EARTH MALL with Rakuten Magazine 未来を変える読み物

2018/12/28更新

“毎日の買い物が未来の自分をつくる──” 松浦弥太郎さんと一緒に考える「買い物のきほん」

「“今日の買い物が未来を変える”って本気で思ってる。安いからとか、誰かにおすすめされたからではなく、今、自分が欲しいものを買う。失敗しても良いじゃない。それも人間らしさだし、買い物の幅は、人生の豊かさだと思う」 エッセイストとして、編集者として、書店の代表として。新しいもの、古いもの、安いもの、高価なもの──たくさんのものを目にし、買ってきた松浦弥太郎さん。そんな経験を経て、松浦さんがたどり着いた「買い物のきほん」について、EARTH MALL編集部のウドウ、ヒライ、コンドウの3人がお聞きしました。

未来の豊かさは、今日の積み重ねでしか生まれない

僕たちは毎日買い物をしています。環境破壊や貧困など世界で起きているさまざまな課題を、誰もがする日々の買い物から解決していきたいと考え、Earth Mallというプラットフォームをスタートさせました。今日は松浦さんが今、買い物について考えていることを、ざっくばらんに聞かせていただければと思います。

僕は「今を生きる」という価値観を大事にしていて。今日の営みが未来の自分をつくると思っています。食事で考えるとわかりやすいですよね。今日食べたものが10年後の自分をつくるということは、みんななんとなく想像できると思うんだけれど、買い物はどうでしょう。

あまり意識していないかもしれませんね。

買い物だって毎日のこと。なのに多くの人が「今日の買い物が未来につながっている」という感覚を忘れていたり、考えないようにしているように感じます。「今日ぐらい、適当に買ってもいいか」ってね。

たしかに。

ほとんどの人は幸せになりたい。でも今の時代、お金があるだけじゃ幸せは得られない。それなら、未来のための「今」という概念を大事にするという心持ちで生活することが、結果として幸せにつながっていくんじゃないかなと思いますね。

なるほど。今日の買い物を大事にするということですね。

僕、買い物で社会に貢献できるなんて今まで想像できなかったんですけど、せっかくEarth Mallのような未来を変える買い物のプラットフォームができたのであれば、今日の自分の買い物を見直すいいチャンスだと感じました。むしろ、「なんで今までなかったんだろう?」って思うくらい(笑)。

すごくうれしい言葉です。

こういう新しい取り組みって、最初はみんな「なんか、ちょっとわからない」みたいに様子見をする感覚はあるかもしれない。でも僕はそう思うこと自体、ちょっと無責任な気がしていて。まずは積極的に関わってみて、その上で判断するのがいいんじゃないかなと思います。そのほうが自分の学びにもなりますよね。

僕らは買い物に助けられている

もう少し、買い物について話を続けます。普段はあまり意識することはないですが、僕らは困りごとを解決するために買い物をしています。のどが乾くからお茶を買ったり、雨に濡れないように傘を買う。さらに言えば、嫌なことを忘れるためにも何かを買う。つまり買い物に助けられている。

買い物に助けられている、という感覚はあまりありませんでした。

そのことに初めて気づいたのが雑誌『暮しの手帖』の編集長をしていたときです。当時は本当に忙しくて、精神的に参っていた時期があって。ある日の仕事帰り、まっすぐ家に帰りたくなくてコンビニに立ち寄ったんです。でも欲しいものなんてないんですよ。目的なくただ店内をぐるぐると回って。

その松浦さんの姿、なんだか想像できませんね。

コンビニのガラス窓にうつる疲れた自分を見たとき、「何やってるんだろう。早く帰って寝ればいいのに」って思った反面、はっと気づいたんです。僕はそのとき、積もり積もった疲れや言葉にできないストレスをちょっとでも忘れさせてくれる“何か”を探していたんですね。それはアイスクリームだったり、ちっちゃなドラ焼きだったり、ささいなもの。結局、アイスを買って帰ったんですけど、食べている間だけは、誰にもぶつけられないモヤモヤを忘れることができました。

そういうことって、誰にでもありますよね。

「なんか買いたい」って気持ちの裏には、買い物が自分の心を癒してくれるという思いがある。だから「買い物を通じて、何かお返しできると良いなぁ」って常々思っていて、その可能性をEarth Mallに感じています。

お返しというと、どのようなことでしょう?

たとえば、今って顔を合わすことなくものを買えたり、注文したらその日のうちに商品が届いたりいろんなことが便利だけれど、一方で買い手・売り手のコミュニケーションが残らないですよね。残るのはポイントぐらいで(笑)。

一度きりで終わらない、つまり積み重ねていけるコミュニケーションをしたい。そう考えたとき、Earth Mallには、誰かが意思を持ってセレクトしたものを紹介し、それに共感した人が買うというコミュニケーションがあります。しかもそれが「未来を変える」ことにつながっていくとしたら、今まで味わえなかった体験になるのではないでしょうか。

(笑)。

クルマよりも価値がある、一球の野球ボール

松浦さんの人生の中で、未来を変えた買い物ってありますか?

野球のボールですね。

ほほう。

中学生の頃、野球少年だったんです。いつもテレビでプロ野球を見ていて、選手が使う硬式ボールに憧れていました。僕たちが普段使っていたのは、ゴム製の軟式ボールでしたから。

あのやわらかいボールですね。

どうしても硬式ボールが欲しくて、おこづかいを貯めて買ったんです。1個1,200円くらいだったかな。はじめて手に持ったときのワクワク感を今でも忘れられません。だって革だし、手縫いの赤いステッチもカッコよくて、「これが本物か!」ってものすごく感激した。プロ野球のTV中継を見ながら、「今、このボールを打ってるんだ!」ってドキドキしたり。

松浦さんにとって、はじめて触れた“本物”が野球の硬式ボールだった。

そうなんです。今も持っています。たかだかボールなんですけど、今もあのときのワクワクが蘇るし、こんなに自分の感情が色あせないものは他にはないんです。僕にとってはすごく価値があって、それこそ何億円もする高価なものより、ボールのほうが価値がある。自分とものとの間に関係性が生まれた、忘れられない買い物です。

それは大きな体験ですね。なんだかその野球のボールとの出会いが、今の松浦さんの仕事の原点にも思えます。

でも世の中には、こういう喜びを持てるものが他にもいっぱいあるはず。だから野球のボール以上の出会いをずっと探しています。それが僕の人生なんだと思います。

なるほど、深いなあ。

今のところは大好きなクルマでさえ、たった一つのボールを越えられないんですけどね(笑)。

「自分にとって本物である」ということが大事な気がしますね。Earth Mallでも、サステナブルやエシカルであることは当たり前のベースにして、想いを持ってつくられたものとか、買う人にとって何らかの影響を与えるようなものを紹介したいと感じました。

「サステナブル」って言葉も少し前は特別な感じがしていたけれど、これからはもうスタンダードになっていく。その上で、僕にとっての野球のボールみたいな存在が、僕たちの買い物を変える気がしますね。それはクルマかもしれないし、チョコレートかもしれない。鞄かもしれないし、洋服かもしれない。その人の琴線に触れるものに出会うことで、その人の未来が変わる。

失敗しない買い物なんて、つまんない

松浦さんが大切にしている「買い物のきほん」とは何ですか?

欲しいものは迷わず買う。

直球ですね(笑)。

そう、欲しいものは買うんです(笑)。僕、すごくもったいないなぁと思うのが、最近、みんな買い物の失敗を避けていること。

たしかに情報も口コミもたくさんあるから、失敗するほうが難しかったりしますよね。

でも今までを振り返ると、失敗した買い物がおもしろかったりするんですよ。「なんでこんなもの買ったんだろう?」とか「どう考えてもいかさまじゃん!」みたいなものが(笑)。

松浦さんも失敗するんですか?

数えきれないくらい失敗してますよ。最高の買い物もあれば、最低の買い物もある(笑)。あんまり賢くならないで、もっと直感で買い物していい気がするんです。衝動買いとか最高にいい体験だと思うし。

そう考えると買い物ってすごく人間らしい。

買い物には人間の本質が出ると思う。「なぜ買ったんだろう?」ってあとから後悔することもあるけれど、その幅も一種の豊かさに感じるし。僕は買い物が大好きだから、もう「欲しい欲しい病」ですよ(笑)。

そうなんですか?意外です。

買い物に限らず、自分の欲望をあんまり抑制してないんです。だって抑制したら人生つまんないですもん。だからいつも「なんか欲しい、なんか買いたい」って言ってる。その気持ちを「健全じゃん!」って誰かに認めてもらいたいくらい(笑)。

EARTH MALLで買って褒めてもらえたら最高じゃん

松浦さんのお話を聞いていると、みんな実は本当に欲しいものを買えていないのかも……という気がしてきました。難しく考えず「シンプルに今、自分が欲しいものを買う」ということが意外とできていないのかもしれません。

買い物って毎日のことだから無意識なんですよね。でも向き合い方を変えると、買い物って本当はすごく楽しいことだと気づくと思う。僕、みんなに「今日、買い物した?」って聞いて回りたいですもん。「いや、してない」って言われたら、「え、何で?」って問い詰めたいくらい(笑)。

早く買い物しなよ!って(笑)。

そうそう。あと、買いものしたら誰かに褒めてほしい。

褒めてほしいって、おもしろいですね!

買い物して褒められることって、案外ないから(笑)。買い物ってどこか罪悪感ありませんか? 「大事なお金を使っちゃった」みたいな。

たしかに散財というイメージもありますよね。

でも買い物って楽しいこと。だからEarth Mallで買い物したら褒めてもらいたい。「いい買い物したね!すごい!」って。

褒めてもらえる買い物、いいですね!

お店で「いやー、松浦さんいいもの選びましたね」って店員さんに言われるとすごくうれしいですもん。しかも万が一失敗したとしても、Earth Mallなら救われる。だってここで買い物すること=未来をつくることにコミットできるから。
たとえばEarth Mallで「買う」ボタンをクリックしたら、パチパチパチ…!って拍手が聞こえるとかどう?「昨日、ゴマ買っただけで200人から拍手されちゃった」みたいなのおもしろいじゃん(笑)。

いいですね!(笑)

褒めてもらえるし自分の未来も変えられるし、いい循環ですよね。そう考えるとものの売り方って、まだまだ発明できると思うなあ。買い物の発明をバカまじめにしていくのも楽しそう。

「私たち、振り出しに戻りました」

買い物は発明できる、ってあたらしい切り口だと思うんですが、そんな松浦さんは、これからの買い物をどのように考えていますか?

あくまで僕の解釈ですが「振り出しに戻る」かな。

どういう意味でしょう?

結局、僕ら人間はいろんなことをやりたい放題しすぎて、こんな世の中にしちゃった……みたいな罪悪感がどこかあるじゃないですか。

環境問題とかは自分たちのせいで起きているんだよな……という感覚はありますよね。

今は、現状を反省して、新しいアイデアで買い物を変えていく段階だと思っていて。ゴールが見えていたけど、サイコロを振ったら「振り出しに戻る」が出ちゃったみたいな気持ち。でもそれは残念じゃない。スタート地点から再出発すればいいし、すごく素敵なことだと思う。成り行きで進むのはもうやめようよ。だってここから新しいこと・おもしろいことができる。やりたい放題じゃない?

振り出しに戻るっていいなぁ。サステナブルとかエシカルとかそういうキーワードに頼らない松浦さんなりの再定義ですね。

私、楽天に長く在籍しているんですけど、Earth Mallはまさに「振り出しに戻った感」があると思っていて。

おお、そうなんですか?英語で「awake」ってあるけど目が覚める感じですね。

楽天ってもともと「地方から日本を元気にしよう」みたいな想いで始まったんですけど、会社が成長するとともに、そういった認識が薄れてきてしまっている気がします。だからEarth Mallは創業時の志のように、シンプルにいい商品を届ける場にしたいと思っています。

「私たち振り出しに戻りました」ってスタンスがいいかもしれないですね。けれども決して後退しているわけではない。

たしかに!

そして買う側も、「今日の買い物が未来をつくる」という基本に立ち戻ること。いい加減な食事をしていると不健康になることは、みんなわかるわけだから。それと同じ感覚を買い物にも持とう。

今日の買い物が未来の自分につながると思うと、一回一回の買い物が楽しくなりそうです。今日は本当にありがとうございました。

Earth Mallとしては、褒める仕組みを考えたいと思います(笑)。

買い物して褒めてくれたら、僕、どんどん買いますよ(笑)。

(笑)。

(写真・文=忠地七緒)


キュレーターPicks!


今回のEARTH MALLキュレーター

エッセイスト
松浦弥太郎さん

「正直、親切、笑顔、今日もていねいに」を信条とし、暮らしや仕事における、たのしさや豊かさ、学びについての執筆、雑誌連載、講演会を行う。著書多数。株式会社おいしい健康・共同CEO。株式会社キホン代表取締役。NHKラジオ第一にて、毎週木曜日「かれんスタイル」レギュラーパーソナリティ。


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