料理好きたちのダイニング 美容家 IKKOさん

2021.2.24

すべての原点は、幼少期の憧れにあり。

―IKKOさんが料理を始められたきっかけを教えてください。
「私たちの幼少期は、男は女のすることが何一つできなくてね。私が小さい頃求めていたものって、母が経営する美容室以外にもう一つあったとしたら、台所だったと思うんです。台所を見ていると、幼心に『いいな~、素敵だな~』っていつも思ってたの。昔だからね、石油ストーブが台所にあって、その上にやかんが置かれていたり、おでんの鍋がぐつぐつしているのを見ると、心が満たされていくの。家族のために作る料理って素敵だなって思っていました」
―キッチンや料理に対して幼少期の思い入れが強いんですね。
「そうですね。うちは実家が商売をやっていたから、空いている人から食べるっていうことが多くて、家族全員が揃ってご飯を食べることっていうのがあんまりなかったのね。そんな中で小さい頃見ていたサザエさんの食卓って、一つ一つがきっちりと一人分としてお皿が並べられているじゃない。そういう光景にすごく憧れて。だから、こうやってテーブルコーディネートをするようになったの。台所の原点は母や祖母なんだけど、食卓の原点はサザエさんの家なのよね(笑)」
―テーブルコーディネートもですが、キッチンをキレイに整理しながら調理されるお姿もとても印象的でした。IKKOさんの美意識の原点ってどこにあるんですか?
「私はやっぱり時代がそうだったからだと思うんだけどね、私がお箸をつけたものって周りの人は食べたくないんじゃないかと思っちゃうの。オカマとかLGBTとかって、昔は汚いものに触れるようなイメージの扱いをされたから、いまだにその後遺症が残っていて。だから、相手に悪くって回し食べっていうのができないの。そういう感覚があるからこそ、上から下まで極力完璧にキレイにして日々生きていかないと、昔に戻ってしまうような気がして。それがすべて見た目にもお料理にも通じているんじゃないかと思います」
―幼い頃のコンプレックスが影響している部分も大きいんですね。
「コンプレックスってなかなか取れないんです。私の人生って不思議で、いけそうだなって思ったらちょっと落ち込んだり、もうちょっといけるなって思ったらそこで終わってしまったり。だから、満足している暇はなかった。自分の中で成功なんてあっという間に崩れていくような感じがして、消えていく前にしっかり仕込んで生きていかなきゃいけない。そう思っているから、人の3倍、5倍、10倍以上、とにかく努力しなきゃいけない。力を抜いているところもあるけれど、仕事に関しては完璧主義ですね」

お料理は“大切な人”への無償の愛をもって作るもの。

―IKKOさんの書籍の中に、「料理は、大切な人へ無償の愛をもって作るものだと、私は母や祖母から伝え教わっています。この『大切な人』には、料理を作る貴方も含めてあげてくださいね」って書いてあったのにはグッと来ました。
「自分を労ってあげないと、本当の意味の優しさには気づかないような気がするのよね。私はもうこの年だから恋愛もいっぱいしてきたし、好きな人がいても告白できなくって悶々とした時代も過ごしたし、東京に出てきたことでそれが解放されて男に溺れたときもあったと思うんですよ(笑)。でも、そういった中で尽くし過ぎて失敗したこともあった。だから、すべてはバランスよね。だいたいが尽くしすぎるとダメになりますよね。どんなにいい男も尽くしすぎると、一瞬で変わっていくからね。それも30~40代で感じました」
―IKKOさんの料理やおもてなしからは、その愛情が感じられる気がします。
「同じお料理を出すのでも、おもてなしの仕方でずいぶん変わってくると思うのよね。相手を思って作った料理だから、キレイに見せてあげることが重要。だけど、私の人生は三つ星までだったとしたら、二つ星でいいと思っているの。なんでかというと、二つ星レストランというのは『ちょっと遠回りしてでも行きたくなるお店』でしょ? でも、三つ星レストランって敷居がもっと高くなって、世界の果てまででも行きたいっていう人はいるかもしれないけれど、来られる人は限られてしまうのよね。それだったら、大勢の人たちにちょっと遠回りしてもきてもらって、私のおもてなしをしっかりと感じていただくことのほうが、私は嬉しいなって思うの。だから、私の人生はそういうものにしていきたいと思っています」
―今回ご紹介くださった韓国料理を含めてですが、アジア料理を作られるようになったきっかけはありますか?
「時代がそうだったんだと思う。イタリアンとかフレンチとかっていう洋食は、私の家の幼少期の味とはかけ離れていたので。家族でよく行ったお鮨屋さんの女将さんが昔満州に住んでいた人で、餃子や中華料理を本場のものを食べてもらいたいって、作ってくれてたんです。父と母が1ヵ月に1回だけみんなで外食へ連れて行ってくれたの。家はオンボロだったけど、エンゲル係数はすっごい高かったと思うわ(笑)。食に対してだけは、幼い頃から惨めな思いはしなかったですね」
―話は変わりますが、IKKOさんはネットショッピングはされますか?
「最近はね、買えるものはネットで買うよね。今は外に出るもの怖いじゃない。だから、できるものはお取り寄せしてる。この年齢になると成人病とかも怖いから、ネットショッピングで糖質オフのピザやケーキなんかもチェックしていて、この前食べたらすごい美味しかったのよね! だからそういうのも、もっといっぱい知っていきたいなって私も思ってるところ!」
―最後に。IKKOさんの得意料理はなんですか?
「得意料理っていったらいっぱいあるから何とも言えないんだけど、最後の晩餐として作りたいと思うのは餃子かな。私、餃子包むの早いのよ~(笑)。昔は家族が多かったからたくさん作っていたのもあって、すごく得意なの。餃子って肉汁とタレが合わさって、それがご飯に染みたのが本当に美味しいじゃないですか。最高だと思う。それに昭和の味っていう感じがして好きなのよね」
―まさに、思い出の味ですね。
「最近になって、人って面白いなって思うのは、50歳を過ぎてから最終的に行き着くのは結局、幼少期に自分が求めていた味なのよね。全てにおいて昔の懐かしさや、思い出を振り返っていっている気がするの。私、人生は前に進んでいくタイプだけど、この先自分の中で大切にしていかなきゃいけないのは、昭和の頃や10~20代の頃のことだって気がしている。今忘れてしまっているものをもう一回頭の中に思い浮かべて、自分なりに楽しみながら今の時代に合わせて変化をさせていけば、スパイスになっていくと思うんだよね。それでもう一回楽しめたらいいんじゃないかなって、最近は思っているな」

IKKO(いっこー)

1962年1月20日生まれ。美容師を経て、ヘアーメイクアップアーティストとして独立。アトリエ IKKO を主宰して、女性誌をはじめ、 テレビ・CM・舞台などのヘアメイクを通じ『女優メイク IKKO』を確立。 幼少期から抱えていたコンプレックスを乗り越え経験をバネに、独自の審美眼が絶大な共感を得ていく。現在は、美容家・タレントとして活動。 最近では美容家として活躍する傍ら、多くの女性の美に対するプロデュース業にも注目が集まる。 現在までに数々の賞を受賞。
2008年 女性誌マリ・クレール ジャポン、初の人物賞として 『プラネット・ミューズ賞』を受賞。
史上初めて、化粧品会社や商品に送られる賞を人物として受賞し話題になる。
さらに、2009年韓国観光名誉広報大使(韓国観光公社)に任命され、「ソウル観光大賞」受賞、2019年「(社)忠北化粧品産業協会」功労賞受賞など、活躍の場は海外にまで広がっている。
なお、2019年2020年と2年連続で「ベストフォーマルアワード<和装部門>Kimono Queenを受賞。2020年は、コスメ業界に絶大な影響力のある@cosmeが主催するアワード【@cosmeベストコスメアワード2020】にて『Beaty Peason of theyear』を受賞。
昨年には、初の料理本「IKKOのやみつきレシピ 料理は魔法のひと手間」を発売。

インタビュー・テキスト:戸塚真琴
撮影:猪原悠(TRON)
編集:長野宏美