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2018/11/28更新

買い物は、投票と同じ!? 自分だけの「買い物のものさし」を育てよう

「単に安かったから」とか「早く届くから」、「人気あるらしいから、なんとなく」で買うものを選んでいませんか? でも、たまには商品が届くのをワクワクしながら待ってみたり、「“あの人”がつくっているから」「“あのお店”で売っているから」という理由で買ってみるのもいいかもしれない。 コミュニティデザイナーの山崎亮さんは日本や世界各地を訪ねては、独自の基準で買い物を楽しんでいるそう。最近借りた仕事部屋には、各地で集めたものを並べ始めているのだとか。そんな山崎さんに「未来を変える買い物のものさし」をEARTH MALL編集部のサキムラ、ヒライ、コンドウが聞いてみました。

山崎さんの「買い物のものさし」とは?

まずは、山崎さんがコミュニティデザイナーとしてどのような活動をされているのか、教えてください。

最初に、「コミュニティデザインとはなにか」というお話をしますね。僕の考えるコミュニティデザインとは、地域の人たちの「みんなのことは、みんなで話し合って決める」をお手伝いすること。「みんなで」がコミュニティで、「決める」の部分がデザインなんです。

「コミュニティデザイン」と聞くと、「コミュニティ」を「デザイン」しているのかと思いますが、そうではないんですね。

はい。コミュニティの人たちと、一緒にデザインをしていく行為が「コミュニティデザイン」だと考えています。デザイナーというのは、特別な技能を持った人たちのことを指すのではなく、どんな人でもデザイナーの素質を持っていると考えています。だから、「地域の公園や図書館をこれからどうしていこう?」という案件が持ち上がれば、まずは地域のみんなでその公園や図書館をどう使いたいか自分なりの意見を話し合う。そして、そのためには何をする必要があるのかを決めていく。そのお手伝いをするのが僕の仕事です。

では、本題に入りますが、ちょうど山崎さんは最近、国内外で買ったものを仕事部屋に並べ始めたとのことで。SNSで紹介されているのを見ましたが、おもしろいですね。これらの「買い物のものさし」について教えてもらえますか?

あはは、メキシコのチャリティショップで買ったライオンっぽい置物とか、12世紀につくられたリャマの置物とか、真鍮のクジラとかですよね(笑)。何の役に立つかわからないもの、何の動物なのかもわからないようなものが好きなんです。新潟県の南魚沼市で買った、自然薯を掘るための道具、なんていうのもあります。

そのためだけの道具があるんですか?

そうなんですよ。山芋を掘る人が自分で使うためにつくった道具なんですよね。木の枝に刃がついているシンプルなつくり。古道具屋に行ったら野ざらしでたくさん並んでて、握ってみて一番手にしっくりきたものを買いました。きっと、僕と同じような大きさの手の人が使っていたんだろうなと思います。

つくった人や以前に使っていた人とのつながりを感じられるって、おもしろいですよね。

これを買ったのが、地域の蔵から出てきたものだけを売るお店なんです。地域で長い時間をかけて大切に使われてきたものを、次の世代につなげていくという思いで運営されている。そういうお店は長く続いてほしいので、何か買いたいと思ったんです。

山崎さんの「買い物のものさし」(1) 応援したいから買う

お店を応援したい、という気持ちから買い物をされたんですね。ジョン・ラスキンの頭像も味がありますねえ。

ジョン・ラスキンは19世紀のイギリスの美術評論家で、アーツ・アンド・クラフツ運動で有名なデザイナー ウィリアム・モリスの師匠にあたる人です。僕は、彼の「人生(LIFE)こそがあなたの財産だ」という考え方がすごく好きで。だから僕もLIFEという言葉を大事にしています。自分の会社「studio-L」という名前の「L」はLIFEのLなんです。

そうだったんですか!

そんなジョン・ラスキンの足跡を辿ろうと、会社のメンバーでイギリスに行ったことがあるんです。このラスキンヘッドはそのときに買ったもの。「ラスキンミュージアム」に併設された「オネストショップ(正直屋)」というところに売っていました。でも正直、あんまりラスキンに似てないし、つくりも粗い。「これはなんだろう?」と思っていたら、どうやら市民がつくった貯金箱らしいんです。

へええ。

ラスキンが晩年を過ごした邸宅の近くに、ローソンパークというアーティストたちが集まる公園があるんですが、ラスキンヘッドはそこでつくられ、売り上げは公園の維持管理費になると書いてありました。単なる商品ではなく、「市民を巻き込んだ地域活性プロジェクト」を担っている貯金箱だったんですね。

山崎さんの「買い物のものさし」(2) 語りたいから、買う

今話していて思ったのですが、僕は「応援したい」という気持ちと、「買ったものについて語ったり心の中で反芻したりしたい」という二つの気持ちから、買い物をしているようです。これは、今までの消費とは違う感じがします。

買い物には、応援や自己表現の側面もあるんですね。

楽天自体もともとは、「地方にある小規模店舗でも、全国に向けて商売できるようにする」という思いで始まった会社。だから実は楽天市場の中にも、山崎さんが好きそうな地域に密着している、ユニークなお店がいっぱいあります。

僕が地域で出会って、ずっと買い続けてるのは、瀬戸内海の佐木島のみかん、柑橘類ですね。
佐木島には、人口減少で管理できなくなったみかん畑があって、そこに野良みかんがなってたんですよね。この島にはみかんが溢れていますから、それを「売り買いする」という感覚がまったくなくて、僕がそれをもったいないと言ったら、地元の人が野良みかんを箱詰めして売ってくれたんです。それを、毎年送ってもらっています。味が濃くて本当においしいんですよ。マーケティングではなく、その商品に価値を見出した人、応援したい人が買うというのが、本来の買い物のあり方な気がしますよね。

速さ、安さだけで店を選んでない?

楽天市場では、和歌山県の北山村の「じゃばら」というゆずのようなすだちのような果物が人気なんです。これは、もともと地域に当たり前にあった果物なので、地域の人たちもあまり価値を見出していませんでした。でも、それを楽天で売り始めて、テレビで紹介されてから、ものすごい人気になりました。今では村の宝だと言われているんです。

じゃばら、和歌山に行ったときにジュースを見かけました。そんな物語があったんですね!

急に人気が出たというと、僕らの活動がテレビ番組で取り上げられたときに、その中で兵庫県家島の海苔の佃煮が紹介されたんですよ。そうしたら、いっきに1,000件ほどの注文が入ってしまった。でも、おばあちゃんたちが手作業で煮詰めているものだから、少しずつしかつくれない。それで、「いつまでも待てる人だけもう一度注文してください」とお願いしたら、800件の人が注文してくれました。

いくら待ってもほしい、という人が800人もいたんですね。

結局、半年以上待ってくれた人もいたんです。たくさん待ったからこそ、届いたときの感動もひとしおなのでしょうね。「こんなふうに食べました」というお手紙をくれた人もいました。

インターネットでの買い物は、ワンクリックですぐ届く「速さ」が魅力だと思われていますが、そういう「待つ買い物」の楽しみというものもありますよね。

いろんな買い物の楽しみ方があっていいと思うんですよね。

オンライン上でも、お店の人とのつながりはできるんです。「他のお店じゃなくてここから買いたいから、この商品を仕入れてほしい」という声をもらったとか、「実際にお店の人に会ってみたい」とわざわざ事務所を訪ねに来てくれるお客さまがいる、といったお話も出店者さまからよく聞きます。

オンラインでもそのお店に愛着がわけば、実際に訪ねてみたくなるはずです。そうして、この店から買いたい、と自分で選ぶことが大事だし、そうした買い方がお店や地域の産業が長く続くための力になりますよね。

買って終わりじゃなくて、そこから生産者や売っている人とつながりが生まれるのも買い物の楽しみの一つですよね。

買い物とは、投票である

僕は普段のコミュニティデザイナーとしての活動で、「自分たちのことは自分で決める」人を増やしていきたいと考えているんです。少し固い言い方をすると、「民主主義の練習場」をつくっているような感覚ですね。

民主主義の練習場! まさに、Earth Mallがやろうとしている、買い物の文化を変えて、未来に変化を起こしていこうという活動と重なる気がします。

そうですよね。民主主義の観点からすると、買い物って投票なんです。自分はどのお店の考え方、方針に共感しているのか表明すること。だからちゃんと考えないまま買い物を続けていたら、政治と同じで悪いほうに流れていってしまいます。
たとえば、「ここが安いから」「みんなここで買ってるから」と買い物をする店を選ぶのは、政党がどんな理念や政策を掲げているか知らないで、「消費税が下がるらしいよ」とか「まわりがここに入れてるから」とあいまいな理由で投票先を選ぶのと同じことです。社会は一人ひとりの行動の積み重ねでできていますから、「日々の買い物も、きちんと自分で考えて意思決定する」という意識が根付けば、未来は変わっていくのではないでしょうか。

まさに、そうですよね。買い物も、政治も、僕らの未来とつながっている。

みんなの買い物が変われば、未来は変わる

少し前から、ストーリーがないと物が売れない時代だと言われてきたので、売り手側、生産者側はけっこうメッセージや物語を発信してるんですよ。でも、受け取る側はそこにほとんど興味を示さない。そうした情報の非対称性が、政治でも買い物でも起こっている気がします。

たしかに、受け手側の買い物リテラシーが追いついていないのかもしれません。そうなると、「速い」「安い」で選んでしまいがちになります。

買い物って、誰もがする、いちばん身近な意思表示の方法ですよね。だからこそ、ただなんとなく「安い・速い」とか「みんな買ってるから」と選ぶのではなく、「私は誰を応援したいんだろう」とか、「私はどの店に共感しているのかな」といったことを少しでも考えてもらう。Earth Mallがそういった「買い物のものさし」を考えるきっかけとなる場になって、カッコいい買い物をする人がどんどん増えていってほしいですね。

ありがとうございます。私たちも、未来を変える商品を紹介するだけでなく、インタビューやイベントを通じて、Earth Mallをお客さまが自分なりの「買い物のものさし」を育てる場にしていければと考えています!

まさに、みんなの「買い物のものさし」が変われば、未来は変わる!

(文=崎谷実穂、写真=忠地七緒)


編集部Picks!


今回のEARTH MALLキュレーター

studio-L代表、コミュニティデザイナー、社会福祉士
山崎亮さん

1973年愛知県生まれ。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『コミュニティデザインの源流』(太田出版)、『縮充する日本』(PHP新書)など。


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