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2022/3/18更新

みんなのサステナブル vol.2(後編)

菓子研究家 長田佳子さん

クリエイターや生産者をはじめ、暮らしを楽しむスペシャリストが「楽天市場」の中から選んだサステナブルな日用品や愛用品をエピソードとともに紹介していく連載「みんなのサステナブル」。第2回目のゲストは菓子研究家の長田佳子さん。後編では、山梨に根をおろすことで出会った生産者の方々との交流、その中で見出したサステナブルな未来に繋がるアクションについてお話をお伺いしました。


長田さんは山梨に移住し、仕事やプライベートのあらゆる場面で地元の農家の方や生産者との出会いが増えたことで「食品ロス」の問題に直面したといいます。

foodremedies(フードレメディーズ)菓子研究家、長田佳子さんと、山梨の地域の方々との写真

地域の生産者と食品ロスの問題に取り組む。

「『原田桃園』の原田弓大さん(写真左)と出会い、見た目や日持ちの関係で流通に乗らない規格外の桃を大量にいただいたことがあったんです。それが、今まで食べていた桃はなんだったんだろう? と思うくらいに甘く、みずみずしさも格別なもので。大量にいただいた桃を腐らせてはいけない、という使命感に駆られてアトリエを持つことを決意しました」
この日、長田さんのアトリエに仲間の内田さんとともに訪れた原田さん。自身が生産している桃の「食品ロス」のリアルな状況について教えてくれた。
「8年前に東京から山梨に移住して、個人で桃農園をやっています。完全に無農薬で作ると虫に食べられたりしてしまって、1本の木から10〜20個の桃しか採れないというのがリアルな現実です。収穫できる量が限られてしまい、生産者としては代償が大きくなってしまうので『オーガニック栽培』と認められる安全性の高い農薬を使い、てんとう虫を害虫駆除に使って減農薬で育てています。長田さんにお渡しした規格外の桃は『ネクター』と言って、業者に頼んでジュースにしてもらうことも出来るんです。大体の相場ですが、20kgの桃が200円くらいの価格になるシステム。持って行く時の輸送代の方が高くなってしまう感じで、止むを得ずまだ食べられるものを畑に捨ててしまうことも。2019年、2020年は作物が思うように出来ず、流通に乗らない桃が2トンくらいの量になってしまってそれも畑に……。そうしたことを繰り返していると精神的なダメージが膨らんでしまって。だから、知人に譲って喜んでもらえた時は少し心が軽くなります。幸いにも長田さんのようなお菓子作りのプロフェッショナルに出会ったので、材料として使ってもらうのが絶対にいいなと」
原田さんの想いを受け止め、長田さんは食品ロスに対して新たな試みを考えています。
「桃は6月くらいからシーズンなので、規格外の桃を使わせてもらって桃本来の味を楽しめるお菓子を作って提供してみたいです。あとは、このアトリエを限定的に直売所のようにしてみたい。大きなことはできないですが、同じ地域に住む生産者の方が抱えている問題と向き合って、自分なりに考えていくことが大切だと思っています。まだまだやれることがあると思うので、自分がサポートすることで“食の循環”の歯車になれたら」

生産者と積極的にコミュニケーションを取ることで

見えてくるもの。

これからの食の在り方について思索する日々を送る中で、長田さんは地元の飲食店で出合った「共栄堂」のナチュールワインの味に感動を覚えた、と笑顔で語ってくれました。山梨市牧丘町という同じ地域でワイナリーを営む「共栄堂」の小林剛士さんにも“サステナブルなもの作り”についてお話をお伺いすることに。

小林剛士さんが営む「室伏ワイナリー」にて。「1本2,000円程度の求めやすい金額でワインを造ることで、若い人にもワインの楽しさを届けられたら」と語る小林さん。

リーズナブルな価格でワインを提供できる設備や環境作りをすることで、いかにワインを「文化」として継承できるか。そのために、希少価値で飲むワインではなく、日常的に飲んでもお財布に優しいワインを作ることを大切にしている、と熱く語る小林さん。

「ワインはブドウの生育状況によって味が変わるものです。加えて、時間の経過によっても変化を伴います。自然派ワインは、ある種の“味の不安定さ” を味わうことに面白さがある。家で作る食事が毎日同じ味になることがないことと近しいものだと捉えて、寛容に受け止めてもらえるようになるといいな、と。そう感じてもらえると、新たな食の価値観に出会う楽しみが生まれて、文化として受け継がれていくように思いますね」

食品業界、ひいては地域の先輩である小林さんの言葉に深く頷く長田さん。

「小林さんがお造りになるワインは、飲んだ瞬間にほっとして『ただいま』と言いたくなる優しい味わいです。今回、お話をお伺いして、私のお菓子もどこか自然派ワイン造りと似ているところがあるように感じました。小麦や砂糖の味も毎回同じ味というわけではなく、変化がある。それによって、お菓子の味も変わりますし、作るときの心の持ち方でも変わっていきます。同じお菓子を作っても、そのときどきで味が変わることに面白さがある。材料選びがお菓子作りに楽しさや刺激を与えてくれるものだということを知ってもらえたら嬉しいです」

地域の生産者と積極的に交流しコミュニケーションを深めることで、今まで自分が理解してきたことの枠を超えた活動をしたい、と強い意志を持って活動する長田さん。食材や課題に向き合い、自分なりのサステナブルな食の未来や暮らしの在り方を探し続けています。
PROFILE
長田佳子〈foodremedies〉
レストラン、パティスリーなどでの修業を経て、2015年に独立。
〈foodremedies〉という屋号でハーブやスパイスなどを使ったまるでアロマが広がるような、体に素直に響くお菓子を研究している。著書に『季節を味わう癒しのお菓子』(扶桑社)、『全粒粉が香る軽やかなお菓子』(文化出版局)など。2021年7月より登録制による動画配信のお菓子教室を開催。アトリエ「SALT and CAKE」は、毎月第3日曜日にオープン。foodremedies.jp
Photo by: Mitsugu Uehara Edit & Text by : Seika Yajima

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