Monthly Food Letter 【Apr.】ホワイトアスパラガス前線

2021.4.14

日本の春が桜前線と共にやってくるとしたら、ヨーロッパの春はホワイトアスパラガスとともにやってきます。今月はヨーロッパの春食材、ホワイトアスパラガスとその食べ方について。

北ヨーロッパ的な食べ方

南から中央、そして北ヨーロッパへ。復活祭の頃(イエスキリストの復活を祝う日。春分の日の後の満月の次の日曜日。移動祝祭日なので毎年前後し、今年は4月4日)を挟んでホワイトアスパラガスの収穫は北上します。ホワイトアスパラガスの到来を最も楽しみにしている地域は、冬の食材不足が顕著な北ヨーロッパだと思います。

私がホワイトアスパラガスで一生の思い出になる食べ方をしたのも、ドイツとイタリアの国境にあるアルト・アディジェ地方でした。復活祭のランチを友人と、そのまた友人宅のランチにお邪魔したのですが、この地方では休暇をリフージョ(隠れ家)と呼ばれる山小屋のような別荘で家族と共に過ごします。青草が眩しくなってきた山の家で目に入ったのは、玄関に掛けられていた箒に乗った魔女の人形でした。この時期、魔除けのために飾るのだそうで、形は違いますがしめ縄みたいな役割です。復活祭はキリスト教の暦ですが、この魔女は、キリスト教伝来前の土着信仰の名残のようでした。

キリスト教圏では、復活祭のランチにご馳走を食べます。ドイツとイタリアの国境でのご馳走がホワイトアスパラガスです。高級品のホワイトアスパラガスがジャガイモみたいにガサッと大量に茹でられて大皿にてんこ盛り。これをプロシュートコット(加熱されたハム)、バター、すりおろしたホースラディッシュ(西洋わさび)と一緒に食べるのです。そのカジュアルな雰囲気とホースラディッシュという北ヨーロッパらしい薬味、生ハムではなく加熱ハムというドイツらしいハム。プロシュートコットとホワイトアスパラガスを交互に、または一緒に、バターを増やしたり減らしたり、ホースラディッシュをたっぷり目にしたり無くしたり。そんな風に食べていると永遠に食べられる。間違いなく、自分の中ではベストワンのホワイトアスパラガスでした。

その前日、レストランでも実はホワイトアスパラガスを食べました。アルト・アディジェ地方には、ボルツァーノソース(アルト・アディジェ地方の首都の名前)というソースがあり、半熟のゆで卵を潰してエシャロットやピクルスと一緒にしたタルタルに似たソースで食べます。これも間違いない組み合わせ。また、北イタリアの米どころで多いのがリゾットです。ホワイトアスパラガスの皮で取った出汁もお米に吸わせて、ホワイトアスパラガスの風味を凝縮して味合うことのできる料理です。

でも、世界的に有名なのはオランデーゼソースでしょう。オランダ風ソースという意味で、卵黄と澄ましバターにレモンを加えたソース。程よい粘度とレモンの爽やかな風味を纏わせてホワイトアスパラガスを引き立てます。どの国でも、まず多いのがこの食べ方かと思います。

日本で食べるならば

最近は、日本でもホワイトアスパラガスを育てるところが増えました。まだまだ太さや風味は本場に及ばないなと正直思うことは多いのですが、鮮度は最大のアドヴァンテージだと思います。ホワイトアスパラガスは、グリーンアスパラガスに比べると足が早いので、日本で食べるならば、なるべく採れ立て、産地ならばベストでしょう。

そして日本的に食べるならば、天ぷらは素晴らしい食べ方です。素材の水分を蒸発させて香りを衣で閉じ込めるので、日本のホワイトアスパラガスのように香りが繊細でも、風味が増します。

妄想しているだけで、シーズンが待ち遠しくなってきます。こうしてホワイトアスパラガスのことを考えている時間が、いざという瞬間に美味しく食べられるプロセスの一部になっているのかもしれません。ヨーロッパのホワイトアスパラガスを愛する人たちも、多分妄想時間含めて、この野菜を味わっているのだと思います。

R gourmetへ、ようこそ。今月の皆様の食卓が美味しく、楽しくありますように。

イラスト:ヒラノトシユキ 文:柴田香織