EARTH MALL with Rakuten Magazine 未来を変える読み物

2019/7/2更新

本を読む人も、本に関わる人も幸せに。バリューブックスの本をめぐる挑戦

「本を捨てるのは忍びない!」という自身の想いから、インターネットを介した古本のリユースで成長を続けるバリューブックスという会社の存在を知ったライターの神田桂一さん。
長野県上田市にあるこの会社を訪ねると、寄付につながるプロジェクトである「チャリボン」(*1)や「本のエコシステム」(*2)などなど、同社ならではのさまざまな取り組みの存在を知り、ますます興味は増すばかり。
「インタビュー編」では、バリューブックス社長の中村大樹さんにじっくりお話をうかがいました!(倉庫見学編は「古本売ったらどうなる? 知られざる本のリユースを追う!」をお読みください)

*1) 家庭や職場で読み終わった本の買い取り金額をそのままNPOやNGOの活動支援の寄付をするプロジェクト。
*2)出版社が長く読み継がれるような良質な本をつくり、その本がリユースされることでバリューブックスは利益をあげる。バリューブックスはその利益を出版社に還元することで、再び出版社は、長く読み継がれるような良質な本をつくる。この一連の流れを本の生態系(=エコシステム)と表現している。一般的に、古本の利益が出版社に還元されることはなく、出版社は新刊の売り上げからしか利益を得ることはできない。

「本の生態系」って?

1日に2万冊の古本が全国から届き、8,000冊が売れていくというバリューブックスの倉庫を見学してみて、とてもユニークな会社だと思った。古本屋さんなんだから、届いた本をどんどん出品したほうが稼げるのに、していない。それどころか、せっかく得た利益を出版社に還元したりもしている。長く読み継がれる本=良書と判断して、そういう本を世の中に増やそうとしている。売れない本を単純に処分せず、利益にならなくても「本を本のまま生かす」べく、本を寄贈したり移動図書館をしたりもしている。

そもそも古書販売は決して儲かる業態ではない。できるだけ安く買って高く売るため、またできるだけ多くの本を自社に託してもらうため、だいたいどの古本屋もお得感を強調するわりに、買い取り額は高くならないので、消費者にとってもいまいちお得感が伝わりにくい。第一、そのときの本の価値とは何なのだと考えると、本に携わる者としては釈然としない。それが、これまで僕が自室で本に埋もれながらも、古本屋に本を売る気になれなかった大きな理由だ。

なぜ「本を本のまま生かす」発想が生まれたのか、またそれを続けられているのはなぜなのか(社員、パートさんたちを含めて400人近くもスタッフがいるのに)。「BOOKS & CAFE NABO(ネイボ)」の隣にあるアウトレット店「VALUE BOOKS Lab(ラボ)」で、社長の中村さんへのインタビューを試みることにした。ここは、本来であれば古紙回収で処理されてしまう本を、実験的に低価格で販売しているお店だ。

左から僕(神田)、編集者の飯田光平さん、社長の中村大樹さん、上田原倉庫の責任者の林孝幸さん。

案内していただいた倉庫の規模にも圧倒されたんですが、出版社に利益を還元するプロジェクトもあると聞いて、ちょっと驚きました。他にも、本を寄付につなげる仕組みもあるんですよね?

はい、「チャリボン」っていうんですけど。古本の買い取り相当額を、支援先であるNPOなどに寄付しています。

取材中に飯田さんが「(本は)できるだけ本の形のまま生かしたい」と言われていたのが印象的でした。このアウトレット店も、むちゃくちゃ低価格です。そういうのを含めてエコシステムを維持するために、処分せざるを得ない本の行き先を探しているんだな、と思いました。

そうですね。どの活動も、「本の生態系をつくりたい」と思ってやっています。ただ、無理があると僕らも続けられないので、ちゃんと続く仕組みにしています。

そういうことを考えるきっかけって、なんだったんですか?

最初から考えていたわけじゃないんですよね、全然。会社の成り立ち的には、そんな余裕はなくて。今、余裕があるかっていうとアレですけど。

(苦笑)。

大学を卒業してから就職しないで引きこもっていて、食べることに困って自宅にある本をインターネットの某マーケットプレイスで売ったのが、事業の始まりでした

えっ! そうだったんですか。

それが意外と高く売れて(笑)。だから、エコシステムとか、そんなたいそうなことは考えていなかったんですよ。でも、だんだん売り上げの規模が大きくなって会社にして、扱う本の数も増えたら、捨てる本も増えちゃったんです。

アウトレット店は昨年8月に開店。実験的な試みだったそう。

「世界中の人が本を楽しめる」環境に

それで、売れ残った本や買い取れなかった本を古紙回収に出す以外にどうにかできないかと疑問が湧いてきた、と。

はい。それで2010年に始めたのが、うちで売ることのできない本を贈る「ブックギフトプロジェクト」です。当時『ハリーポッター』シリーズがすごく売れていましたが、1年も経つとうちでも売れ残って、古紙回収に回さざるを得ない。まだ人気なのに、もったいないですよね。「読みたい人、いるんじゃないかな?」と思って、近隣の学童保育やフリースクールに配ったのがきっかけでした。

その「捨てたくない」という問題意識は、どこから湧いてきたんでしょうか?

問題意識というよりは、「ちょっとスムーズじゃない」っていうか……。僕はさっきのような経緯で、もともと本に特別な思い入れはなかったんですが、仕事を通じてじわじわと「本っていいものだな」と思うようになりました。ただ、若かったのもあって、最初のほうは「ライバル会社より売り上げを上げたい」とか、「いいサービスにして勝ちたい」という感覚が強かったんですね。

それが普通のビジネスの感覚ですよね。

そう、でもだんだんそういうのが馬鹿らしいというか、競うのがおもしろくなくなってきて。それで、改めて自分たちの定義を文章で書いてみたら「日本および世界中の人たちが自由に本を読み、学び、楽しめることができる環境を整える」ことだと、はっきりしたんです。

自分の心に適う言葉を探しながら、話をつむいでくれる中村さん。

自由に本を楽しめる環境をつくる……。ときに、利益を度外視しても、ライバルに負けても?

うーん、利益度外視だと、続かないですよね。ボランティアじゃないから。だから僕も放棄しているわけじゃないんですが、目指す世界がはっきりしたら、ライバルや出版社や著者に対する考えも変わりました。全員が仕事を続けられて、古書販売の業界も本の業界も残っていかないといけない。そうすると、本を売ったりつくったりしている人の全員が協力者だと思えて、ライバルにすら「ありがとう!」という気持ちになってきました(笑)。本を読む人も本にかかわる人も、みんながうれしくなれば、きっと社会がよくなる。本を通して社会をよくすることが、僕らが目指すことだし、僕らだからできると思いました。

みんなの“違和感”に敏感になろう

なるほど……。寄付だとか、利益にならない活動は本業に余裕がある会社の慈善事業みたいに捉えていましたが、今の長期的な視点をうかがうと、自分たちの未来をつくる活動でもあるわけなんですね。実は、ドンずばの本業だと。

そう……なのかな(笑)。でも思うのは、嫌なことや苦手なことって続かないですよね。たとえば僕はそもそも組織が苦手で就職できなかったのに、だんだんスタッフが増えて、指示出しや制度の整備を求められるようになってきた。でも、会社らしくしなきゃ、という雰囲気への苦手意識を克服できなくて、もう「やめた!」ってなったんです。

え、でもそうすると、現場は……? 倉庫の責任者の林さん、どんな感じなんでしょうか?

はじめは戸惑う人もいましたが、最近はみんなが自分の意見や違和感を言いやすい雰囲気になっていますね。「上がなんとかすべき」みたいな発想もなくなって、社長すら立場は一緒というくらいのフラットな感覚になってきました。さっきの「もったいない」という点も、バリューブックスにはパートの主婦の方々も多いので、最初に気づくのは現場だったりします。

倉庫の責任者の林さん。みなさんで笑いあう様子から、フラットな雰囲気が伝わってくる。

たしかに、そうですね。

ビジネスである以上、もったいないからといってブックギフトを本業よりも優先させるのは違うと思いますが、僕ももちろん1万冊捨てていることに違和感はあります。全部がきれいに折り合いはつかないけど、一人ひとりの違和感を言葉にするのは意味があるし、どんな活動も「やりたい!」という人がいるなら僕は止めない、と決めています。

自分の違和感に正直になれる会社って、あんまりないかもしれないですね。でも、実際にそれで経営はうまくいっているんですか……?

何をもってうまくいっているのかっていうのがまた難しいところですけど、たとえばそれが、売り上げの伸びであるのなら、10年目までは右肩上がりでしたが11年目は伸びなかったので、うまくいっていないのかもしれない。でも自分たちとしては「11年目は成長しなくてもいい」と言っていたので、狙いは成功したんです。

成長しなくてもいい?企業なのに?

はい(笑)。それより今は、「成長が止まったとしても、気持ち悪いことをやめるほうを優先しよう」と思ったんです。なので、気持ち悪いというのは、やっていることに違和感を感じるという意味なのですが、それが少しずつなくなっているという意味では、今のほうがうまくいっているんですよね。

まとめ買いで一気読みできるものも多数。

割引であおるようなことは、もうしない

そうか、無理をしていると長続きしなくて、中村さんが目指す世界が実現しないのか……。気持ち悪いことって、どんなことですか?

たとえば以前入れていた、古本をネットで買った方への「送料無料!買取金額〇%アップ!」というチラシをやめました。ここからうちに古本を売ってくれるお客さんはすごく多かったので、やめるのは勇気が要りましたが……でもやめた。

お得ですよ!って、よくあるチラシですよね?

そう、でも割引で煽るやり方自体、消費者心理につけ込んでいますよね。その関係性に、違和感があったんです。結局、お金だけの付き合い。それが嫌だなと思いながら続けている自分もまた嫌で。それで代わりに、僕らの考えを書いた冊子や、お便り形式の活動紹介を送っています。こういうのを、飯田くんがつくってくれている。

僕はバリューブックスに入って2年くらいですが、たとえばブックギフトやいろんな活動について「え、知ってもらっていないなんて、もったいないじゃん!」っていう感覚があったんです。利益を産まない活動でも、これをきっかけに、古本売買のお客さんになってくれる方もいるでしょうし。だから、会社の考えや活動や考えを、ちゃんと世に出していきたいと思っています。その上で、どこを選ぶかはお客さんの自由だけど、選ばれたらいいな……みたいな(笑)。

「世界中の人が本を楽しむ」ことを、編集の力で達成できたら、と飯田さん。

この仕事を長く続けられる選択肢を増やす

チラシを止めると同時に、査定額を上げ、代わりに本を売りたい人の段ボール箱の送料を無料から有料にもしました。

査定が上がるのは客としてはうれしいですが、送料の有料化は、利用者が減ることを懸念しなかったのですか?

利用者は、実は半分に減りました(汗)。

ええ!……それでも挑戦する、勇気の源ってなんなんでしょうか?

売上目標を立てて、それを優先するときには、売り上げありきで道を選ぶようになる。だけどさっきお話しした優先順位を変えるというのは、自分たちが気持ちよく、お客さんにも喜ばれる中で結果として売り上げが伸びればいいし、伸びなかったらしょうがないと受け入れることだと思っています。勇気の源……の回答になっていないかもしれませんが(笑)、この仕事を長く続けられるように、選択肢を自分たちの中で増やしているところです。

ネットでは値がつかなくても、偶然の出会いで売れる本はたくさんあるという。

同時に、お客さんへも「こういう会社もあるんだよ」と知ってもらって、結果的にお客さんの選択肢も増えているってことですよね。なるほどなぁ……。これから、どんなことを大事にしたいですか?

まさに、「オープンにすること」を心掛けたいですね。そういう言葉があるのかわかんないけど、“ホワイトボックス”みたいな。

ブラックボックスの反対語ですね!

そう、そういうのを僕は目指しています。考えや活動を正直に伝えて、隠さない。過大には伝えない。結果、うちを選択されなくなる人もいるだろうし、難しいは難しいんですけど(笑)、その上で、まだ出会っていないお客さんと出会えて関係を築けたらうれしいですね。

……中村さんは、終始ものごしが柔らかく、本当に自然体な方だった。またお二人との空気感もとてもよく、僕もすっかり居心地のいい時間を過ごさせてもらった。それにしても、一時的にせよ「成長しなくてもいい」という決断ができるのは、よほど儲かっているか、逆にあきらめているかのどっちかの気がしたが、どちらでもないのだと思った。きっと「今は、自分の会社は成長しなくても、無理をなくすほうが未来につながる」と、中村さんには見通せているんだろう。

その未来とは、本を誰もが自由に楽しめる世界。同じ会社でも個人個人は考えが違うし、当然だけどライバル企業や出版社など立場の違う企業なら、短期的には利害が一致しない部分もある。でも長期的な視点に立ったなら、本をつくる人、売る人、もちろん本が好きな人、皆が仲間になれる。それこそが、バリューブックスが目指す、サステナブルな本の生態系の姿なのだ。

もう、僕の大事な蔵書を売るならバリューブックスしかありえない。高円寺に帰ったら、さっそくスーパーで段ボールをもらってこよう。本を売ったらまた、新しい本を買おう。

(写真=忠地七緒 文=神田桂一)




今回のEARTH MALLイノベーター

株式会社バリューブックス 代表取締役社長
中村大樹さん

1983年、長野県生まれ。高校時代はサッカー漬けの日々を送る。大学進学を機に上京。1年生の春休みを利用して訪れたニューヨークで、独立して働く日本人の若者たちに出会い、起業の夢が膨らむ。大学を卒業した2005年、古本のネット販売ビジネスを単身でスタート。その後、友人たちをメンバーに加えて事業を拡大、2007年に「バリューブックス」を設立した。2010年に本で寄付るする新しい仕組み「チャリボン」を開始。


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