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未来を変える買い物づくり最前線 ♯08 倉庫見学編

古本売ったらどうなる?
知られざる本のリユースを追う!

株式会社バリューブックスさん 2019.7.1 MON

長野県上田市に、183万冊もの古本を扱うバリューブックスという会社があります。その取り扱い数が国内最大級といわれる倉庫の規模にも惹きつけられますが、たとえば売れなかった本を小さなバスに積んで"図書館"にしたり、お客さんが希望すれば買い取り金額をNPOやNGOへの寄付にできたりと、本をめぐってさまざまな活動が展開されています。本が本のままあちこちを回り、皆がもっと本を売ったり買ったりしやすくなる仕組みがある様子。今回の「倉庫見学編」では、そんなバリューブックスに興味を持った、『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』の著者でもあるライターの神田桂一さんによる現地レポートをお届けします!

本を捨てるのは忍びない!

職業柄、本はよく読むほうだ。あまり家にはものを溜めないほうだけど、本だけは溜まっていく一方である。本棚からあふれた本は、うず高く積み上げられていくことになる。

自室は本の山。まったく収まらない……。

ここは中央線沿いの高円寺という街。安い居酒屋や古本屋が多く、お金をかけずに楽しめるし、駅前は歌ったりする人もいて自由な感じだ。快適すぎてもう10年以上住んでいるが、一方で「高円寺に住むライターは売れない」なんてジンクスもある。このままパッとしないライターで人生を終えてしまったらどうしよう……。ここは思い切って、渋谷エリアの中でも特に注目だという奥渋にでも引っ越すべきではないのか!村上春樹は、『羊をめぐる冒険』を書く際に、それまで経営していたジャズ喫茶を思い切って畳み、退路を断ったという。それくらいの覚悟が僕にも必要ではないのか。

……と、そこで困った事態が発生した。引っ越すには本が多すぎるのだ。すべてが愛着のある本で、捨てるには忍びないが、本は売ってもたいていすごく安い。なんでこんな値段なんだ!と言いたくなるくらいなのだ。売るにしても、ちゃんと僕が持っている本の価値をわかってくれる古本屋さんで売りたい、とこれまでネットで買った古本を漁っていて目についたのが、バリューブックスのリーフレット。

同封されていた、イラスト入りのリーフレット。

すると、本の買い取りができます、なんて書いてある。そういえば、バリューブックスから本を買ったことはあっても売ったことはなかった。調べてみると、バリューブックスは10周年の節目の去年、本の査定額を1.5倍に上げたらしい。なかなか、本の価値をわかっていそうな会社ではないか。

どうも、僕が知っていた、すごく安く買い上げる古本屋とはずいぶん違う。それに、何年も価値が下がらない良書を出している出版社に利益を還元したりもしているようだ。古本屋ってそんなに儲かるものなんだろうか?……そう思った僕は、ライターの職権をフルに利用して取材を申し込んだところ、快くOKの返事をもらったのだった。いったいどんなところなのか、そして社長はいったいどんな人なのだろうか。好奇心もりもりで僕は旅立った。そう、バリューブックス本社のある長野県上田市へ!

えっ、1日に2万冊届く……?

新幹線に乗ってゆられること約2時間で上田駅に到着した。実にのんびりしたところだ。温泉とそばで有名だが、こだわりの本屋やパン屋なんかもあるようだ。こののんびり感がバリューブックスの秘密のひとつのような気もする。さっそくバンに乗り換えて、上田原倉庫へ向かった。工場では、バリューブックスの"編集者"である飯田光平さんが、案内役として待っていてくれた。!

こんにちは、今日はよろしくお願いします。

こんなに遠方までありがとうございます(ぺこり)。

飯田さんは、本を買ってくれた方に添える冊子類や、バリューブックスのウェブマガジンなどの編集をしながら、広報PRとして取材対応もする、オールマイティな人だ。僕が受け取ったおしゃれなリーフレットは、飯田さんが作っていたものだ。

倉庫の入り口で待ち受けていたのは、大量のダンボール箱。お客さんからの買い取り依頼の本が詰まっている。いったい一日にどれくらいの本が届くのだろうと聞くと、なんと2万冊以上だという。

工場の入り口には、全国から毎日届く古本の段ボール箱が。

段ボール1箱に入るのが、多くてだいたい50冊。すると一日に400箱届く計算になる。毎日どんどん開けていかないと、とんでもないことになりそうだ。続いてメインフロアへ案内してもらうと……。

え?えぇ~!

どこまでも本棚が!

本棚がずっと奥まで続いている。ある程度の広さは想像していたものの、一度にこんなにたくさんの本を見たことがない。しかも、すごくバラエティに富んでいる。企画はアイデアの組み合わせだと言われるから、ここで企画会議をしたら相当はかどりそうだ。

取材ということを忘れて眺めてしまう僕。

管理の方法は、ジャンルごととかじゃなくて、社長の中村大樹さんが創業のころからやっていたやり方そのままらしい。本のサイズによって、大型本・単行本・文庫本の3列に棚を分けて、あとは入荷日順。この棚に収まっている、売れる状態の本だけで100万冊ほど。そこから1日5~6,000冊売れているという。常にタイトルが入れ変わっているというのがさらにいいと思う。もう、タイトルもバラバラで、まさに「ロングテール」といったところ。

デジタルとアナログの合わせ技

この棚に収まるまではどうなっているのかというと、まず、段ボール箱を送り主ごとにまとめる。一人で2箱、3箱と送ってくる人も多いからだ。次に、本のバーコードを読み取り、あらかじめパソコンに組み込んである査定額を出す。

1冊1冊、手作業でバーコードを読み取る。

ただし、状態で査定額が変わっていったり、買い取れない場合も出てくる。その判断は、人間の仕事になる。だからデジタルとアナログの合わせ技なのだ。最近、AIだなんだと人間の仕事がなくなるなんて騒がれているけれど、本の査定は職人芸なのだ。記者発表をそのまま垂れ流すライターの仕事のほうがよっぽど危ない。気をつけねば。

飯田さんによると、買い取れない本の多くは、汚れなど状態の悪いものよりも、一時期にめちゃくちゃヒットした本とのこと。買った人が多いと、売る人も多い。つまり、古本市場に在庫が余ってしまったタイトルだ。

僕が執筆した本はどうなっているんだろう……。いうほどは売れていないから、買い取れないってことはないと思うけど。まあ、そんなことはどうでもいいとして、そんなわけで一日2万冊届くうち、1万冊が買い取れず、古紙回収に出さざるを得ないのが現状だという。

それを何とかしたくて……なるべく本を本のまま生かす取り組みを、いろいろと模索しています。

聞くと、そんな考えから、バリューブックスで売れずに廃棄するしかない本を学校や社会福祉施設に寄付する「ブックギフトプロジェクト」を数年前から続けているという。ほかにも、小さいバスに本を積んで "図書館"や"本屋"にして、いろいろな場所へ移動しながら本に親しんでもらう「ブックバス」っていうのも楽しそうだ。こういうのって、リユースっていうのかな。なんだかすごく親近感があるな……。

加えて、良書を出している出版社に利益を還元する仕組み(「バリューブックス・エコシステム」という)は、時間が経っても値段が下がりにくい本=長く読み継がれる本=良書、と定義して行われている。つまりバリューブックスは、本の形のまま古本市場を何度も回る本が増えるように、応援しているのだ。ただの古本販売は出版社にも著者にも1円も入らないのに、えらい違いだ。

次に向かったのは、買い取った本が"出品待ち"されている場所。

出品される本が、スタッフさんの手で丁寧にクリーニングされていた。

バリューブックスが買い取ったものの、まだ商品棚に並んでいない本もけっこうあることに驚いた。なんでも、「忙しいときの優先順位は、会社によってそれぞれですよね。バリューブックスの場合は、お客さまへの査定を優先させて、出品を遅らせているんです」だそう。 そ、それは会社にとって損失なのでは……?(だって、商品は早く市場に出せば出すほど儲けにつながるはずなのに……)

まあ、そうなんですけどね……(笑)。

でも、会社の優先順位として、そう決めたのだそう。さっき聞いたリユースだって、決して利益になる取り組みじゃない。むしろマイナスなんじゃないか。なんでそんなことをしているのか、できるのか、謎すぎる……。これは直接問いたださなければ、という思いがふつふつと沸いてくる。

飯田さん……ちゃんとお給料出てますか?!

あっ、大丈夫です(笑)!

1冊ずつ、手をかけて次の人へ

最後に、梱包作業の現場へ。ここで、1冊1冊大事に本が梱包されていく。

本棚の向こうにある梱包用の機械。

本とリーフレットなどを載せてボタンを押すと、向こう側からパッケージされて出てくる。

これが、本が再び誰かに買われるまでの一連だ。一方、下の写真は、古紙回収に回される本の山。もちろん、ただ捨てるよりもお金をかけて再生紙にしているのはえらいと思う(しかも、その過程を自社サイトで真摯に記事にしたりもしている。「本が命を終えるとき-古紙回収のゆくえを追う」。それがまた本の材料となったなら、これも本のエコシステムだ。でも、物語や知恵や情報を凝縮した本という1冊をつくるのに、どれだけ苦労があるか知っているだけに、本が本の用途を失うこの光景は無念だった。

「そういう本は……工場の外にまとめてあります」と飯田さん。

工場入り口の大きなコンテナ。回収されて、再生紙になる。

ブックカフェで新たな出会いを

ただ、ネットでは値がつかなくても、リアルな出会いで売れていく本もある。工場の次に飯田さんが案内してくれたのは、バリューブックスが運営する『BOOKS & CAFE NABO(ネイボ)』だ。デンマーク語で"隣人"という意味らしい。これが、古本屋通いを日課にしている人も唸るに違いない品ぞろえ!しかも価格もとても手ごろなのだから、はっきりいって最強だ。

2階建ての山小屋のような店内。

地元の方のほか、このカフェを目当てに旅行で来た方も。

こんな本屋は高円寺にもない……ぜひ出してくれないか。と、そう思ってハッと気づいた。高円寺という街とバリューブックスってめっちゃ似てるじゃん!

まず、本を本のまま生かすことは、高円寺に異様なほどリサイクルショップがあるのと似ているし、エコシステムはシェアハウスやコワーキングスペースといった高円寺のシェア文化とかぶる。ブックバスや寄付だって、広場や公園でいつも誰かしらが音楽を演奏していて無料で楽しめる文化とかぶる。高円寺が、娯楽に多額を費やさず、身の丈サイズで生きたいと考える人々の価値観とマッチして活気づいているのと同じように、バリューブックスは本にお金をかけられる人もそうでない人も、本にまつわるほかの会社も巻き込みながら、いろいろな形で本に親しめる世界をつくりつつある。

僕は、うなってしまった。高円寺のすばらしさを再発見したと同時に、しかし街と企業は全然違うのに、なぜ一企業にそんなことができるのか?という思いが頭をもたげたからだ。だって、企業は儲からなければ存続できない。特に決して成長産業ではない本の業界の、それも古書販売だったらできるだけ安く買って高く売り、かつその数を追い求めないと厳しい。だから僕の大事な本も一般的な古本屋では「10円で買うよ」といわれてしまう。

バリューブックスが「本を本のまま生かす」ことに取り組めるのは、なぜなのか?これは、中村社長にこの不思議な会社の仕組みと思想を根掘り葉掘り聞かねば!……ということで、じっくりインタビューできることになったのだった。

――インタビュー編は、未来を変える買い物づくり最前線 #09をご覧ください。

(写真=忠地七緒 文=神田桂一)

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