2025/4/30更新
アースモールが考えた愛媛とのサステナブルな暮らし。
持続可能な社会を作り出すためには、いま、自分たちに何ができるかを考え、課題に対して誠実に向き合い、多角的な視点を持って考え続けることが大切なことだと思います。そのヒントを探るべく、サステナブルな取り組みに感銘を受けた企業やクリエイターの方に、「EARTH MALL with Rakuten」編集長・平井江理子がお話をお伺いします。
今回のパートナーは、愛媛県砥部町の伝統工芸である「砥部焼」の産業としての可能性と進化する仕組みを考えるプロジェクト「白青」(Shiro Ao)を手がける岡部修三さん。本企画は、今年2月に3周年を迎えた京都「小川珈琲 堺町錦店」2階ギャラリースペースで開催されたポップアップイベント「アースモールが考えた愛媛とのサステナブルな暮らし展」で行われた対談の模様をお届けします。
平井:「小川珈琲 堺町錦店」2階ギャラリースペースで開催されたポップアップイベント「アースモールが考えた愛媛とのサステナブルな暮らし展」では、アースモールが3年ほど前から愛媛県さんと一緒に愛媛のサステナブルな商品について、キャンペーンを通じて色々と考えさせていただいております。今回、初のオフラインイベントということでゲストに「白青」(Shiro Ao)/「upsetters architects」(アップセッターズ アーキテクツ)の岡部修三さんお招きしております。
岡部:「upsetters architects」(アップセッターズ アーキテクツ)という建築設計事務所を20年やっています。「新しい時代のための環境」を目指して、建築的な思考に基づく環境デザインとストラテジーデザインを行っています。僕は愛媛県出身ということもあり、愛媛県で250年ほど続いている砥部焼の産業を伝えていくプロジェクト「白青」(Shiro Ao)を手がけていて、そのご縁で「アースモール」さんと、ご一緒させていただいております。
平井:「白青」(Shiro Ao)のプロジェクトは、「地域再生」がひとつのテーマになっていらっしゃると思います。改めて、具体的な取り組みについて教えていただけますか?
岡部:「砥部焼はもともと「白」と「青」の色が特徴的なデザインです。それもあって、ブランド名を「白青」(Shiro Ao)にしています。愛媛県砥部町で採れる良質な陶石が取れることでやきもの文化が発展しました。丈夫で落としても割れにくいことがひとつの特徴です。実際、砥部町には砥部焼の窯は50程度あって。そうした窯元が作っているものや伝統的な砥部焼のデザインを踏襲し、“最も定番と言えるデザイン”とは何か。改めて問い、考えました。実際に砥部町の中でいろんな窯の方に作っていただき、職人の方に仕事が回るような環境を整えて、砥部の町を盛り上げていくことも目的の一つです。
平井:今回のイベントでは「白青」(Shiro Ao)以外の砥部焼のブランドもご紹介させていただいています。「Mustakivi」(ムスタキビ)や「藤橋」だったり。それぞれ、デザインもバラバラで、初めて砥部焼に触れた方は、「この全部が砥部焼なの?」と思う方がいらっしゃるかもしれません。本来のベーシックな砥部焼は、「白青」(Shiro Ao)のようなデザインということですね。
デザイナー/陶芸家の石本藤雄さんが手がける、ゴブレットのデザインが特徴的な「Mustakivi」(ムスタキビ)のシリーズ。「Marimekko」(マリメッコ)を代表するデザイナーとして活躍し、フィンランドで50年ほど暮らしていた石本さんが地元、愛媛県に戻り、自然と対話しながら、ものづくりを楽しんでいるブランド。
イベント期間中「小川珈琲堺町錦店」では、愛媛県内限定栽培の希少なオリジナル品種「甘平(かんペい)」を使ったフルーツサンドを「藤橋」の器で提供。*限定メニューのため、現在は販売終了しています。
岡部:そうですね。もともと砥部焼自体に“白地に青の唐草模様”というイメージをなんとなく持っていただいている方もいると思います。その一方で、作家やデザイナーの方が「白と青」を使わずに新しいあり方を探ったり、新たな素材を使ったりして自由にデザインしていること自体、とても素晴らしいことだと思うんです。砥部焼としてそうした文脈があるなかで、自分たちのプロジェクトとしては、あえて砥部焼が持っているものの良さに向かいあってみたいという想いがあり、「呉須」と呼ばれるコバルトブルーの顔料を太縞で巻いたデザインに結実しました。
ほんのり青みがかかった白磁と呉須のコントラストが美しい「白青」(Shiro Ao)の蕎麦猪口(縞柄・太)と小鉢(縞柄・太)。
平井:フォルム自体もトラディショナルなものなのでしょうか?
岡部:そうですね。僕らがデザインするときに、砥部焼の50くらいの窯が作っているものを1個ずつスキャンして、データを取っていきます。いま、販売されているプロダクトを徹底的に調べ上げて、その特徴を抽出する作業です。なぜ、そういうことをしたかというと、自分たちはデザイナーではあるものの、手を動かして作る職人ではないから。職人ではない自分がどうやって産業に関わっていくのか。そのことを誠実に考えていった結果、伝統の延長として進化をさせるためのプロセスが必要だと考えました。一番特徴的なのは、この「くらわんか碗」です。
江戸時代から庶民に愛されて続けた普段使いの代表的な器です。船客に食事や酒を売っていた「くらわんか船」の商人が使用していた茶碗です。船の上でも倒れないように高台が大きく重いのが特徴的なデザインで。砥部焼の中ではいちばん多く作られているものですが、構造として断面をえぐっています。どっしりとした高台が付いた「くらわんか碗」はどうしても手にした時の重量感というものがありますが、そうした堅牢さはそのままに、少しでも使いやすくするために削る工夫をし、手にしたときの軽やかさを追求しました。
平井:「白青」(Shiro Ao)のデザインは、砥部焼の文脈を大切にしながら、自分たちのもともと持っている価値をどうやったら伝わりやすいカタチでアウトプットできるか。そのことを深く考えていらっしゃるところが、とても魅力的です。建築家ならではの長期的な視点が織り込まれたデザインだと感じています。
岡部:ありがとうございます。デザインというものに真面目に向き合うと本当に難しいものがあります。「なぜ、そのカタチなの?」と問われた時に、すべてに対して理由を説明できないといけない。基本的にそうした考えがあります。
そうした背景を踏まえて、僕らは産地で受け継がれているものを引き継ぐ形でデザインしています。土地にある素材を使い、長く受け継がれてきたデザインを繋いでいくようなことをやっていれば、愛媛から直接海外に持っていける時代なんだろうな、と思うんです。
そもそも砥部という町で砥部焼が始まったのは、石が取れたから。それによって、どんどん砥部焼というものが広がっていきました。今は安い器がたくさん出てきていて、手で丁寧に作ったものが、それよりも良いものとして買ってもらえるか。そのこと自体、現実として容易いことではありません。そうなると、産業としてはどうしても衰退していく傾向になり、石を供給する事業者もうまくやっていけなくなります。そうした根本を見直し、考え直していかないと産業を未来に繋いでいけないと常々思っています。まさに「サステナブル」という文脈として、そうしたことを真剣に考えないとならない。だから、僕らは採石場や石を加工している人たちに直接会いに行き、コミュニケーションを深めることも大切にしています。
平井:共同体という意識を持って、砥部焼の未来を考えていく取り組みに感銘を受けます。そうした背景を知るとよりいっそう、商品を購入して応援していきたいという気持ちが生まれます。「白青」(Shiro Ao)の器は、家でずっと使っていて、ぽってりとしたフォルムがとても手に馴染みますし、熱が伝わりづらい特徴も良点ですよね。スタッキングしたときの景色も美しくて。ものとしての機能性も高いので愛着を持って使っています。ぜひ、いろんな方に手に取っていただきたいなと思っています。
岡部:実感のこもったご感想、とても嬉しいです。砥部町で「日常使いの食器を作る」ことは産業として広まりましたが、それ以外のプロダクトを作ることも非常に重要なんじゃないかな、と思っていて。
デザイナーの井口弘史さんと池田麻人さん(龍泉窯)と制作した「Sculpture No,1」という置物を一点一点手づくりで作っています。愛媛の地に縁が深い、早咲きの桜である十六日桜(いざよいざくら)から着想を得たデザインです。そっと見守ってくれる、守り神のような存在をイメージして作りました。北海道を代表する郷土玩具の「木彫の熊」がありますが、ああいったものを現代で生み出すにはどうしたらいいかな、と考えてみて。作る工程は基本的にルールがあり、フォルムや大きさ、ペンを入れる順番が決まっています。それを守って作れば、うまい人だと大体、毎回同じ形が作れるアプローチを生み出しました。こうしたものづくりを推し進めて、砥部の石の新しい可能性を探っています。
平井:可愛いですよね。ウチにもあります。
岡部:ぜひ、一家に一台、という感じで(笑)。今回のポップアップイベントで選ばれているものを見て、デザインがいいものが選ばれていると思うんですけれども。そのこと自体、とてもいいことだと思っていて。デザイン的なサステナブル、という観点をお考えになられていますか?
平井:直感的に生活の中で高揚感が感じられたり、楽しさを感じられたりするものを選んでいます。たとえば、愛媛県今治市のタオル業者「田中産業株式会社」が、新たな取り組みとして作った「ダイアログ・イン・ザ・ダーク・タオル」というものがあります。こちらのタオルは手触りが良くて、さらにカラーリングやパッケージのデザインも素敵で。実際、制作の背景を調べてみると、視覚障がい者(アテンド)をパートナーに迎え作られたものだということがわかり、大変興味深い取り組みだと感じ、昨年、取材をさせていただきました。
「田中産業株式会社」の4代目社長の田中良史さんは「肌触りのいいタオル」を作り出すことを一番の目標に掲げたときに、触覚の感覚が優れている視覚障がい者の方とのコラボレーションすることが新たな挑戦になる、と思われたそうで。視覚障がい者の方に実際、自社で作ったタオルを体験していただき、感想やアドバイスをもらい、その内容を踏まえてさまざまなトライ&エラーをしてこれまで作ってきたタオルを超える「肌触りのいいタオル」をお作りになられました。そうした着想やものづくりのプロセスに多様な価値観を感じました。
一般的にサステナブルなタオルというと、オーガニックコットンや残糸を使用したものが考えられるかなと思うのですが、新たな視座でものづくりをされているところに魅力を感じています。
岡部:素敵な取り組みですね。人権や多様性の尊重について視野を広げるということがサステナブルにつながるというお考えですか?
平井:そうですね。
岡部:あらゆることに気を配ることにも、デザインの意義が存在しているのかもしれないですよね。
平井:そうですね。個人的な感覚ですが、「サステナブルなことがしたくて作った」という目的から作られたものじゃないものの中にサステナブルなものがあるのでは、と思っていて。地域の特徴を活かし、自分たちがやりたいことやできることを突き詰めたときに、魅力的なプロダクトが生み出されているように思います。そうしたものが作られた背景をひとつ一つ知り、サステナブルという文脈で捉え直してみる作業も面白いことだと思っています。
岡部:なるほど。最近よく思うのが、消費者の方が実際に商品を購入する前によく調べているところが素晴らしいなと思います。「こういう規格の中で買いたいな」「こういう人から買いたいな」と考えることは買い物としてとても大事なことですよね。これだけものが溢れている中で、そういう視点は重要だと思います。
平井:そうですね。今回、オフラインイベントをやらせていただいて、いろんなジャンルを揃えさせていただいているのですが、「食器が好きで見にきました」という方も結構、いらっしゃって。好きな方は事前にある程度、プロダクトについて調べていて、基本的な情報を知っていたりする。そうしたお客様に対して、こちらが取材で体得した、ものづくりの現場や制作の背景を伝えられたら、一番健全な形で届けられるように思います。対面でコミュニケーションできるイベントを開催することも意義があることだと思っています。
岡部:「あっちで買うよりも、こっちで買いたいな」という意識はきっと誰にでもあると思うんです。そういう時代にどんどんなってきている。そういう意味では、地域で丁寧に作っている作り手と直接繋がったり、ものづくりの背景を教えてもらえたりする環境で買い物をする行為は、すごく大事なことなのだと改めて思いました。
平井:そうですね。ありがとうございます。一方、オンラインの楽天市場は、地域のどこに住んでいても、自分が主体的になれたらそういったことが叶う場でもあります。アースモールでは、一つひとつのものづくりの背景を丁寧に伝えられたら、と日々取り組んでいます。以前、岡部さんとお話をさせていただいた際に、地域を守り、産業を繋いでいくために実は海外がポイントになる、とおっしゃっていたことがとても印象的で。世界とどう繋がるか。そのことについて、ぜひお話をお伺いしてみたいです。
岡部:まず「地域」というものをどう捉えていくのか。そこが入り口だと思います。今は東京よりも確実にほかの地域の方が、可能性があるエリアというのは大前提で。
地域にはその土地ならではの特徴があり、人がいて、連綿と続いてきた営みがある。東京との差異が大きいほど、非常に価値があるように思います。産業革命以降、「ものを作って売る」という話になったときに、たくさん作って、たくさん売った方が、経済活動としては大きくなる宿命がありますよね。
そうなってくると、量産して、流通している人の方が経済活動としては有利になる。ただ、この先、日本で人口が減っていくことになると、基本的にはそこで成長が見込めなくなってくると思うんです。大きく作って、大きく売るということは、長期的に考えると将来性がないことだと考えた方がいいと思っていて。
そうなってくると、つくり手の存在が重要になってくる。少量で、ちゃんとこだわってものづくりできる人こそ重要になってくるし、そうした価値観が戻ってくると思うのです。世界を通して見たときに、よりその価値がでてくると僕は思っていて。自分たちが楽しんで作っていくというのはそれはそれで素敵なことで。僕も大事ことだと思っています。国内だけを見なければ、そういったものが欲しい人はかなりいる。
今後、未来に繋いでいくことを考えていくと、海外にダイレクトに出していくということが、責任としてすごくあるんじゃないかな、と。海外の人から日本のいいものを文脈で知りたい、となった時におそらくどこを見たらいいのかなかなかわからないと思うんです。だから、自分たちにしかできないことを見極めることがとても大事。
平井:とても勉強になります。岡部さんがお考えになる、愛媛県のサステナビリティにおける課題はどんなポイントにあるとお考えですか?
岡部:京都の人たちはコミュニティがあって、問題意識を持っている人や新しい取り組みをしようとしている人たちが集って、より良い社会を作ろうとするムーブメントがあると思います。愛媛県は島国の中でもさらに島国で。そうした土地で暮らしていることが関係しているのか、あまり繋がろうとしない性格の人が多くて。その分、ひとつのことを深掘りしていける力を持っている。愛媛独自の進化を模索する必要はあると思っていて、作る人と世に出す人を分けた方が上手くいく地域かもしれません。
平井:なるほど。そうしたことに目を向けることは「サステナブルな暮らし」とはどういうことなのか、考え続けることに繋がりますよね。これからの未来を考えるヒントにできたらと思います。本日はありがとうございました。
Photo by : Yoshiki Okamoto Edit & Text by : Seika Yajima