KITCHEN LABO
今月のラボ
『摘み草と摘み花で春の和菓子作り』
2021.4.21
自然豊かな都市近郊のフードラボ「blue monkey room」に集まった、食のスペシャリストたちが繰り広げる、ちょっぴりマニアックな部活動。blue monkey(青い猿)とはマヤ暦の星人の一つで、楽しむことが大好きです。
桜餅、柏餅、草餅…。店頭やネット上でも見かける和菓子が、春の到来を教えてくれます。気がつけば、今年も花が咲き、草木の芽吹く季節。自ら春の野を体感して和菓子を作ったら、もっと季節を楽しめるのでは!?今回は野山に出ることにしました。
春の野は、食べられる草花の宝庫でした。
ブルーモンキールームの周辺も3月を迎えて春めいてきました。シンボルツリーである庭のミモザの花、表に出ればレモン、湘南ゴールド、金柑、甘夏、八朔などの様々な柑橘が山を背景に花咲くように実っています。
買った和菓子でも春は感じられるけれど、もっと季節を感じたい。研究部員の皆で春の野に出てみました。
- 今回の主任研究員 安田由佳子さん(ゆかこさん)
- 2012年より和菓子教室「ももとせ」を主宰。ももとせは「百年」の意。シンプルな素材で四季を映しだす手作り和菓子の魅力、そして最近は日本茶も伝導中。
https://www.momotose.info/
意識して探すと、普段は見過ごしている植物たちの存在に気づきます。一体何の草花なのか。そして食べられるのか食べられないのか?ある人は食べられる野草図鑑の本を持ち、ある人はネットの検索を利用して、脇見と下ばかりを見て歩く怪しい集団は、時折立ち止まり、摘み、また歩く。楽しい!
狙わずとも偶然に見つけた食用できる草花あり、狙って見つけた野草あり。クレソンやヨモギは、この時期採れるだろうと狙いをつけていました。川の支流の沢にはクレソンが群生し、まだ小さくて柔らかな葉のヨモギも河原近くに生息していました。
野の散策を終えて、道の両側に広がる畑ですずなりの柑橘類に目が奪われます。ちょうど湘南ゴールドを集荷中の農家さんに話しかけて、入手しました。
実践!野の素材を和菓子にするアイデア
収穫物をテーブルに並べてみました。どの素材でどんな和菓子に?和菓子の手法との組み合わせをイメージしながら、具体的に作るものを絞り込んでいきます。
▷アイデア その1 “流し込む”
色の美しい野花は、流し込んで寒天寄せに。野花は美しくて可愛らしいのですが、味わい的には多少苦味や酸味はあるものの、食べ物として完成された美味しさを持つものではありません。そこで、甘味や旨味をフルーツで足していきます。生の果実、そして柑橘の皮を即席でシロップ煮にしたピールも入れて、味わいに立体感を出します。
寒天寄せのコツ
煮溶かした寒天は、二層に分けて流し込むと美しく仕上げることができます。一層目には表に見せたい野花を。そして二層目に柑橘のピールや生の果実を。一層目が少し固まり始めたところに二層目を流し込むことがコツです。
▷アイデアその2 “練り込む”
野草(ハーブ類)は、特有のえぐみがあるので、重曹を入れたお湯でさっと茹でてアクを抜きます。そして、あたり鉢を使って餅生地に練り込みます。
練り込むときのコツ
粗く刻んだ野草(ハーブ類)を、あたり鉢でペースト状にしたら、出来立ての餅生地(作り方はレシピ参照)を加えて一緒に練ります。熱いうちは擦りこぎを用いて、冷めてきたら手でしっかりと練り込みます。
▷アイデアその3 “巻く“”包む“
葉で素材を包んで香りをつける、また、素材を餡にして生地で包み込むのも和菓子らしい手法です。葉に香りや抗菌作用のあるものは古くから重宝されてきました。今回はレモンの葉、シナモン葉、サリトリイバラの葉で餅を包んで蒸してみました。表面がすべすべした葉は、餅生地が剥がしやすいです。
葉で“巻く”コツ
大きな葉がない場合は、小さな葉を2枚使って上下を挟んでもよい。
サイズの小さな柑橘はあんで包み、さらに求肥で包んでフルーツ大福にします。
求肥で“包む”コツ
求肥を扁平な形に伸ばしたら、あんと接触する側は片栗粉をはらい、逆側は片栗粉をつけたままあんを中央にのせて、あんが下になるように返し、求肥をあん玉に沿わせて滑らすように伸ばす。
和菓子らしい手法をいくつか知っておくと、季節の素材をみた時に組み合わせて想像するのがとても楽しくなります。次に、今回作った和菓子のレシピです。
摘み草と摘み花の春和菓子レシピ
まずは「摘み花羹」です。花は可食できるものであればなんでもよし。彩りを考えながら寒天の上に並べてみましょう。味を補うフルーツは甘味・酸味のあるものを。柑橘のピールも加えて甘味と苦味を足すと、味わいが複層的になります。
摘み花羹のRECIPE
材料(たまご豆腐型 大 1台分)
- 粉寒天 3g
- 水 450ml
- グラニュー糖 80g
- いちご 5粒
- エディブルフラワー 適量
- (摘み花。なければ市販のエディブルフラワー)
- レモンピール(刻んで) 大2
下準備
*いちごは7mm角に刻んでおく。
*型は水で濡らしておく。
作り方
① 鍋に水と粉寒天を入れ火にかけ、沸騰したら1分ほどかき混ぜながら溶かす。
② グラニュー糖を加え、溶けたら火を止める。
③ 寒天液の1/4を型に流し込み、粗熱が取れたらエディブルフラワーをちらす。
④ 残りの寒天液は別のボウルに入れ、冷水のボウルと重ねてイチゴとレモンピールを加え、絶えず混ぜながら少しとろみをつけ、3の上にスプーンなどを使い少しずつ流し込む。
*最初に型に流し込んだ寒天液が完全に固まる前に残りの寒天液を流し込むと分離しない。
⑤ 固まったら冷蔵庫で冷やし、ひっくり返して取り出す。好みの大きさに切る。
摘み花羹に用いる柑橘ピールの作り方です。レモン以外の柑橘でもOK。グラニュー糖など精製度の高い糖で作ルと綺麗に仕上がります。
レモンピールのRECIPE
材料
- レモン 1個
- グラニュー糖 30g
- 水 30ml
作り方
レモンの皮をむき白い部分を取り除き、小鍋で3回茹でこぼす。
小鍋に水30mlとグラニュー糖を入れて火にかけて煮溶かす。レモンの皮を加えて一煮立ちさせたら火を止める。
2品目は柑橘のフルーツ大福です。いちご大福が定番ですが、最近は、あんの量を減らす傾向が顕著。これはいちごが甘すぎて、あんの甘味とのバランスを取るのが難しくなっているのではと思います。実は、苺大福も作って食べ比べてみたのですが、キッチンラボ研究員の間では、甘いいちごより酸味のある柑橘の方が、あんの甘味も生きて、全体の味わいバランスが良いという結論に。
柑橘大福のRECIPE
材料(約10個分)
- 白玉粉 50g
- 水 60ml
- 砂糖 60g
- お湯 45ml
- 湘南ゴールド 10粒
- (小粒のもの)
- 白こしあん 200g
- 片栗粉 大さじ6
下準備
*大きなバットに片栗粉をまんべんなく敷いておく。
*柑橘は皮をむいて白こしあん20gで包む。(包丁で螺旋状に薄く皮を剥くと簡単。汁気が出ると餅が溶けるので、白い部分は残して剥く方が良い。)
作り方
① 白玉粉を同量の50mlの水でしっかりだまがなくなるまで練る。残り10mlの水を加える。
② 流し缶にさらしをしき、そこに①を流して10分強火で蒸す。
③ 鍋に餅を移し、木べらでなめらかになるまで練り、弱火にかけながら砂糖とお湯45mlを3回に分けて加え練る。
④ 練りあがったら片栗粉の上に取り出し粗熱が取れたら二つ折にする。
⑤ 手にしっかり片栗粉をつけ、引き伸ばさないようにちぎる。(餅生地が丸くなるように意識しながら分割する。)
⑥ 包餡する。餅生地の内側の片栗粉を刷毛で払い落とし、柑橘餡に上からかぶせて下に餅生地を引き下ろす。片栗粉を周りにまぶし、手の中に握り込み、生地を寄せてつまんで閉じる。(閉じ口の中に片栗粉がつかないように刷毛ではらう)形をととのえる。
*手に片栗粉がついていないと餅生地がベトベトするため、手粉はたっぷり使うとよい。
ITEM
そして摘み草餅は、クレソンやヨモギなど、独特の香りのあるハーブで作ります。ハーブは多すぎるくらい入れても良し。バジルも試してみましたが、シナモンの葉との相性も良く、ありです。和菓子の草餅といえばヨモギが典型ですが、色々なハーブで試してみると面白いですよ。
摘み草ハーブ餅のRECIPE
材料(6個分×3種類)
- 上新粉 300g
- 餅粉 30g
- 砂糖 30g
- ぬるま湯 300ml
- 小豆あん 360g
- シナモンやレモンの葉 12枚
- よもぎの葉 たっぷり2掴み分
- バジル 1袋分
- クレソン 1袋分
下準備
*あんを18等分して丸め、あん玉をつくる。(あんは固め)
作り方
① よもぎは葉先の柔らかい部分のみを集め、重曹を入れたお湯で1分ほど茹で、たっぷりの水にさらし、水気を切り、刻んでからすりばちであたる。
② バジルとクレソンも葉のみを集め、沸騰した湯をくぐらせてすぐにザルに広げて冷まし、水気をしぼって包丁で刻みそれぞれ別のすり鉢であたる。
③ ボウルに上新粉と餅粉を入れて混ぜ、ぬるま湯を加えてしっかり混ぜる。一にぎりずつせいろに並べ、25分強火で蒸す。
④ 蒸し上がったら1/3ずつすり鉢に入れ、熱いうちはすりこぎでよもぎ、バジル、クレソンと突き混ぜ、触れるようになったら手でこねる。
⑤ 手水をつけて生地を6等分し、丸く広げてあん玉を包み、閉じ口をしっかりつまんで閉じ、丸く整えてから軽くつぶす。
⑥ シナモンの葉で包み、蒸し器に並べて5分蒸す。
*冷えると固くなりやすいが、フライパンやオーブントースターにオーブンペーパーをしいて焼き直すと柔らかくなる。
*3分の1の分量で作る際も蒸し時間は変わらない。
ITEM
和菓子に大事なあんのレシピがこちら。柑橘大福(他のフルーツ大福も同じ)は、豆の風味が強すぎると柑橘の香りを邪魔してしまう場合があり、市販の白あんを使うのも一考です。摘み草ハーブ餅は、豆の風味とハーブの香りの拮抗を楽しみたいので、ぜひ自前で炊いてみるのがおすすめです。
小豆粒あんのRECIPE
材料(約500g分)
- 小豆 200g
- きび糖 160g
- 水 600ml
- 塩 1つまみ
下準備
*小豆は丁寧に洗っておく。
作り方
① 厚手で底の丸い鍋に水と小豆を入れて蓋をして、中火にかけて沸騰したら5分ほどグラグラする火加減で煮る。
② 差し水を400mlして水温を50度以下に下げる。
*温度を急激に下げると、豆の内部に水分を吸収させやすくなり、早く茹で上がる。また煮えむらも出にくくなる。
③ 中強火にかけ、再沸騰したら中火で20分ほど煮て、豆に少し柔らかさが出てきたら弱火にし、完全に柔らかくなるまで煮る。豆が軽く踊るほどの火加減。途中豆が水面から出ないように時々湯を足す。
④ 豆をヘラに取り出し、指で押して抵抗無くつぶれたら火を止める。ボウルの上にザルと布巾を広げ、煮汁を切る。
⑤ 鍋にきび糖と小豆を加えて火にかけ、木べらで混ぜながら煮詰めていく。最後に塩を加え混ぜ、使いたい固さの少し手前で火を止め、バットに小分けにして落とし、冷ます。
*塩は草餅に使うあんの場合、しっかりきかせると美味しい。
白粒あんのRECIPE
材料(約500g分)
- 白いんげん豆 200g
- きび糖 160g
下準備
*白いんげん豆は洗って、豆の3倍の水につけて半日ほどおいてシワのない状態まで戻す。
作り方
① 鍋に水700mlと豆を入れて蓋をして強火にかけ、沸騰したらグラグラする火加減で30分ほど煮て、豆に少し柔らかさが出てきたら弱火にし、完全に柔らかくなるまで煮る。豆が軽く踊るほどの火加減。途中豆が水面から出ないように時々湯を足す。
② 豆をヘラに取り出し、指で押して抵抗無くつぶれたら火を止める。ボウルの上にザルと布巾を広げ、煮汁を切る。
③ 鍋にきび糖と豆を加えて火にかけ、木べらで混ぜながら煮詰めていく。使いたい固さの少し手前で火を止め、バットに小分けにして落とし、冷ます。
和菓子の粉の使い分けのこと
今回和菓子作りをして、洋菓子と決定的に違うと思ったのは、季節の自然素材の使い方に加えて、米由来の粉の種類の多さとその使い分けです。作りたい和菓子と、粉の選択について、ゆかこさんに教えてもらいました。
「米粉は調理用の米粉が入手しやすいのですが、和菓子作りで大事なのは米粉の粒の大きさです。米粉と書かれているだけの調理用米粉は、粒子の大きさがまちまちで和菓子用には選びにくい。一方、和菓子用の米粉は、粒子の大きい順に、かるかん粉、上新粉、上用粉の名称で販売されています。米の風味やざらっとした食感を楽しみたければかるかん粉や上新粉を、滑らかな食感重視なら上用粉を使います」。そして餅米の場合は「滑らかでツルッとした食感重視なら白玉粉、お米の風合いを生かしたければ餅粉」と使い分けるのだそうです。
では、糯米(餅)の粉と粳米(白米用)の粉使い分けはといえば、時間が経っても柔らかさが持続するのが糯米の粉で作った生地。そして硬くなるのは早いのですが、独特の歯切れ良い食感が楽しめるのが粳米由来の生地です。知っておくと、和菓子を食べる時の参考になりそうです。
というのは豆知識として、今回の春和菓子作り、何より外の空気の中で自然に植生する植物を知り、果物や野花の香りを嗅ぎ、皆で餅をついたり練ったり、生地であんをくるんだり、を体感。そうして流れていく時間は、ある意味食べるより豊かな時間でした。和菓子には、季節を楽しむ術がたくさん詰まっています。そして、食べるだけでなく作ることで、和菓子のもつ世界観は、より豊かに感じられます。
ITEM
※商品情報は、2021年4月1日時点の内容です。
編集・文:柴田香織
撮影:猪原悠
料理・撮影協力:blue monkey room