KITCHEN LABO 今月のラボ『餃子大研究』

2021.1.20

自然豊かな都市近郊のフードラボ「blue monkey room」に集まった、食のスペシャリストたちが繰り広げる、ちょっぴりマニアックな部活動。blue monkey(青い猿)とはマヤ暦の星人の一つで、楽しむことが大好きです。

日本人も大好きな餃子。中国では旧正月の休暇中、幸福を願って餃子を食べ続ける風習もあるそうです。中国茶の専門家にして餃子名人な秦国力さんと、究極なシンプル餃子を目指します。

@blue monkey room
今回のメイン研究員

秦国力さん(シンさん)
中国茶のラグジュアリーティーブランド「馨華」の製造・卸販売を行い唯一無二のお茶体験と時間を提供する。美食家で料理上手。
http://www.chinesetea.co.jp/company/company.html

こんな餃子を目指したい!

日本の餃子は、戦後、満州から引き上げてきた人々が中国で食べた味を伝えたのがルーツとされています。調べてみると、ユーラシア大陸には中国以外にも古くから餃子的料理が存在するのですが、他国と中国餃子の大きな違いは、調理法が多様なこと、スパイスを豊富に使う中央・南アジアや具沢山なヨーロッパと比較し、具材も味付けも比較的シンプルなことではないかと思います。

中国の特に北部では、今も年中行事として旧正月(春節)に餃子を食べます。この風習が定着したのは清王朝、満州人が中国を支配した時代。今回、餃子マスターとしてラボに参加してくださった秦国力さんの実家でも、旧正月には豚一頭を潰して大量に餃子を作り、休暇中はほぼ餃子を食べ続けるのだとか。餃子は貨幣や富の象徴で、そういった験担ぎは日本にもたくさんありますが、面白いのは、餃子の中に棗やピーナッツを忍ばせ、それを食べ当てた人に幸運が訪れると考えられていること。フランスの新年のスイーツ、ガレット・デ・ロワのような側面もあるようです。

今回目指すのは、日本に伝来した中国式を参考に、いかにシンプルにオリジナリティある美味な餃子にできるか。餃子の構成要素は、皮・具材・調理法・タレなので、それぞれの要素(エレメンツ)を極力シンプルに、要らないものは削ぎ落とすことにしました。

粉)3種類の粉(薄力粉・強力粉・古代小麦)でそれぞれ皮を作り、粉特性から適した調理法や具材を考える。

餡)主と従、2種類の組み合わせ。秦さん曰く「主役と相性の良い食材を一つ加えれば十分美味しい」。基本具材は豚(主役)+ニラ(サブ)です。

調理法)茹でる・蒸す・焼くを試す。まずは中国で一般的な「茹でる」を同じ具材、小麦粉違い(3種)で試し、粉特性と合う調理法、具材を予想して試します。

たれ)餡(具材)の個性を楽しむため、なしを基本に。途中で味変的に試すために用意します。

シンプル餃子の作り方

生地作り(3種)
生地作りは面倒なようですが、餡作りが簡単なので、皮には時間をかけましょう。手作りすれば粉の風味、食感に独自性が出ます。ポイントは“水を入れすぎない”につきます。少し硬いぐらいで生地を休ませると、時間とともに水分と粉が馴染み、柔軟性がでます。練った時点で柔らかいと、休ませている間に生地がだれます。

レシピを見るとわかると思いますが、粉によって吸水力が異なるので、吸水力が高い粉は水分少なめに、低い粉は水分を多めにします。スペルト小麦(グルテン構造を作りにくい古代麦)は、最初硬く感じますが、吸水スピードが途中で上がるので注意が必要です。

餃子生地のRECIPE

<餃子の生地 3種>

材料 ※各種約30個分

  • A
  • 薄力粉(九州産 名月) 300g
  • 140g
  • B
  • 強力粉(北海道産 春よこい 石臼挽き) 300g
  • 150g
  • C
  • スペルト小麦(ドイツ産 西尾製粉) 300g
  • 120g

練っていて、なんとかまとまるぐらいの硬さで粉がぼろりと落ちなくなったら(写真ぐらい)練るのをやめてラップを巻いて休ませます。

生地をラップで巻き30~60分寝かせたら、作業台に打ち粉をして再度練り、表面に艶が出たら完成(写真の状態)。薄力粉、スペルト小麦、強力粉の順に休ませる時間を長くします。写真は右から A(薄力粉)B(強力粉)C(スペルト小麦)

餡を作る

餃子の餡作りで一番重要なのは、具材から水を出さないことです。日本式餃子では、白菜やキャベツに最初に塩をして、出た水分を絞るやり方もあるのですが、シンさんは、野菜をみじん切りにした後、油で和えてコーティングします。こうすることで野菜の持つ水分を保ったまま外に水を出さずに加熱できるため、出来上がった餃子を噛むと小籠包のように素材のスープが溢れます。

今回は基本の餡を豚(肉)+ニラ(野菜)とし、その応用編として豚大根、そして肉なしのニラタマを作りました。

餃子餡のRECIPE

<餃子の餡 3種>

豚ニラ

材料

  • 豚のひき肉 300g
  • ニラ 250g(2.5束程度)
  •  
  • 油(太白油や米油などクセのない油) 大さじ 3~4
  • 生姜 大さじ3
  • 醤油 大さじ3
  • 小さじ1
  • 金ゴマ油(香りの良いもの) 大さじ 2

作り方

ニラをみじん切りにして油をまぶします。ここに豚ひき肉を加えて和えます。
①に生姜(みじん切り)、醤油、塩、金ゴマ油を入れてよく混ぜます。

みじん切りにしたニラを油でコーティングして、ニラの水分流出を止める。②の大根③のニラも同じことを行う。

豚大根

材料

  • 豚のひき肉 250g
  • 大根 400g(1/2本程度)
  •  
  • 油(太白油や米油などクセのない油) 大さじ 3~4
  • 生姜 大さじ3
  • 醤油 大さじ3
  • 小さじ1

作り方

大根をみじん切りにして、油をまぶします。ここに豚ひき肉を加えて和えます。
①に生姜(みじん切り)、醤油、塩を入れてよく混ぜます。

ニラタマ

材料

  • ニラ 250g(2.5束程度)
  • 5個
  • 小さじ1/2
  • 油(サラダ油や米油などクセのない油) 大さじ 3

作り方

卵に塩を入れてよく混ぜます。
フライパンを温め、油を全体に回し、卵を加えてふわっとさせます。卵の色が変わったら火を止めて、炒り卵状に細かくポロポロにします。
みじん切りのニラを油と和え、②の卵と混ぜ合わせます。

(左)卵は火を消して炒り卵状にして(右)生のみじん切りにしたニラと合わせる。

上から時計の逆回りに豚ニラ、豚大根、ニラタマ。皮にたっぷり具材をのせます。

餃子の皮作りと包み方

今回一番の難関は餃子の皮の成形と包み技。やり方は粉の種類、餡の種類に限らず共通です。まずは皮の成形から。

皮の作り方
出来上がった生地の中央に穴を開けてリング型に生地を伸ばし、一番細いところで生地を切ります。
一番細い部分の径を基準に一個分(約15g)に切ります。一つ切ったら、生地を90度回転させて同じサイズに切り、元の位置に生地を戻して切ります。生地を前後しながら、手の位置は変えずに切ると、同じ形にカットできます。
生地をカットしたら円形に成形します。掌のくぼみを使って中央部を厚めの円形にします。
麺棒で伸ばします。麺棒を回して円にするのではなく、生地の上に麺棒を置いたら、棒の左右端に力を入れて軽く上下に動かします。生地が回転して円形になります。

続けて包み方です。

包み方
餡は、生地がはち切れそうなぐらいたっぷり入れ、生地を合わせる縁の面積は最小限に。作りたての生地はしっとりしているので、市販の皮のように水をシールにしなくてもくっつきます。
餃子の端と端を両手で包み込むように持ったら、左右の親指・人差し指の関節を押しこみ、餡の詰まった部分はフリーにして、掌の窪みに落とします。

まるでマジックのようなのですが、一連の動きは、冒頭の動画でご確認ください。

ヒダのように見えるのは、指の関節の跡です。

ヒダは作りません。目的は生地をしっかり密閉することなので、餡の入っていない端の部分を人差し指と親指の関節でムギューッと一気に閉じます。

旧正月のお目出度いバージョンとして、餡の中に棗、ピーナッツを包んだものも作りました。題して「幸福餃子」。ラボでも、当たり餃子としていくつか作ってみましたが、当たると場が盛り上がりますよ。

左が棗入り、右がピーナッツ入り。餡は豚大根にしてみましたが、シンさん曰く「何でも合う」そうです。

ITEM

株式会社癒雅

¥ 1,836(税込)

餡に味が付いているので、タレなしで良いといいつつ、タレのレシピも教えてもらいました。ちょっと美味しすぎるタレなので、使いすぎ注意です。

最初からタレをつけてしまうと、タレで舌が疲れます。美味しい餃子はそのままで十分美味しいですから、まずはそのままで。ちょっと飽きてきたらタレをつけるのが良いのです。(シン)

タレのRECIPE

<餃子のタレ>

材料

  • にんにく(潰す) 5片
  • 中国黒酢 大さじ3
  • 醤油 大さじ3
  • 香りゴマ油 大さじ1
  • ピーナッツ(皮をとって擦る) 15g

作り方

上記材料を混ぜます。