシユキ 文:柴田香織